副題は「ある日本兵の戦争と戦後」。
著者の父である小熊謙二(1925年生まれ)への聞き取りをもとに、その人生の軌跡を描いたオーラルヒストリー。
個人的なライフヒストリーに社会学の視点を加味することで、戦前・戦後の日本社会の状況や人々の暮らしの様子が鮮やかに浮き彫りになっている。
シベリア抑留の本として読み始めたのだが、それは全9章のうちの3章分で、それ以外の戦前や帰国後の暮らしに関する記述の方が多い。昭和の歴史の流れがとてもよく見えてくる。
日本の庶民が下着の着替えを毎日するようになったのは、洗濯機が普及した高度成長期以後である。風呂も四〜五日に一回で、近所の銭湯に通った。
当時の東京では、百貨店などに対抗するため、零細商店が資金を出しあい、アーケードを設置した商店街を作る事例が出てきていたのである。
一九三九年秋には、「外米」が食卓にのぼるようになった。戦前はコメの自給が達成されておらず、都市部の下層民にとって、台湾・朝鮮・中国などからの輸入米を食べるのは普通のことだった。
それにしても、このお父さんは記憶力が抜群にいい。昔の話を実によく覚えている。もちろん、それは話を引き出す聞き手の力にもよるのだろう。
2015年6月19日、岩波新書、940円。