2025年11月22日

本条恵歌集『星とアスパラ』

著者 : 本条恵
短歌研究社
発売日 : 2025-09-29

「未来」所属の作者の第1歌集。

塩水にリンゴウサギは浸される ワニを騙した報いのように
太陽じゃないとうすうす気づいてるような形に伸びる豆苗
水槽の反射が頭上にゆらめいて生物室はいつも眠たい
一筋の道の向こうは月曜が燃やせるゴミの日じゃない世界
死ばかりを見せてごめんね薄布で軽く拭って真珠を仕舞う
  奇石博物館にて
自らの名に「石」の字があることを学芸員は嬉しげに言う
隣家には隣家のためのお母さん二十三時の掃除機の音
窓側のベッドは差額 二千円の夜景をスマホのカメラに収める
蛇行しているのは川か我々か 空知川こえまた空知川
他をすべて「はずれ」にしてやろうなんて星形のピノは思っていない

1首目、変色防止のために浸した姿から因幡の白兎へと連想が飛ぶ。
2首目、台所の照明の下でひょろひょろと伸びて再利用される豆苗。
3首目、上句の描写がいい。高校時代の気怠い感じがよく出ている。
4首目、地域によって収集日が異なる。「世界」と言ったのがいい。
5首目、葬儀や法事の時にだけ身に着ける真珠のネックレスのこと。
6首目、きっと石のことが好きで好きでたまらない人なのだろうな。
7首目、一家に一人「お母さん」をする人物が配属されている感じ。
8首目、四人部屋の窓側は割増料金。それでも入院中の心がなごむ。
9首目、空知川に沿って走る根室本線。列車で旅する体感が伝わる。
10首目、星形を「あたり」と思うと通常の形は「はずれ」になる。

2025年9月29日、短歌研究社、2300円。

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2025年11月21日

岸和田

先日、別邸歌会の会場予約と下見のために岸和田に行ってきた。


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会場となる「自泉会館」は岸和田城のすぐ近く。


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どーんと天守閣。1954年に復興されたもの。

江戸時代には岡部氏が13代にわたって岸和田藩を治めた。


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天守閣からの眺め。

天気が良くて、遠くの方に大阪湾も見えている。


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続いて「きしわだ自然資料館」へ。

お城に入るときに「岸和田城天守閣・きしわだ自然資料館・岸和田だんじり会館」の3館共通券を買ったもので。


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ここは剥製の展示がとにかくすごい!

大量の動物の剥製がところせましと並んでいて、見応え十分だ。


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続いて「岸和田だんじり会館」へ。

共通券で見て回れる3館は、徒歩数分で移動できる距離にある。


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だんじりに施された細かな彫刻が見事。

だんじりの大屋根部分に乗ったり、囃子の鳴り物を奏でたりできるコーナーもあって、賑やかだった。


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旧四十三銀行岸和田支店。

1919(大正8)年にできた建物。今も銀行として使われている。


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南海鉄道の蛸地蔵駅。

1925年(大正14年)に建てられた駅舎で国の登録有形文化財になっている。
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014266


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駅舎にあるステンドグラス。

岸和田、いいところでした。

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2025年11月20日

森崎和江『能登早春紀行』


『能登早春紀行』(1983年)と『津軽海峡を越えて』(1984年)の2冊を収めた文庫オリジナル版。

作者の住む福岡から能登半島へ渡った海女の歴史をたどりつつ、さらに北前船の往き来のあった北海道の渡島半島へと旅を続けていく。

その土地その土地に暮らす人に会って話を聞き、集落を丹念に歩き回って思考をめぐらす。民俗学・歴史学・社会学の調査をするかのような旅の記録である。

その航海の折の風待ち港は、酒田から江戸までの間に十カ所ほど定められ、航路の安全をはかるために幕府の保護が加えられていた。日本海側には、佐渡の小木、能登の福浦、但馬の柴山、石見の温泉津、長門の下関がある。
珠洲は人口三万二千人。人口比率からいえば農業が主体の市とのこと。輪島市も人口三万三千人ほどで、輪島も珠洲もその人口が市街地に集中するばかりでなく、海辺から山間に散って集落を営んでいる。
真宗講は日々の暮らしの中で育ちそれを支えて来た。北陸を中心にひろく浸透していることについて、その歴史的由来もさることながら、信徒がどのような生活の中でどのような姿勢でそれを日常化しているのかということのほうが私の関心をさそう。
松前にやってくると、実にしばしば日本海側の町や村の名が出てくる。それが私にあらためて海路の長い歴史を感じさせる。日本のどこの町でも多くの移住者がいて、さまざまな寄り合いをみせているのだが、ここは日本海航路の関係者に集中しているので印象が深い。
私たちが赤レンガの建造物に魅せられるのは、それが一枚一枚人の手で積み重ねられているせいだ。その重なりが、一日一日を踏み渡る人生そっくりに見えてしまうからだろう。

森崎和江、とてもいいな。

これまで読んでこなかったのが申し訳ない感じ。他の著作もどんどん読んでいきたい。

2025年1月25日、中公文庫、960円。

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2025年11月19日

虚珈琲

フレンテ歌会の仲間と、大阪の関目にあるカフェ「虚珈琲」に行ってきた。
https://www.instagram.com/kyocooffee/
https://cafeslife.jp/blog/cafeowner/kyocoffee/

京都から京阪電車で行くと、京橋駅の2つ手前が関目駅。お店は駅から徒歩3分くらいのところ、商店街から少し入った路地にある。

美味しいコーヒーとドーナツをいただきながら、短歌も詠んでいる店主の柏本さんといろいろ話をした。

とても雰囲気の良いお店で、またちょくちょく寄ってみたい。

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2025年11月18日

田宮朋子歌集『光に濡れる』


2015年から2024年までの作品503首を収めた第5歌集。

あかつきの雪野のふかき靄のなかヘッドライトが道なりに来る
まみどりの薹菜たつぷり食べる春血のくれなゐが濃くなるといふ
大雪に半ば埋もるる墓群の墓のひとつに「南無」の文字見ゆ
八月に生まれて逝きし二人子の足はこの世の土踏まざりき
寺泊遊郭跡は畑となり蟬声のなかをみなへし咲く
光とも影ともみえて窓の外ほたりほたりと牡丹雪降る
子をもたぬわれに末期の母言ひきおまへのときは迎へてあげる
凸凹の圧雪の道ハンドルの遊びにゆだねゆるゆると行く
「おのれこそおのれのよるべ」十五の春聞きにし父のこゑをわすれず
糸魚川産の翡翠は海わたり新羅の王の冠をかざりき
遠花火見ながら夫と歩く道いづれか生きて思ひ出とせむ
あこがれは猫にもあらむ秋陽さす網戸に鼻をつけて風吸ふ

1首目、ぼんやりしたヘッドライトの光の動きで道が浮かび上がる。
2首目、色のイメージが鮮やか。人々の暮らしの中での言い伝えだ。
3首目、「南無阿弥陀仏」の上の部分がわずかに雪の上に出ている。
4首目、生後三日で亡くなった子。何十年経っても消えない悲しみ。
5首目、「をみなへし」は漢字で書くと女郎花。遊女の姿が浮かぶ。
6首目、モノクロの影絵のような世界。初二句がいかにも牡丹雪だ。
7首目、母の言葉に優しさと凄みを感じる。一人で死ぬのは寂しい。
8首目、ハンドルを握る手に力を入れ過ぎると、かえってよくない。
9首目、住職であった父。後に生きる上での支えとなったのだろう。
10首目、日本海側と朝鮮半島の古代からの行き来を感じさせる歌。
11首目、後に残された一人にとって良い思い出になるだろう場面。
12首目、外の世界を黙って眺めている猫の姿。描写が実に丁寧だ。

2025年9月27日、角川文化振興財団、2600円。

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2025年11月17日

『について』について

第6歌集『について』について雑誌やブログ等で多くの書評や一首評などをいただいております。ありがとうございます!

【書評】
・恒成美代子「暦日夕焼け通信」(2025年5月30日)
 http://rekijitsu.cocolog-nifty.com/blog/2025/05/index.html

・山名聡美「note」(2025年8月18日)
 https://note.com/satomiyamana/n/n291d26c094b5

・門脇篤史「選択肢のひとつ」(「現代短歌新聞」2025年8月号)
・山本まとも「土地の記憶へ」(「短歌研究」2025年9・10月号)
・門脇篤史「今月の歌」(「未来」2025年9月号)

・工藤吉生「存在しない何かへの憧れ」(2025年9月22日)
 http://blog.livedoor.jp/mk7911/archives/52337883.html

・大西淳子「みそひと書房」(「NHK短歌」2025年11月号)
・大西淳子「マイ・セレクト」(2025年11月1日)
 https://www7b.biglobe.ne.jp/~juntan/posts/blog46.html

・田村元「立ち止まらせる歌」(「短歌往来」2025年11月号)
・寺阪誠記「書評」(「角川短歌」2025年11月号)
・小原奈実「知的主体の孤独」(「うた新聞」2025年11月号)
・大松達知「いかたこ・きつねたぬき」(「現代短歌」112号)

【一首評】
・俵万智「新々句歌歳時記」(「週刊新潮」2025年7月3日号)
  「お父さん」ではなく「お義父さん」だろう電車にすわる男女の
  会話
・長谷川櫂「四季」(「読売新聞」2025年8月25日)
  黒蟻に集(たか)られているクワガタのどんな結末もわれは諾う

・東直子「短歌の杜」(「婦人画報」2025年10月号)
  沿わせつつ刃を動かせば親指はすでにあじわう梨の甘みを
 https://www.fujingaho.jp/culture/column-essay/a68029254/higashinaoko-250928/

・小田桐夕「波と手紙」(2025年9月15日)
  雨の日に長く線路を見つめてはいけない 死後も濡れているから
 https://odagiri-yu.hatenablog.jp/entry/railway

・内山晶太「日々のクオリア」(2025年10月1日)
  生きている時間の方がみじかくて冬川跨ぐ橋をわたりぬ
 https://sunagoya.com/tanka/?p=35860

歌集『について』は版元の現代短歌社で販売中です。
(メール・電話・オンラインショップから購入できます)
 http://gendaitanka.jp/book/kashu/123/

また、私のBOOTHでも「送料無料・サイン入り」で購入できます。
https://masanao-m.booth.pm/

他にも葉ね文庫やAmazonなどで販売しておりますので、どうぞよろしくお願いします!

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2025年11月16日

第22回別邸歌会

今日は生駒ふるさとミュージアム(奈良県生駒市)で第22回別邸歌会を行った。


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大和西大寺から近鉄奈良線に乗ると、ラッピング列車「ならしかトレイン」だった。外観にも内装にも鹿がいっぱい。床は草色、シートも草色や鹿色になっている。吊り皮にも鹿が付いていて楽しい。


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会場の「生駒ふるさとミュージアム」。

昭和8年に建てられた旧生駒町役場を改修した郷土資料館で、国の登録有形文化財に指定されている。館内はきれいにリニューアルされて昔の面影はないが、コの字型の建物の構造や中庭などに役場だった時代を感じる。


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中庭はこんな感じ。


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町役場だった時代に正面入口で撮られた集合写真が展示されていた。

歌会には16名が参加。そのうち4名が初めての参加だった。別邸歌会は毎回場所を変えて開催しているので、自然とメンバーも入れ替わるのが楽しい。

13:00から17:00まで、一人2首の計32首について議論した。歌会は遠慮せずに思ったことを何でもどんどん言うのが大事。少し言い過ぎてしまうくらいの方がいい。終了後は近くの喫茶店「オランダ屋」に行ってお喋り。

次回(来年1月11日)は旧大津公会堂(滋賀県大津市)で開催します。どなたでもお気軽にお申込みください。

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2025年11月15日

なべとびすこ歌集『デデバグ』


第1歌集。

飲む前の水は重たい手荷物で飲んだ途端に自分に変わる
ふるさとを離れた人がふるさとを語るテレビをふるさとで見る
ゴミ袋ちょっと濡れてる 枯れた日と捨てた日どっちが命日だろう
信号を無視するときこそ信号を最も強く意識しながら
中間を取れば三ノ宮になっていつも誰かと会うための街
僕よりも僕のために怒ってくれて花束だった 花束だったな、
「じゃあまた」の「また」のころには春だろう 風をリュックにしまって歩く
「音楽もぜんぜん聴けんくなった」って言われてほうじ茶ラテが揺れてる
灯籠は下流で回収されるらしいそれでも君が灯した光
19時まで店員だった店員が私服になって帰っていった

1首目、ペットボトルの水は飲んでしまえばもう重さがなくなる。
2首目、ふるさとに住み続ける作者は複雑な気分で聞くのだろう。
3首目、花瓶の花を捨てる場面。上句の細かな描写が効いている。
4首目、無視することでかえって強く意識する。信号だけでなく。
5首目、大阪と姫路付近の人が会う場合。それ以外では行かない。
6首目、その場面を何度も思い返しては嬉しさを噛み締めている。
7首目、上句が鮮やか。次に会うときにはもう季節が変っている。
8首目、仕事などで余裕がない相手。何と声を掛けたらいいのか。
9首目、海へ行くことはない灯籠だが祈りの気持ちは本物である。
10首目、制服のときとは違う印象の私服姿。もう店員ではない。

連作としては、結婚して東京に転居した先輩を詠んだ「クジラのなまえ」18首が特に良かった。

2025年10月13日、左右社、1800円。

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2025年11月14日

今後の別邸歌会

 「別邸歌会」チラシ 2025.11.jpg


今後の別邸歌会の予定です。

・2026年1月11日 旧大津公会堂(滋賀県大津市)
・2026年3月21日 自泉会館(大阪府岸和田市)
・2026年5月 和歌山県内【予定】

どうぞ、お気軽にお申し込みください。

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2025年11月13日

「うた新聞」2025年11月号

「うた新聞」2025年11月号の下記の欄で、それぞれ歌集『について』を取り上げていただきました。

・藤島秀憲 短歌想望「蓄積の文学 健在の文学」
「共感」こそが「ただごと歌」の本質であって、気づかないできたことに気づかせてくれて、代わりに歌ってくれたものこそが「ただごと歌」だと思っている。

・田宮智美 作歌に困ったら読む歌集「見つめる」
こうした丁寧な観察の効いた一連を読むと、あらためて事象や人・自分の心を見つめよう、詠おう、と奮い立たせてもらえます。

・小原奈実 書評「知的主体の孤独」
これらの歌では知的認識が世界を新しく見せる方向よりも、主体自身の存在の彫りを深める方向に働いている。

ありがとうございます。
3か所も載っているなんて祭だな。

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2025年11月12日

大道芸ワールドカップ in 静岡

先日東京へ行った帰りに、せっかくだからと静岡に寄った。


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富士山はこんな感じ。


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目的は「大道芸ワールドカップ in 静岡」。

国内外から58組92人のパフォーマーが参加して、駿府城公園や街のあちこちで4日間にわたって大道芸を披露している。今年で32回目を迎える歴史あるイベントだ。


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「アスタリスクノヴァ」の演技。


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最後はこんな高さに。10メートル以上の高さのパイプの上で逆立ちするので、見ているだけでけっこう怖い。

他にも「桔梗ブラザーズ」「SPIN stAr(スピンスター)」「Compagnie Zalataï(コンパニーザラタイ)」「HOOPER MAEP(フーパー マエピー)」「アストロノーツ」「Teatro Pavana(テアトロ パバナ)」「idio2(イディオッツ)」「ゼロコ」などの演技を観た。

途中から雨が降り始めるあいにくの天気だったけれど、見応え十分。雨はこの初日(10/31)だけで、翌日からの三連休は好天に恵まれたようで良かったと思う。

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2025年11月11日

雲嶋聆歌集『紫陽花に祈ふ』

著者 : 雲嶋聆
短歌研究社
発売日 : 2025-09-30

「中部短歌会」所属の作者の第1歌集。
タイトルの「祈ふ」は「こふ」。

飛車の威を借る歩か我も年上の部下の仕事にダメ出しをして
かの日蜘蛛に喰はれし蝶の叫喚の嫋嫋たるをわがうちに聴く
どこまでも、どこまでも、空。 〈縊死〉ののち翅を持ち始むる蟻の群れ
泥濘になほ白かりきたんぽぽも紋白蝶の産卵管も
はよしりん、やぐい子だねえ。センセイの親指がおしつける名札(おなまえ)
         注 やぐい:三河弁で「どんくさい」。
昼休み 愛想笑ひの絆もて同僚と行く〈ラーメン二郎〉
彼岸へのモールスめきて蛍火は明滅しつつのぼりゆきけり
#呟いてみた 「生きたい」と「死にたい」がぶつかる交差点
特攻を生き延びし祖父七十年のちのベッドに横たはりをり
母の死の後をひつそり生きてゐる秋の日差しを眩しみながら

1首目、「虎の威を借る狐」のもじり。会社内での上下関係の様子。
2首目、細く長く聞こえる叫び。声にならない悲鳴が心の中にある。
3首目、岸上大作を詠んだ一連の歌。羽蟻の飛翔のイメージが鮮明。
4首目、泥に塗れたものたち。白さゆえに一層痛ましく感じられる。
5首目、滋賀から愛知へと転居していじめられた経験。先生もまた。
6首目、「愛想笑ひの絆」が秀逸。自分だけでなく相手も愛想笑い。
7首目、蛍の光を死後の世界への通信として見ているのが印象的だ。
8首目、ハッシュタグを用いた一連。生きたいと死にたいは紙一重。
9首目、1945年と2015年。祖父が生き延びたから今自分がいる。
10首目、親を亡くした後の茫漠とした喪失感が深く滲み出ている。

2025年9月25日、短歌研究社、1800円。

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2025年11月10日

映画「チェンソーマン レゼ篇」

監督:吉原達矢
原作:藤本タツキ
制作:MAPPA
声優:戸谷菊之介、上田麗奈、楠木ともり、坂田将吾ほか

先日、山種美術館で絵を見たあとに渋谷に寄った。渋谷は高校・大学時代によく行った街。30年以上経ってだいぶ変ったけれど、それでもやっぱり懐かしい。

ぶらぶら渋谷を歩いていて、せっかくだから映画でも見ようかと思って映画館に入ってチェンソーマンを観た。

心がしんみりして、とてもいい。
周りは若者ばかりだった。

TOHOシネマズ渋谷、100分。

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2025年11月09日

三井寺(園城寺)吟行のご案内

11月30日(日)に滋賀県大津市の「三井寺」(園城寺)で吟行をします。午前中に境内を自由に散策して歌を2首作り、昼食を挟んで午後から歌会という流れです。

参加者は「パンの耳」のメンバーを中心に私を含めて8〜10名程度の予定。ご興味のある方は松村までご連絡ください。吟行は初めてという方も大歓迎。お待ちしております!

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2025年11月08日

毎日新聞校閲センター『校閲至極』


2018年に始まった「サンデー毎日」の連載コラム「校閲至極」を書籍化したもの。校閲の現場で体験したこと、感じたことなど74篇が収められている。

「吹奏学部」はワープロが普及する前、手書き原稿の時代から指摘され続けてきた息の長い誤りで、2020年も大量発生し根絶されることはありませんでした。
「ばえる」は2022年1月に発行された『三省堂国語辞典』の第8版で見出し語に追加されるなど、大出世を遂げた。江戸時代の国学者・本居宣長は「古代日本語には濁点で始まる言葉がほとんどない」という発見をしており、単独で「ばえる」と読むのは不自然だと言う声が根強かった。
一般に固有名詞は東日本では連濁、西日本では連濁回避の傾向があると聞く。兵庫出身の柳田(やまぎた)国男、和歌山出身の南方(みなかた)熊楠という民俗学者2人の例もある。
平成初期まで新聞製作の現場では「?」を「みみ」と当たり前に読んでいました。「詠み合わせ」、つまり手書き原稿と、パンチャーが入力したものの照合のために2人1組で声を出して照合していたとき、記号には特殊な読み方が用いられていました。

校閲というのは地味で大変な仕事だけれど、言葉に関する知識が詰まっていて楽しそうだなと思う。

2023年8月30日、毎日新聞出版、1300円。

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2025年11月07日

馬場昭徳歌集『父さんの帽子』

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400首を収めた第6歌集。

新聞の訃報欄などなきときの八月の死者 犇き合ひて
樟の木の影過ぎりつつゆつくりと物言ふ人でありたしわれは
山頂にわが立ちをれば長き風短き風が吹き抜けてゆく
人間の喜怒哀楽のその中の哀しさだけが鮮度を保つ
鍋に煮つつ何か加へてにんまりとして見せたりし妻の横顔
投票率三十八パーセントの海に沈みてゆきしわれの一票
七十四歳の人がテレビに映りゐてああこれが七十四歳かと思ふ
冷蔵庫に砂糖容器を入れむとし人生のこと深く思へり
あらがねの土煙立ち戦争は人の命を国有化する
採血のしやすきことを褒められてわが前腕に静脈は浮く

1首目、作者は長崎市生まれ。原爆で亡くなった人々のことを思う。
2首目、樟の木のようにどっしり構えてとは思うがなかなか難しい。
3首目、「長き風」「短き風」が面白い。風の長さが見えるみたい。
4首目、他の感情と違って時間とともにあまり薄れゆくことがない。
5首目、ただの料理の場面だが、こんなふうに詠むとちょっと怖い。
6首目、投票した候補の落選よりも投票率の低さに気分が落ち込む。
7首目、自分の年齢や姿を客観視するのは難しいが他人だとわかる。
8首目、一体おれは何をしようとしているんだと思って愕然とする。
9首目、三句以下が箴言のように響く。「国有化」をこう使うとは。
10首目、別に何の手柄でもないけれど褒められるとやはり嬉しい。

2025年10月7日、なんぷう堂、1000円。

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2025年11月06日

流行語大賞の候補30語

今朝の新聞に今年の「新語・流行語大賞」にノミネートされた30語が発表されていた。

流行にはまったく疎いのだが、知っているもの/知らないものに分けると以下の通り。

・知っているもの
「オールドメディア」「オンカジ」「企業風土」「教皇選挙」「緊急猟銃/クマ被害」「国宝(観た)」「古古古米」「戦後80年/昭和100年」「卒業証書19.2秒」「トランプ関税」「長袖をください」「二季」「ぬい活」「働いて働いて働いて働いて働いてまいります/女性首相」「物価高」「フリーランス保護法」「麻辣湯(マーラータン)」「ミャクミャク」「薬膳」

・知らないもの
「エッホエッホ」「おてつたび」「7月5日」「チャッピー」「チョコミントよりもあ・な・た」「ビジュイイじゃん」「ひょうろく」「平成女児」「ほいたらね」「ラブブ」「リカバリーウェア」

結果は19対11。思ったより知ってるな。

せっかくなので知らない言葉について調べてみる。

「エッホエッホ」…フクロウの雛が走る写真から生れたネットミーム
「おてつたび」…お手伝い×旅。働きながら旅を楽しむ
「7月5日」…日本で大災難が起きるという噂が広まった
「チャッピー」…ChatGPTの愛称
「チョコミントよりもあ・な・た」…AiScReamの楽曲「愛♡スクリ〜ム!」の歌詞
「ビジュいいじゃん」…M!LKの楽曲「イイじゃん」の歌詞
「ひょうろく」…お笑い芸人の名前
「平成女児」…2000年代初頭に小学生だった女子が当時のキッズ文化を懐古する流行
「ほいたらね」…朝ドラ「あんぱん」の舞台の土佐弁で「またね」の意味
「ラブブ」…香港のアーティスト Kasing Lung が手掛けたキャラクター
「リカバリーウェア」…着ることで疲労回復や休息の質を高める機能性ウェア

なるほどねえ。

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2025年11月05日

「日本画聖地巡礼2025」

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先日、山種美術館(東京都渋谷区広尾)で開催されている特別展「日本画聖地巡礼2025−速水御舟、東山魁夷から山口晃まで−」を観てきた。

日本各地や海外を描いた日本画に現地の写真を添えて展示するという趣向の展覧会。

今回の目当てはポスター上段に載っている速水御舟の「名樹散椿」。以前から速水御舟の絵を生で見たいと思っていて、ようやく念願が叶ったという感じ。

デザイン性と写生が合わさって実に魅力のある絵になっている。現物は2曲1双の屏風なので、Wの字のように立っていて遠近感や奥行きがある。そのあたりも生で見ないとわからないことだろう。

計51点の作品のうち、他に印象に残ったのは、山口晃「東京圖 1・0・4輪之段」、奥村土牛「鳴門」、西郷孤月「台湾風景」など。

とても良い展覧会だったので珍しく図録も買ってしまった。

それにしても、速水御舟すごいな……

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2025年11月04日

カルチャー講座「短歌を楽しむ」

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先月から大阪の毎日文化センターで新たに「短歌を楽しむ」という講座を始めました。毎月第2・第4水曜日13:00〜15:00です。

https://www.maibun.co.jp/course-detail?kouzainfo_id=504

初心者からベテランの方まで、短歌のうまくなりたい方はどなたでもお気軽にご参加ください。

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2025年11月03日

岩田文昭編『嘉村礒多集』


以前、『文学傑作選 鎌倉遊覧』に収録されている嘉村礒多の「滑川畔にて」が強く印象に残った。
https://matsutanka.seesaa.net/article/514911985.html

他にも嘉村の作品を読んでみたいと思って買ったのが本書。小説8篇、随筆6篇、書簡6通が収められ、「私小説の極北」と称される作家の世界がたっぷりと味わえる。

作品の内容とは別に、大正から昭和にかけての暮らしの様子が窺える描写が随所にあった。

天気の良い日には崖上から眠りを誘うような物売りの声が長閑に聞えて来た。「草花や、草花や」が、「ナスの苗、キウリの苗、ヒメユリの苗」という声に変ったかと思うと瞬く間に「ドジョウはよござい、ドジョウ」に代り、やがて初夏の新緑をこめた輝かしい爽やかな空気の波が漂うて来て、金魚売りの声がそちこちの路地から聞えて来た。

季節ごとにさまざまな振売りの声が行き交っていたことがわかる。今では竿竹売りと石焼芋くらいになってしまったけれど。

きょう立秋なのに秋立たばこそ、朝来一トむらの草を揺がす風もなく、午前六時の気温は例年の平均七十三度を凌ぐこと四度、七十七度を示し、午前十時半遂に今年最高の九十五度余九十六度近きを示し

気温が摂氏ではなく華氏で表されている。今では国内で華氏を見かけることはほとんどないが、戦前はけっこう用いられていたようだ。華氏77度は摂氏25度、華氏96度は摂氏35度くらい。今に比べればまだマシかも。

キューピー射的というのは、ユキが銀座の百貨店で買って帰った子供への土産だった。初めはチャンチャン坊主とばかし思っていたが、よく見るとメリケンで、それ等七人のキューピー兵隊を鉄砲で撃って、命中して倒れた兵隊の背中に書いてある西洋数字を加えて、勝ち負けを争うように出来ていた。

ネットで調べたところ、下記のような商品であったようだ。
https://utuszd.hojago.ru.com/index.php?main_page=product_info&products_id=35152

「チャンチャン坊主」と「メリケン」という言葉が対比的に使われているのが目に付く。「メリケン」がアメリカン(アメリカ製)を意味することを踏まえると、「チャンチャン坊主」は中国製を侮蔑した言い方と思われる。こんなところにも、昭和初期の日本人の対中感情が滲み出ている。

2024年3月15日、岩波文庫、910円。

posted by 松村正直 at 08:55| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする