2022年10月08日

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖V』


副題は「扉子と虚ろな夢」。
扉子シリーズの第3弾。

取り上げられるのは、映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』、樋口一葉『通俗書簡文』、夢野久作『ドグラ・マグラ』など。

本が好きで、本に人生を変えられ、本に狂わされていく人々。

書籍を人間の外部記憶と定義づければ、人間は脳だけでなく蔵書によっても思考していると言えるわ……少なくとも、蔵書から人間の思考を一部は辿ることができる。

確かにそういう面はあるだろうなと思う。

シリーズものは次第につまらなくなって読まなくなることが多いのだけど、ビブリア古書堂はなぜか読み続けている。これで栞子シリーズ7冊+扉子シリーズ3冊。最初に読んだのが2012年なので、もう10年以上読んでいることになる。
https://matsutanka.seesaa.net/article/387138686.html

2022年3月25日、メディアワークス文庫、670円。

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2022年10月07日

オンライン講座「短歌のコツ」

NHK学園のオンライン講座「短歌のコツ」が、今月から新しいクールに入ります。
https://college.coeteco.jp/live/8676cxww

・10月27日(木)
・11月24日(木)
・12月22日(木)

日程は上記の3回で、時間は19:30〜20:45の75分間。前半に秀歌鑑賞をして、後半に1人一首の歌の批評・添削を行います。

ご興味のある方は、ぜひご参加ください。
お待ちしております。

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2022年10月06日

前田康子歌集『おかえり、いってらっしゃい』

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2017年から2022年の作品440首を収めた第6歌集。
https://gendaitanka.thebase.in/items/66850262

社会人となって家を離れた二人の子や病気の後遺症の残る母を詠んだ歌が多い。また、ハンセン病や水俣、沖縄に関する社会詠も積極的に詠んでいる。

馬乗りに押さえつけたることのあり圧縮袋の空気抜かむと
老眼鏡をシニアグラスと言い直し少し先へと老いを延ばせり
水の面(も)の引き攣れるごと氷はり緋色の鯉はその下を行く
我は娘(こ)を 娘は夫を叱りいて夫は老いたうさぎと話す
行間がゆったり組まれているように日暮れに雲がうまく散らばる
重すぎてとまれぬままに熊蜂がカリガネソウをまた吸いにゆく
  ビニールシートの下から手を差し出しお金を払う
まちがった方の手を出すキツネの子 混じりておらむ春の日のレジ
目玉焼きにも上下があると写真家は皿を回して位置を定める
  舌読に使われた点字版を初めて見た
舐められてやがて言葉となりてゆく速度思えり点字亜鉛版に
付箋外せば剥げてしまいし文字のあり 療養歌人の古き歌集に

1首目、相手が人だと思って読み進めると、下句で違う展開になる。
2首目、モノは同じなのだが、世間では「老い」を避けようとする。
3首目、薄氷の張った皺や歪みを「引き攣れる」と捉えたのが秀逸。
4首目、家族間の力関係がユーモラスに描かれていてほのぼのする。
5首目、上句の比喩が程よい雲の感じと、自身の心境を表している。
6首目、清楚な紫色の花と熊蜂の取り合わせ。花粉が蜂に付着する。
7首目、コロナ禍の手だけのやり取りを『手袋を買いに』に喩えた。
8首目、食べる際には関係が無いが、写真の見栄えには関係がある。
9首目、長島愛生園での歌。視覚も指先の感覚も失われた人のため。
10首目、歴史や記憶が忘れられていく寂しさのようなものが滲む。

2022年8月26日、現代短歌社、2000円。

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2022年10月05日

米原万里『旅行者の朝食』


2002年に文藝春秋社より刊行された単行本の文庫化。

ロシア語や翻訳や食べ物に関する37篇を収めたエッセイ集。世界各地の文化や歴史のことがあれこれ出てきて、ひたすら面白い。

ヨーロッパ文明圏の言語と日本語を取り持つ通訳者たちが最も恐れていることの一つに、スピーカーがいつギリシャ語やラテン語の慣用句や有名な詩の一節を原文のまま口にするか予測不可能ということがある。
トルストイの『戦争と平和』であれ、ツルゲーネフの『貴族の巣』であれ、十九世紀ロシアの貴族社会を描いた小説を読むと、地の文はロシア語なのに、作中人物たちの会話がしばしばフランス語の原文のまま載っている。
(『ちびくろサンボ』の)原作は、パンケーキとなっているが、ナンをイギリス人の原作者はパンケーキと言い表し、それを日本語に翻訳する際にポピュラーなホットケーキに超訳したのだろう。虎のバターも、実は原作では、インド料理でよく使うギーとなっている。
(正餐式に)酸味のあるパンを用いるか、カトリック教会で一般的だった酸味のないパンを用いるかをめぐって、十一世紀半ばには激論が東西教会間で交わされているのだ。教皇レオ九世が、「正餐で酸味のあるパンを用いてはならない」と断を下したことによって、ビザンチンの正教会本部は、カトリックと袂を分かつしかなくなった。

この人の本は、もっと読んでみよう。

2004年10月10日第1刷、2021年12月5日第26刷。
文春文庫、600円。
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2022年10月04日

講座「永井陽子の奏でる言葉」

11月3日(祝)にJEUGIAカルチャー京都 de Basic.(四条駅、烏丸駅から徒歩3分)で、特別講座「永井陽子の奏でる言葉」を開催します。今も多くの人に愛され、短歌史に独自のかがやきを放ち続ける永井陽子の歌を読み解きます。

時間は13:00〜15:00。

有名な歌からあまり知られていない歌まで、できるだけ多くの歌をご紹介したいと思います。どうぞお気軽にご参加ください。

https://culture.jeugia.co.jp/lesson_detail_2-49709.html

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2022年10月03日

「パンの耳」第6号刊行!

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同人誌「パンの耳」第6号を刊行しました。
15名の作品15首とエッセイ「海のうた」を掲載しています。

弓立 悦  「三日月の匂い」
鍬農清枝  「パワースポット探して」
雨虎俊寛  「メーデーコール」
長谷部和子 「銀色のトランク」
紀水章生  「風のリンカク」
添田尚子  「銀色のオリーブ」
甲斐直子  「青い魚」
佐々木佳容子「いもうとの息」
松村正直  「烏鷺の争い」
和田かな子 「青きおむつの」
岡野はるみ 「木々のにおいの立ち込めていて」
河村孝子  「数学少年」
木村敦子  「谷から丘」
乾 醇子  「たゆたひうかぶ」
澄田広枝  「曼珠沙華まで」

定価は300円。(送料込み)
現在、BOOTHで販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/

松村まで直接連絡いただいても対応できます。
よろしくお願いします。

2022年10月20日発行、A5判、48ページ。

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2022年10月02日

第3回別邸歌会


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13:00から、旧水口図書館(滋賀県甲賀市)で第3回別邸歌会を開催した。参加者14名。一人2首の計28について議論して17:00終了。

その後、近くの喫茶店でお茶をして18:30に解散。

帰りは近江鉄道の水口駅から帰った。昔ながらの素朴な駅舎。


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次回は12月11日(日)に、今井町にぎわい邸(奈良県橿原市)で開催します。お気軽にご参加ください!

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2022年10月01日

映画「沈黙のパレード」

監督:西谷弘
原作:東野圭吾
出演:福山雅治、柴咲コウ、北村一輝

人気の「ガリレオ」シリーズの劇場版第3作。
主演の3人、みんな好き。
オープニングがとても鮮やかだった。

T・ジョイ京都、130分。

posted by 松村正直 at 18:08| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月30日

雑詠(019)

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明治二十四年建立の殉難碑 廃トンネルの入口に立つ
ぶらさがり茄子の畑にむらさきの茄子あり茄子のかなしみ深く
スクリーン3の暗がりに身をひたす今日もどこへも行けぬ私が
耳の裏にしきりと汗をかくような身体となってタオルで拭う
男性向け料理教室 廊下まで声は響けり女性講師の
枝に止まるゴイサギふいに両脚にちからを溜めて糞を落としぬ
夢も何もないことなれど田舎町の次男に生まれし竹久茂次郎(もじろう)

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2022年09月29日

『ロバート・キャパ写真集』


ICP(国際写真センター) ロバート・キャパ・アーカイブ編。

ロバート・キャパ(1913-1954)の撮影した約7万点のネガから236点を選んで掲載した写真集。演説するトロツキーを写した最初の1枚から、地雷を踏んで死ぬ直前の最後の1枚まで、各地の戦場を撮ったキャパの生涯が浮かび上がる。

目次は「《ロバート・キャパ》の誕生1932-1939」「スペイン内戦1936-1939」「日中戦争1937-1941」「第2次世界大戦1939-1945」「戦いの後の光景1945-1952」「イスラエル独立と第1次中東戦争1948-1949」「友人たち」「日本1954」「第1次インドシナ戦争1946-1954」となっている。

キャパは中国での紛争を、ファシズムに対抗する世界共通の戦いの、東洋における前線=「東部戦線」と考えていた。

「スペイン内戦」と「日中戦争」を一つの大きな枠組みで捉える視点を、当時からキャパは持っていたわけだ。その視野の広さが魅力的である。

1944年8月、ドイツ軍の占領から解放されたフランスで撮られた写真には、次のようなものもある。「ドイツ兵との間に子をなしたフランス人女性は、罰として頭髪を剃られた」「頭髪を剃られたフランス人女性は、市民から嘲笑を浴び、徒歩で帰宅させられる」。

歓喜に湧く市民やドゴール将軍の演説だけでなく、こうした影の部分も写しているところに、キャパの目の確かさを感じる。

1913年生まれということは、高安国世と一緒なんだな。

2017年12月15日第1刷、2021年5月27日第5刷。
岩波文庫、1400円。

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2022年09月28日

鯨井可菜子歌集『アップライト』


296首を収めた第2歌集。
結婚して新しい生活が始まる。家族の歌や仕事の歌が多い。

日々きみを思えば胸にこんがりと縁まで焼けてゆく目玉焼き
テーブルの麦茶のコップ遠ざけてそこにひろげる婚姻届
チーズケーキくずしては食み聞いている隣の客の骨折のはなし
食パンを山と麓(ふもと)に切り分けて夫婦二人のサンドイッチ成る
鋤跡のわずかに残る冬の田をパンタグラフの影わたりゆく
真空パックのなかに伸されてしゃべらないあじの開きを両手につつむ
「頭すすってあげてください」活海老の握りを出して板前が言う
消しゴムのかすを払ってゲラをよけデスクに食すかんぴょういなり
小舟のようにコイントレーは行き交えりアクリル板の下の隙間を
ゆるされて旅館に足を踏み入れる三十六・四度のわたし

1首目、相手への思いが日ごとに確かなものになっていくのだろう。
2首目、麦茶のコップの生活感と大切な婚姻届の取り合わせがいい。
3首目、カフェで耳に入ってきた話。「くずして」と「骨折」の妙。
4首目、上半分と下半分を「山と麓」と見たところに楽しさが滲む。
5首目、郊外の風景を映像的に描いた。田の脇を鉄道が通っている。
6首目、身を割かれ真空パックに閉じ込められていると思うと哀れ。
7首目、会話は文脈や状況に多くを依存していることがよくわかる。
8首目、職場でささっと食事しているところ。忙しさがよく伝わる。
9首目、コロナ禍で目にすることの増えた光景。「小舟」がうまい。
10首目、入口で検温が必要。「ゆるされて」から始まるのがいい。

2022年9月17日、六花書林、2000円。

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2022年09月27日

映画「アルピニスト」

1992年生まれのクライマー、マーク=アンドレ・ルクレールに2年間にわたって密着取材したドキュメンタリー。

数々の断崖絶壁を命綱なしのフリーソロで登攀する姿をカメラは追う。何百メートルもの高さの壁を両手両足だけで登る姿は、見ているだけで思わず足がすくむ。

でも、彼は常に淡々と、慌てることなく、岩の壁も氷の壁も雪の壁も熟練した技術で登り切る。

インタビューに「登山をすると人生がシンプルになる」と答えていたのが印象的だった。恋人や母親の語る話もいい。

出町座、93分。

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2022年09月26日

筒井清忠編『大正史講義【文化篇】』


大正時代の文化に関して24名の執筆者の書いた計27篇の論稿をまとめた本。

民本主義、国家主義、大正教養主義、童謡運動、新民謡運動、女子学生服、大衆文学、時代小説、漫画、大衆歌謡、映画、百貨店、カフェーなど、幅広い分野の話が載っている。

また、取り上げられている人物も、吉野作造、上杉愼吉、西田幾多郎、夏目漱石、宮沢賢治、北原白秋、鈴木三重吉、西條八十、竹久夢二、岡本一平、小林一三と多岐にわたる。

日本の学生マルクス主義の特徴として、はなはだ教養主義的傾向が強いということが指摘されうるだろう。それは、何よりも「西欧古典崇拝」の傾向が両者ともに強いという共通性に窺える。
漱石はこの新興勢力(岩波書店:松村注)の象徴的存在となり、漱石文学の普及と大正教養主義の隆盛、そして岩波書店の発展の三つが相乗効果を生み、それぞれの威信の上昇につながったと考えられる。
年表的には、大正時代は大正天皇の即位とともに始まるが、文学の面、さらに広くいえば文化史的には日露戦争の終結から始まっている。それはちょうど、昭和時代が文化の面では、大正十二年の関東大震災のあとの帝都復興、モダン都市東京から始まっているのに似ている。
むしろ、前近代社会の方が、謡の共通性が高く、近代化されたこの時代になって人々は地域的差異化、ローカリズムの確立を望んだのである。
住吉や御影が神戸市に編入されるのは昭和二五(一九五〇)年であり、この両地域が「阪神間モダニズム」として語られるのは、大正末昭和初期は、神戸市外だったからである。

ジャンル横断的に多くの論が含まれているが、その背景にある大正という時代の輪郭が、読み進めるうちに色濃く浮かび上がってくる。

2021年8月10日、ちくま新書、1300円。

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2022年09月25日

オンライン講座「短歌のコツ」

NHK学園のオンライン講座「短歌のコツ」が、10月から新しいクールに入ります。
https://college.coeteco.jp/live/8676cxww

・10月27日(木)
・11月24日(木)
・12月22日(木)

日程は上記の3回で、時間は19:30〜20:45の75分間。前半に秀歌鑑賞をして、後半に1人一首の歌の批評・添削を行います。

ご興味のある方は、ぜひご参加ください。
お待ちしております。

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2022年09月24日

川本千栄『キマイラ文語』

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第2評論集。
副題は「もうやめませんか?「文語/口語」の線引き」。

T章「キマイラ文語」とU章「近代文語の賞味期限」は、短歌における文語・口語の問題を論じたもの。V章「ニューウェーブ世代の歌人たち」は、2001年に書かれた文章と座談会の再録となっている。

座談会には松村も出ています。今読み直すと失礼なことを平気で喋っていますが、20年前のものなのでご容赦ください。

現代短歌社のオンラインショップで購入できます。
皆さん、ぜひお読みください!

https://gendaitanka.thebase.in/items/66851037

2022年9月5日、現代短歌社、1500円。

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2022年09月23日

第3回別邸歌会

10月2日(日)13:00〜17:00、滋賀県甲賀市の「旧水口図書館」で第3回別邸歌会を開催します。

昭和3年竣工のレトロモダンなヴォーリズ建築で、一緒に歌会をしませんか? 


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現在、定員16名のうち10名のお申込みをいただいていて、残り6席です。参加をご希望の方はお早めにご連絡ください。


 「別邸歌会」チラシ 2022.07.28.jpg
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2022年09月20日

佐藤通雅歌集『岸辺』


2017年から2021年の作品484首を収めた第12歌集。

「ツクシタ」とは「クツシタ」のことクツはいて幼と散歩に出かけんとして
期間限定安売り墓地の広告を二日とりおき三日目に捨つ
ジンシンジコ ダイヤノミダレ カタカナで事を思ひてたれもが静か
人の在処さらに捜すをあきらめし角封筒が汚れて戻る
おもちや病院開設されて神妙なる面持ちしたる子どもら並ぶ
読経中の婦人のやうだがいやちがふ数独の枠を凝視してをり
駅ピアノに人は寄り来て一曲を早瀬のごとく弾いて去るなり
消(け)残れる雪は童子の象(かたち)にて手をあげそして逆立ちもする
師といふを持たざるわれはヒメツバキ一枝(いつし)折りきて卓上に置く
原稿用紙に書くこと絶えてたまたまに用紙開けばただに美し

1首目、幼子の言葉に一瞬ドキッとする。誰に「尽くした」のかと。
2首目、墓地もこんなふうに売られているのか。複雑な気分になる。
3首目、意味のない言葉として処理される。人が死んでいるのだが。
4首目、擬人法が効果的。さんざん探し回って疲れ切った姿である。
5首目、本当の病院のように、あるいはそれ以上に神妙な顔つきだ。
6首目、ぶつぶつ声を出しながら考えているところ。「枠」がいい。
7首目、「早瀬のごとく」がいい。駅ピアノはまさにこんな感じだ。
8首目、日が経つにつれて変わる形を子ども動きのように見ている。
9首目、50年以上、個人誌「路上」を拠点にしてきた矜持が滲む。
10首目、原稿用紙に手書きで文字を書いていた頃を懐かしむ思い。

他に、前立腺がんの治療に関する歌も印象的で、また「大川小学校津波裁判」に関する一連も重い問い掛けとして胸に残った。

2022年7月15日、角川文化振興財団、2600円。

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2022年09月19日

白秋と南イタリア

昨日の読売新聞「よみほっと」で三浦三崎(神奈川県三浦市)が、北原白秋の「さながら南以太利の沿岸を思はせる景勝の土地である」という言葉とともに紹介されていた。
https://www.yomiuri.co.jp/stream/1/20011/

この言葉は歌集『雲母集』(1915年)のあとがきに記されたもの。もう少し長く引用してみよう。

相州の三浦三崎は三浦半島の尖端に在つて、遥かに房州の館山をのぞみ、両々相対して、而も貴重なる東京湾口を扼してゐる、風光明媚の一漁村である。気候温和にして四時南風やはらかく而も海は恍惚として常によろめいてゐる、さながら南以太利の沿岸を思はせる景勝の土地である。

三浦三崎の風景が南イタリアに似ていると記すのだが、白秋は南イタリアに行ったことはない。樺太(1925年)や台湾(1934年)は訪れているが、意外なことに白秋は一度も外国には出掛けたことはない。

では、なぜ「南以太利」が出てくるのか。それは、おそらく白秋の愛読した森鷗外訳『即興詩人』(アンデルセン原作)によるのだろう。そこに描かれたナポリあたりの風景が、白秋の「南以太利」イメージのもとになっているのだ。

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2022年09月18日

安永幸一監修『吉田博画文集』


副題は「われ山の美とともにあり」。

主に吉田博『高山の美を語る』から引いた文章と、吉田の絵画を取り合わせて編集した画文集。

いつも一(ひと)元気で一気に描くことにしている。その方が時間をかけて綿密に描くものよりもはるかに力がある。
それから、これは純粋な山ではないが、私は瀬戸内海の島々が好きである。瀬戸内海からいえば、島とはつまり山だということになるが、これ等の諸々がいずれも素晴らしい特異な展望美を備えている。
ヒマラヤは、丁度九州の端から北海道の端までの長さぐらいの連山である。幅も丁度日本内地の幅に略々等しい。

文章からは吉田の山に対する愛情がよく伝わってくる。

「渓流」「モレーン湖」「マッターホルン/マタホルン山」「風景(ダージリン)/ダージリンの朝」など、油彩と版画の両方で同じ場面を描いた作品もあるが、両者の印象はずいぶん違う。油彩が暗くて荒々しいのに対して、版画は明るくて穏やかだ。

肉筆浮世絵と浮世絵版画(錦絵)の違いに似ている。

吉田は福岡県久留米市で生まれ、福岡県浮羽郡(現うきは市)で育った関係で、福岡県立美術館や福岡市美術館に作品が多く収蔵されているようだ。

2017年9月20日、東京美術、2000円。

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2022年09月16日

フィリップ・ワイズベッカー『フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり』


パリとバルセロナを拠点に活動するアーティストが、日本各地の郷土玩具の制作現場を訪ねて回ったエッセイ集。小さな判型の本にデッサンや写真、取材ノートも載っていて楽しい。

・子 伏見人形の唐辛子ねずみ(京都)
・丑 会津張り子の赤べこ(福島)
・寅 ずぼんぼのとら(東京)
・卯 金沢からくり玩具のもちつき兎(石川)
・辰 竹工芸の辰(岡山)
・巳 きびがら細工のヘビ(栃木)
・午 きじ車の馬(大分)
・未 仙台張り子の羊(宮城)
・申 木の葉猿(熊本)
・酉 木工創作玩具の酉(宮城)
・戌 赤坂土人形の戌(福岡)
・亥 一刀彫の亥(奈良)

ところどころ、外国人から見た日本についての印象が記されているのも面白い。

欧米では月面に人の顔が見えると言われてきたが、日本人には兎が餅をつく姿に見えるらしい。
線路沿いに見える水田は、住宅に接し、見渡す限りあちこちに広がっている。水が土に入れ替わった光景は、西洋人の私には驚くべきものだ。
こけしは主に東北地方でつくられる人形で、我々フランス人がジュ・ドゥ・キーユと呼ぶボウリングに似た遊びの道具に形が似ている。
奈良では、鹿が優先権を持っている。道路上で頻繁に見かける「鹿の飛び出し注意」の標識に仰天したのは私だけで、ここでは当たり前のことなのだ。

連載は「中川政七商店」のWEBでも読むことができる。
https://story.nakagawa-masashichi.jp/34832

2018年11月27日、青幻舎、2000円。

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