2022年09月30日

雑詠(019)

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明治二十四年建立の殉難碑 廃トンネルの入口に立つ
ぶらさがり茄子の畑にむらさきの茄子あり茄子のかなしみ深く
スクリーン3の暗がりに身をひたす今日もどこへも行けぬ私が
耳の裏にしきりと汗をかくような身体となってタオルで拭う
男性向け料理教室 廊下まで声は響けり女性講師の
枝に止まるゴイサギふいに両脚にちからを溜めて糞を落としぬ
夢も何もないことなれど田舎町の次男に生まれし竹久茂次郎(もじろう)

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2022年09月01日

雑詠(018)

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死臭より淡いけれども枕から漂いのぼるわれの匂いが
氾濫の収まりしのちの萎れたる川を見ており鴉とともに
言いたくて言えないことの百日紅のどから伸びて両目をやぶる
殺処分の囲いのなかに犬たちは交尾しており声を荒げて
弁当の蓋につきたる米粒のたましいなんて空疎なことば
この庭の奥にトイレがあることを知ってる、初めての店なのに
若き日の映画ふたたび見ることの増えて初秋の雲のあかるさ

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2022年07月31日

雑詠(017)

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人と人が袂を分かつということの、陽に乾きつつ紫陽花が咲く
われ先に伸びゆく蔓の尖端を指にむしるも朝顔のため
どこまでものうぜんかずら追いかけて夏のわたしが剝き出しになる
大雨のために動けぬ特急のなか煎餅を嚙む音ひびく
四百九十九体ならぶ羅漢堂 残り一つはわが子だろうか
すこやかに伸びゆく稲に囲まれて七つの墓がなかよく並ぶ
感染者、重症者、死者それぞれにずれるピークをひとは苦しむ

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2022年04月30日

雑詠(016)

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憲吉は三次(みよし)の生まれ弟の三之助のちに原爆に死す
失われもうないものを言うときにむしろ生き生きとことば輝く
用のある人のごとくに晴天の四条大橋をわたりくる猫
捜索するヘリコプターをそれぞれの「本社ヘリから」撮りたるが載る
会うたびに知らない人になってゆく息子と食べるチーズフォンデュを
ちょうどいい加減はなくていつ見ても木香薔薇が咲き過ぎている
かろやかな鳥にも歌はなれるけどあらがいながら昇りゆく凧

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2022年03月31日

雑詠(015)

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日本のあちこちにある城山のあちこちに淡く桜が浮かぶ
赤いまわし青いまわしがぶつかって土俵は円い現実である
やさしそうな男女がならぶ図書館の出口の「本の消毒機」へと
日が失せる前に京都に着くだろう人生はつねに短い宴
傾けば右の車窓に溢れゆくひかりの海を特急は行く
行く人と行かない人が二次会を前にわかれる居酒屋のまえ
手を合わせ長く祈るを見ていたり何を祈っていたかは聞かず

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2022年02月28日

雑詠(014)

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駅前のパン屋の棚に残されてクロワッサンは夜をかがやく
みんなみんな働き者と言うように帽子をかぶるパン屋のひとは
にんげんの骨の接ぎ目に手を当ててほぐしゆくひとの太きゆびさき
パンケーキにじゅんと染みゆくはちみつの傷口はまだ濡れているのに
同じ絵を少し離れて父と見る岡本太郎美術館にて
あなたでも私でもない生き方があっただろうに冬のアオサギ
かたくなに謝罪を拒むスタッフのかなたに冬の海はひろがる

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2022年01月31日

雑詠(013)

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ひさびさに帰省せし子と話したり距離感うまくつかめぬままに
昼までは残ることない雪だろう窓辺に寄ってあんパンを食う
電線がなければこれで完璧な風景になるのだけれども好き
寝床より抜け出していく食べられてわれの身体となりしうなぎが
ひとりずつ残り時間は異なるを同じ写真にうつり微笑む
手をつなぎ父とならんで歩く子の黄色のリュック大きく揺れる
せんべいを売る道端のスタンドのわきに屯(たむろ)す五頭の鹿は

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2021年12月30日

雑詠(012)

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頭を垂れるひとの後ろをジョギングの人が過ぎゆく天皇陵に
落ち着いたらまた戻ってきますと言う人の戻りくることほぼほぼなくて
三十年過ぎてふたたび何もないわたし自身に戻る冬晴れ
介護士・看護師・相談員だれも丁寧で怒りぶつける相手はおらず
目玉こぼれ落ちんばかりの眠たさの道路の脇に生えるかたばみ
炎上ののちに「いいね」を取り消して私のもとを去る人もいる
三郎も二郎もおらず原色の唯一無二のTAROかがやく

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2021年11月30日

雑詠(011)

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みずからの寝息聞きつつ眠る夜の浜にあまたのウミガメのぼる
良いことのおおかた尽きて赤黒くわたしの肺に垂れる柿の実
つややかに粒の揃った歯ならびのとうもろこしを食べる歯ならび
ひとつふたつ命かぞえる食卓に卵ありじゃこありハンバーグあり
湖の水位さがって露出するわたしの声だ見ないでほしい
三人と二人に分かれ座るよう言われ向き合う距離ある人と
楽しそうにご自分の部屋でお話しをされているという母に会いたし

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2021年10月31日

雑詠(010)

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バス席の母に抱かれて眠る子に抱かれて母のからだも眠る
生きている人の姿のない墓地に来て読む本の秋はさわやか
ちょっと話があるんだけどと呼ぶ時も呼ばれる時もちょっとではなく
靴ひもが長くて今日は結べないどう結んでも地面に垂れて
みずからの心あやうき秋の日を川さかのぼり吊り橋わたる
ダージリンに角砂糖ふたつ崩れゆく沈没船のように声なく
こころ治すためにこころに触れることこわいなあ赤くコスモス揺れて

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2021年09月30日

雑詠(009)

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背比べしようって子はもう言わず冷蔵庫あけて牛乳を飲む
停車するバスに向かって駆けてくる少女みるみる媼になって
十六分の一に新聞を折りたたみ電車にめくる技も絶えしか
崖ならば震えるほどの高さより地下へと降りるエスカレーター
眠ろうと明かりを消せばスリッパに叩きし蠅のたましいが飛ぶ
警笛を鳴らし過ぎゆく崖下に平たくならぶ保線のひとら
腫れものに触れるみたいに触れていて傷めてしまう桃もあること

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2021年08月31日

雑詠(008)

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蒸し暑い夜がじりじり更けてゆきともに勝ち点1を分け合う
台風は日本海へと抜けたとか 植木鉢ふたつ路地に転がる
二十年かけて「自由の番人」を駆逐せし者たちのひげ面
もう雨はやんでいるのに傘をさし老女は長く駅前にいる
水しぶき上げるクロールにんげんの身体はどこも目盛りがなくて
三つある案山子のうちの一体が動きはじめて農婦は歩く
ゆうぜんと陸軍伍長の墓石に止まって夏の鴉はかたる

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2021年07月30日

雑詠(007)

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ぬかるみを歩むがごとく梅雨どきの紙の繊維をペン先すすむ
ゆれる、まわる、すべる、かたむく、さまざまな動詞が集う児童公園
声を上げるべきといきおう人あれど怒るかどうかはわたしが決める
東京も夕方六時 時差のない国では続くオリンピックが
また庭のかまきりが猫に捕まった道徳と謹慎のはざまで
死んだ人と死んだ人とが別荘で会話しており古き映画に
きっと母も自宅なら風呂に入るだろう忘れてしまう方が楽だが

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2021年06月30日

雑詠(006)

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です・ますを互いに付けて会話する若いふたりがいる春の町
ひらひらといやふらふらとへらへらと散る桜にも個性があって
おじさんが手を動かせばいくらでも産まれる春のベビーカステラ
最後まで飛び立つことなく壇上にペットボトルの真水はならぶ
何をしてもうまく行かない春だった葱のにおいが鼻から抜けず
割れながら砕けつづける喜びの僕にだってあるポテトチップス
二つ先の駅まで小さな旅をしてこの時期だけのびわのパフェ食む

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2021年05月31日

雑詠(005)

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腹を、切り、裂かれ、卵を、取り、出され、砕かれ、肥料となる鮭の雌
いちどきに咲いたばかりに枯れ果てて躑躅おまえもかわいそうだね
いつだってほんとうのことは生きたまま蟻にたかられゆくカブトムシ
中庭を出られず歩きまわるひと忘れものしたことも忘れて
白、黄色、茶色、水色 ひとことで言えば五月の新緑のやま
おもしろくもないって顔でベローチェにわたしをずっと見ている赤子
心臓の奥に今でも観覧車まわるのだろうひとりひとつの

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2021年04月25日

雑詠(004)

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めぐりゆく池のほとりにみずいろの半券あわく乾いていたり
待ち合わせしているひとが来ないから魚道のわきにアオサギは立つ
風景に終わりはなくて春落葉はがれるように忘れるがいい
少しだけひらいた口を閉じようとせず土気色の多喜二のマスク
美術館となりたる拓銀小樽支店わかき多喜二の勤めしところ
ローソンはどこであったか流れくる微かなみずの匂いを探す
街路樹のわかばに時に目をやすめオティリー・カフカの死ぬまでを読む

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2021年03月29日

雑詠(003)

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訃報ひとつ届いていたり出町座を出てしばらくは川べりを行く
春浅き分譲予定地、一列に生えたばかりの電柱が立つ
〈ミスボルド〉〈ミッスブァイルド〉〈イザベウビルト〉明治日本を旅するバード
だいぶ日も長くなったな春菊とえのきを切って豚バラで巻く
膝のうえに男のあそぶ知恵の輪の解けて終点、終点である
花びらが浮いて流れてゆく春の大仏殿という独居房
なんのためであるのかももうわからなくなってはじまるせいかリレーが

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2021年02月27日

雑詠(002)

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人生の残り時間はいかほどか尿意で覚める冬の明け方
ほぼ同じこと繰り返す平日を歩いて駅の段差にころぶ
この先にどんな風景があったろう降りた列車をながく見送る
舗装路に落ちては死んでゆく雨のかがやきそれにしてもよく死ぬ
どのようになっても母は母なれどベランダに伸びて分葱(わけぎ)が青い
台本があればいいのに励ましの言葉はいつも棒読みとなる
思ったより元気だったとだけ伝え母についての話を終える

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2021年01月31日

雑詠(001)

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いつ来ても清掃中のトイレありさほどきれいというにあらねど
レジを打つひとの背後に整然とならぶ煙草は二〇五種類
手作りのサンドイッチを売る店のお兄さん手の柔らかそうな
カーナビの町と町との境目の峠、二軒のラブホテルあり
放置すればそのまま嘘になってゆくだけ鹿の皮うつくしいから
勝敗の決したるのちなお数手すすめてわれは投了したり
泳ぐのをやめたる鴨は日を浴びて丸まっており冬の中州に

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