2024年10月31日

雑詠(043)

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丼(どんぶり)の真中に点を打つごとく天辺にのるうずらの卵
肌と肌ふれ合い汗をしたたらす人の見ている土俵のうえに
食べログの写真ながめて店いくつ訪ねてもあらず母の海老フライ
もう今は回ることなき円形のレストランあり海辺の丘に
ゆうぐれの庁舎の空より降ろされしのちを二枚の旗の大きさ
曇天が部屋のなかまで暗くするひるラーメンに卵を落とす
安珍も清姫も逝き本堂のかなた発電の風車がまわる

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2024年09月30日

雑詠(042)

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父に会うためにだけ来るあざみ野に橋ありそば屋あり幼稚園あり
年老いた警備員ふたりぶらんことベンチに座り昼のめし食う
ひろばには迷子の声が泣くばかりからくり時計は調整中で
台風の逸れた団地の父の部屋 弁当のふたに小蠅がとまる
おしぼりで濡れたグラスの跡をふく心がひらき過ぎないように
のぼり坂は近くに見えて歩いても歩いても着かず給水塔に
待ち合わせのため停車するたそがれの丹波橋駅に住むおばあさん

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2024年09月02日

雑詠(041)

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こきざみに上下左右に揺れながら立ち話する若きママたち
電車とは眠っていても構わないところ真昼をひんやりねむる
埋められて殺処分の鳥かなしいか人に食われるよりかなしいか
踏み石のくぼみに残る雨水をスズメついばむ首かたむけて
歩けなくなるよと父に言う声は三十年後のおのれに向かう
なやみなどなんにもないと思われているアザラシとわれの休日
雨雲のかぶさる駅の裏通り「民泊やめろ」の張り紙ならぶ

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2024年07月31日

雑詠(040)

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ひと月の収支といえど確かにて心はうすく削られてゆく
エアコンより垂れくる風に食べ終えたハンバーガーの紙がふるえる
そのピンク似合ってますと褒められるピンクと思ってなかったけれど
半袖の白シャツ多き名古屋場所はばたくようにうちわがゆれる
笑いながらカフェでお喋りする声の「それでね」からは小さくなりぬ
釣銭は百十五円てのひらに金銀銅のメダルがならぶ
地下通路に餌をついばむ二羽の鳩そのまま5番出口へ向かう

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2024年07月01日

雑詠(039)

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木目ではなく木目調、レンガではなくレンガ風、落ち着くけれど
あみだくじのようにわたしの休日の窓を伝って消える雨粒
安くなれば誰もキャベツのことなんて言わなくなってどんと積まれる
橋脚が燃えているとは知るはずもなく笑い合い渡りゆくひと
夏草に包まれてゆく公園に高さの違う鉄棒ふたつ
特急が普通列車を抜き去って立ち食いそばの暖簾が揺れる
じりじりと枇杷の季節の過ぎゆくを眺めるままに今年も食べず

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2024年06月01日

雑詠(038)

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近鉄が遅れててって片耳で電話しながら駈けてゆく人
赤ちゃんも桜も猫も愛されるヒトの言葉を話さないから
薄れつつ遠ざかりゆく黄昏のひかり集めて干潟は光る
見ないふりしてとあなたは言うけれど青葉は凪のようなしずけさ
新緑の波打つごとき参道を汗ひかりつつ馬はかけゆく
母の日の花屋の前に立ち止まり花を見ており買うことなきを
よき音を立てて二つに分かれたるこの割りばしの兄とおとうと

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2024年04月30日

雑詠(037)

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回転する円を線へとほどきつつ文字の上ゆく修正テープ
うなだれて山吹色に変わりゆくあんなに明るかったミモザが
ひと月の収支といえど目に見えて数字がわれの日々を蝕む
リニューアルしてからなぜか行かざりし中華萬吉つぶれていたり
回転する円を線へとほどきつつ丘陵を行く春の自転車
全身に付けられるだけの花を付け木香薔薇は加減を知らず
「あ」に始まり「ん」へと到る人生の松村正直いまどのあたり

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2024年03月31日

雑詠(036)

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あの戦争は間違いだったと言うたびに胸に正しい戦争ゆれる
立ったまま斜め上へと運ばれてゆく人間の長きつらなり
慎重に死因のことは伏せられてきれいに冬の星座がならぶ
夕焼けがわたしに声をかけてくるもう柿の木はそこにないのに
十時半までは頼めるモーニングたのめば春の町のあかるさ
マスコットひとつかならずぶら下げて女生徒ら歩く駅までの道
人間はひとり暮らしが基本にて時にふたりや四人にもなる

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2024年02月29日

雑詠(035)

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ずいぶんと貧しくなった日本の食事広場(フードコート)に焼きそばを食う
厚切りのバタートースト幸せというのは何も願わないこと
立春の音なき部屋のつめたさの心のために飲むロキソニン
午前午後といえど午前は短くてたちまちのうちにうどんを啜る
石仏に墓に夕陽に手を合わせひとりの時のことばはきれい
ししおどしの音澄みわたり意識からしばらく人の気配が消える
電柱に犬はおしっこをかけるもの近代以降の風習として

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2024年01月31日

雑詠(034)

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眠れない夜には眠るいつもとは足と頭を逆さまにして
手の先が今もつめたい出がらしの急須にお湯を注いでは飲む
乗った場所に降りるしかない観覧車とてもきれいな空だったけど
つややかなゴムの白さを押し当てて吸い取るように文字ひとつ消す
雨ばかり降る週だった鍋底にロールキャベツを並べて煮込む
憎まないようにするのが難しい透きとおる陽を畳にまねく
天井と床に大きく挟まれて冬のからだは眠りが浅い

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2023年12月30日

雑詠(033)

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こんなにも人は疲れて早朝の電車に首を折り曲げねむる
二時間に一本のバス遠ざかりまた冬枯れの野のなかの道
誤字ひとつ載せたるままに雨の夜を遠く手紙は運ばれてゆく
それぞれに形異なるじゃがいもを三つ食べたり冬至の夜に
深々とさらに大きな穴を掘る埋めようのない穴を消すため
みずからの遠いいびきに目を覚まし小用に立つ冬のあかとき
誰がもっとも得をしたかと考えて椿の花に気づいてしまう

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2023年10月31日

雑詠(032)

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うつくしい耳もみにくい耳もある正面だけが顔ではなくて
ひし形の網目にレンズ差し入れて撮る吽形の上半身を
握りこぶしよりも大きなにぎりめし携え秋の近江路をゆく
時代小説読み進めればあらわれる豆腐とみょうがの古きレシート
ハロウィンの飾りの踊る街にいる季節外れの半袖を着て
廊ながき鉱泉宿の褐色の湯にうす蒼きこころをひたす
ゆっくりと燃やさぬように育てゆくまだ輪郭のあわい憎しみ

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2023年09月30日

雑詠(031)

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みずからの鼾ふかきに目を覚ます昼うす青きひとりの部屋に
一点の朱を添えるべく古庭のみずの面に浮上する鯉
汗かかぬように呼吸を抑えつつ混み合う朝の電車に浮かぶ
敵の敵は味方にあらず噴水のみずの根元に浮かぶ白球
中国のこと書き立てる投稿も当然として漢字を使う
カラス鳴く声に応えるにんげんのカラスもいたり父に抱かれて
ありがとうございますって言われても土鳩のようにわれは眠るよ

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2023年08月31日

雑詠(030)

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一〇〇円の買物袋がんじょうで迷いなくわが暮らしを運ぶ
奈良線に京都と奈良を行き来して涼しい車内で本二冊読む
笑顔ってそんなに大事なものかしら声をひらいて閉じる噴水
終点に近づくにつれて客が減り隣の人がなんだか近い
ロシア産ソフトにしん二八〇円、頭落とされた半身がならぶ
川中の石それぞれに確保して亀と鴉とゴイサギとあり
ほしいときに助けてくれる人はなし宅配ピザのちらしが届く

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2023年07月31日

雑詠(029)

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報われることと報いを受けること竹林たかく風にそよいで
それぞれの寿命を知らず流れゆくしゃぼん玉あり子の手が潰す
炎天の直方体に近づいて円柱形のみずを取り出す
赤いボタン押されてわれにとうとうと北前船の栄華をかたる
湯あがりに三角パックのコーヒーを飲めど子どもに戻れぬからだ
ゆうがたの風が流れていくところベンチに浮かび白猫ねむる
里人の暮らしのなかに墓があり帰りに摘んだ花を供える

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2023年07月01日

雑詠(028)

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ひね鶏の安きを買って網に焼く齢をふかく嚙みしめながら
あつあつのシューマイ、シューカツ、メンチカツおいしく食べているか息子は
知ってたら行ってたのにと言う人はいつだって来ない紫陽花濡れて
玉ねぎの島ありバナナの島もあり積荷をのせたカート行き交う
ひたすらに勢いを増す夏の雲ことばだけでも返してほしい
ニッポンを見ずにスマホの地図を見る一団みちを引き返しゆく
駅弁の白米食えばありありと車窓に稲はかがやきを増す

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2023年05月31日

雑詠(027)

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びわの実をひとつ食べればらんらんと一つ減りゆくわたしの命
どん底の時にはそこがどん底かわからないから桐の木を見る
減るたびに水を注ぎ足す店員の親切さえも今日はうとまし
ほんとうは用があったんじゃないのかと老いたる父に聞かれてしまう
ここもまた道真公の生誕地 産湯を使いし井戸が残るも
なにゆえに投票率が高ければ違ったはずと人は思うか
宇治川を渡る十二両編成の端から端までいちどきに見ゆ

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2023年04月30日

雑詠(026)

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メロンって野菜やねんで振り向いて三つ編みの子が少年に言う
河岸のさくら中州の菜の花も生きる力を競うがごとし
ながく続く坂の途中に腰かけてそのまま時を止めているひと
ピラミッドも自由の女神もモナリザも実際のところ見たことがない
にんげんを見下ろすことの楽しさにカフェの三階席はにぎわう
恐竜のしっぽを焼いて食べている春の食卓やけに広くて
表情があなたのうちへ消えてゆく挨拶に軽く微笑んだのち

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2023年03月31日

雑詠(025)

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起き抜けの朝の大気の冷たさに今日一段と視力よくなる
とうめいな赤いシートを重ね読む高校生あり令和の世にも
真ん中のサイズですねと聞かれたり大中小にすればいいのに
木造のふるき家屋の庭先に赤の下着を干しているひと
あいにくと常に言われてかなしきを雨あざやかに桜を濡らす
暇つぶしに環状線に乗っている人に気づきぬ一回りして
曲り道のガードレールのまっさらな白さただちに崖へと続く

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2023年02月28日

雑詠(024)

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ほどくための大きなリボン結ばれてプレゼントあり誕生日の卓に
南北に町を貫く地下鉄のどこに出たって冬の雨ふる
半開きは悪いこころを誘うから戸もくちびるもきちんと閉じよ
落ち目とて離れてゆきし人たちのことは忘れず年豆を嚙む
峠とはもっとも低きところにて左右の峰を見つつ越えゆく
奈良県のなかにいるとも気づかずに歩いていたな足元を見て
王様の生まれた日だから学校はおやすみ郵便局もおやすみ

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2023年01月31日

雑詠(023)

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畳に射す午前十時の陽をあびる 今日の気力を蓄えるため
冬の道まっすぐのびて冷たさが確かさとなる私のからだ
ひとりきりになれば体が大切で白菜を切り銀だらを焼く
町会費三千円を払いたりのどかな夢のなかの職場で
だれを恨むこともできずに包丁でざりざりと削ぐ鯵のゼイゴを
生活はしていけるのかと父が聞く ごめん、いつまでも不甲斐ない子で
アップリンク京都より出て現実の町にプラスチックの湯たんぽを買う

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2022年12月31日

雑詠(022)

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目を閉じてヒヨドリについて考える映画はじまるまでの時間を
何歳で死ぬかだいたいわかるからきれいに食べる鯖の塩焼き
集まってくる感情は指ごとに異なる 薬指はにくしみ
ふたつでは足りなくなって三つめに手を出す夜の蜜柑がこわい
でも今も心はあって安売りのうぐいすパンの甘さをかじる
署名する場所も捺印する場所も○で囲まれわたしは自由
夕食の残りごはんを凍らせる寂しさはもっと深くなるから

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2022年11月30日

雑詠(021)

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ため池とレンガ造りの館ありこころ鍛えるために歩けば
チョココロネの奥の奥まであるチョコの忘れた方がいい声もある
風が触れるたびに痛みに震えつつ赤く色づくイロハモミジは
ホットココア飲む背後より神さまのおかげで癌の治った話
葉の落ちるように誰もがいなくなり柿のこずえをながく見ている
大脳の満ちる図書館、でも今日は螺旋階段おりられなくて
夜が明ける前に目覚めてみずからの性器に触れるやすらぐために

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2022年10月31日

雑詠(020)

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台風のニュースとなれば裏返る傘もつ人をカメラはねらう
指先のあわき力にあらわれるこのつややかな朝顔のたね
元気があれば何でもできるを体現し猪木死にたり衰え果てて
盤面に駒打つごとく透明なパネルに触れて席を確保す
アレッポの石鹼と言えば売れるから、シリアの人の知らぬ世界で
どんぐり橋あたりに来ると鴨川もひと少なくてひとり本読む
生きていた日々がなんだか懐かしいお弁当など作ったりして

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2022年09月30日

雑詠(019)

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明治二十四年建立の殉難碑 廃トンネルの入口に立つ
ぶらさがり茄子の畑にむらさきの茄子あり茄子のかなしみ深く
スクリーン3の暗がりに身をひたす今日もどこへも行けぬ私が
耳の裏にしきりと汗をかくような身体となってタオルで拭う
男性向け料理教室 廊下まで声は響けり女性講師の
枝に止まるゴイサギふいに両脚にちからを溜めて糞を落としぬ
夢も何もないことなれど田舎町の次男に生まれし竹久茂次郎(もじろう)

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2022年09月01日

雑詠(018)

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死臭より淡いけれども枕から漂いのぼるわれの匂いが
氾濫の収まりしのちの萎れたる川を見ており鴉とともに
言いたくて言えないことの百日紅のどから伸びて両目をやぶる
殺処分の囲いのなかに犬たちは交尾しており声を荒げて
弁当の蓋につきたる米粒のたましいなんて空疎なことば
この庭の奥にトイレがあることを知ってる、初めての店なのに
若き日の映画ふたたび見ることの増えて初秋の雲のあかるさ

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2022年07月31日

雑詠(017)

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人と人が袂を分かつということの、陽に乾きつつ紫陽花が咲く
われ先に伸びゆく蔓の尖端を指にむしるも朝顔のため
どこまでものうぜんかずら追いかけて夏のわたしが剝き出しになる
大雨のために動けぬ特急のなか煎餅を嚙む音ひびく
四百九十九体ならぶ羅漢堂 残り一つはわが子だろうか
すこやかに伸びゆく稲に囲まれて七つの墓がなかよく並ぶ
感染者、重症者、死者それぞれにずれるピークをひとは苦しむ

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2022年04月30日

雑詠(016)

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憲吉は三次(みよし)の生まれ弟の三之助のちに原爆に死す
失われもうないものを言うときにむしろ生き生きとことば輝く
用のある人のごとくに晴天の四条大橋をわたりくる猫
捜索するヘリコプターをそれぞれの「本社ヘリから」撮りたるが載る
会うたびに知らない人になってゆく息子と食べるチーズフォンデュを
ちょうどいい加減はなくていつ見ても木香薔薇が咲き過ぎている
かろやかな鳥にも歌はなれるけどあらがいながら昇りゆく凧

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2022年03月31日

雑詠(015)

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日本のあちこちにある城山のあちこちに淡く桜が浮かぶ
赤いまわし青いまわしがぶつかって土俵は円い現実である
やさしそうな男女がならぶ図書館の出口の「本の消毒機」へと
日が失せる前に京都に着くだろう人生はつねに短い宴
傾けば右の車窓に溢れゆくひかりの海を特急は行く
行く人と行かない人が二次会を前にわかれる居酒屋のまえ
手を合わせ長く祈るを見ていたり何を祈っていたかは聞かず

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2022年02月28日

雑詠(014)

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駅前のパン屋の棚に残されてクロワッサンは夜をかがやく
みんなみんな働き者と言うように帽子をかぶるパン屋のひとは
にんげんの骨の接ぎ目に手を当ててほぐしゆくひとの太きゆびさき
パンケーキにじゅんと染みゆくはちみつの傷口はまだ濡れているのに
同じ絵を少し離れて父と見る岡本太郎美術館にて
あなたでも私でもない生き方があっただろうに冬のアオサギ
かたくなに謝罪を拒むスタッフのかなたに冬の海はひろがる

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2022年01月31日

雑詠(013)

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ひさびさに帰省せし子と話したり距離感うまくつかめぬままに
昼までは残ることない雪だろう窓辺に寄ってあんパンを食う
電線がなければこれで完璧な風景になるのだけれども好き
寝床より抜け出していく食べられてわれの身体となりしうなぎが
ひとりずつ残り時間は異なるを同じ写真にうつり微笑む
手をつなぎ父とならんで歩く子の黄色のリュック大きく揺れる
せんべいを売る道端のスタンドのわきに屯(たむろ)す五頭の鹿は

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2021年12月30日

雑詠(012)

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頭を垂れるひとの後ろをジョギングの人が過ぎゆく天皇陵に
落ち着いたらまた戻ってきますと言う人の戻りくることほぼほぼなくて
三十年過ぎてふたたび何もないわたし自身に戻る冬晴れ
介護士・看護師・相談員だれも丁寧で怒りぶつける相手はおらず
目玉こぼれ落ちんばかりの眠たさの道路の脇に生えるかたばみ
炎上ののちに「いいね」を取り消して私のもとを去る人もいる
三郎も二郎もおらず原色の唯一無二のTAROかがやく

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2021年11月30日

雑詠(011)

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みずからの寝息聞きつつ眠る夜の浜にあまたのウミガメのぼる
良いことのおおかた尽きて赤黒くわたしの肺に垂れる柿の実
つややかに粒の揃った歯ならびのとうもろこしを食べる歯ならび
ひとつふたつ命かぞえる食卓に卵ありじゃこありハンバーグあり
湖の水位さがって露出するわたしの声だ見ないでほしい
三人と二人に分かれ座るよう言われ向き合う距離ある人と
楽しそうにご自分の部屋でお話しをされているという母に会いたし

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2021年10月31日

雑詠(010)

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バス席の母に抱かれて眠る子に抱かれて母のからだも眠る
生きている人の姿のない墓地に来て読む本の秋はさわやか
ちょっと話があるんだけどと呼ぶ時も呼ばれる時もちょっとではなく
靴ひもが長くて今日は結べないどう結んでも地面に垂れて
みずからの心あやうき秋の日を川さかのぼり吊り橋わたる
ダージリンに角砂糖ふたつ崩れゆく沈没船のように声なく
こころ治すためにこころに触れることこわいなあ赤くコスモス揺れて

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2021年09月30日

雑詠(009)

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背比べしようって子はもう言わず冷蔵庫あけて牛乳を飲む
停車するバスに向かって駆けてくる少女みるみる媼になって
十六分の一に新聞を折りたたみ電車にめくる技も絶えしか
崖ならば震えるほどの高さより地下へと降りるエスカレーター
眠ろうと明かりを消せばスリッパに叩きし蠅のたましいが飛ぶ
警笛を鳴らし過ぎゆく崖下に平たくならぶ保線のひとら
腫れものに触れるみたいに触れていて傷めてしまう桃もあること

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2021年08月31日

雑詠(008)

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蒸し暑い夜がじりじり更けてゆきともに勝ち点1を分け合う
台風は日本海へと抜けたとか 植木鉢ふたつ路地に転がる
二十年かけて「自由の番人」を駆逐せし者たちのひげ面
もう雨はやんでいるのに傘をさし老女は長く駅前にいる
水しぶき上げるクロールにんげんの身体はどこも目盛りがなくて
三つある案山子のうちの一体が動きはじめて農婦は歩く
ゆうぜんと陸軍伍長の墓石に止まって夏の鴉はかたる

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2021年07月30日

雑詠(007)

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ぬかるみを歩むがごとく梅雨どきの紙の繊維をペン先すすむ
ゆれる、まわる、すべる、かたむく、さまざまな動詞が集う児童公園
声を上げるべきといきおう人あれど怒るかどうかはわたしが決める
東京も夕方六時 時差のない国では続くオリンピックが
また庭のかまきりが猫に捕まった道徳と謹慎のはざまで
死んだ人と死んだ人とが別荘で会話しており古き映画に
きっと母も自宅なら風呂に入るだろう忘れてしまう方が楽だが

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2021年06月30日

雑詠(006)

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です・ますを互いに付けて会話する若いふたりがいる春の町
ひらひらといやふらふらとへらへらと散る桜にも個性があって
おじさんが手を動かせばいくらでも産まれる春のベビーカステラ
最後まで飛び立つことなく壇上にペットボトルの真水はならぶ
何をしてもうまく行かない春だった葱のにおいが鼻から抜けず
割れながら砕けつづける喜びの僕にだってあるポテトチップス
二つ先の駅まで小さな旅をしてこの時期だけのびわのパフェ食む

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2021年05月31日

雑詠(005)

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腹を、切り、裂かれ、卵を、取り、出され、砕かれ、肥料となる鮭の雌
いちどきに咲いたばかりに枯れ果てて躑躅おまえもかわいそうだね
いつだってほんとうのことは生きたまま蟻にたかられゆくカブトムシ
中庭を出られず歩きまわるひと忘れものしたことも忘れて
白、黄色、茶色、水色 ひとことで言えば五月の新緑のやま
おもしろくもないって顔でベローチェにわたしをずっと見ている赤子
心臓の奥に今でも観覧車まわるのだろうひとりひとつの

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2021年04月25日

雑詠(004)

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めぐりゆく池のほとりにみずいろの半券あわく乾いていたり
待ち合わせしているひとが来ないから魚道のわきにアオサギは立つ
風景に終わりはなくて春落葉はがれるように忘れるがいい
少しだけひらいた口を閉じようとせず土気色の多喜二のマスク
美術館となりたる拓銀小樽支店わかき多喜二の勤めしところ
ローソンはどこであったか流れくる微かなみずの匂いを探す
街路樹のわかばに時に目をやすめオティリー・カフカの死ぬまでを読む

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2021年03月29日

雑詠(003)

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訃報ひとつ届いていたり出町座を出てしばらくは川べりを行く
春浅き分譲予定地、一列に生えたばかりの電柱が立つ
〈ミスボルド〉〈ミッスブァイルド〉〈イザベウビルト〉明治日本を旅するバード
だいぶ日も長くなったな春菊とえのきを切って豚バラで巻く
膝のうえに男のあそぶ知恵の輪の解けて終点、終点である
花びらが浮いて流れてゆく春の大仏殿という独居房
なんのためであるのかももうわからなくなってはじまるせいかリレーが

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posted by 松村正直 at 06:27| Comment(0) | 雑詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月27日

雑詠(002)

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人生の残り時間はいかほどか尿意で覚める冬の明け方
ほぼ同じこと繰り返す平日を歩いて駅の段差にころぶ
この先にどんな風景があったろう降りた列車をながく見送る
舗装路に落ちては死んでゆく雨のかがやきそれにしてもよく死ぬ
どのようになっても母は母なれどベランダに伸びて分葱(わけぎ)が青い
台本があればいいのに励ましの言葉はいつも棒読みとなる
思ったより元気だったとだけ伝え母についての話を終える

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posted by 松村正直 at 09:13| Comment(3) | 雑詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年01月31日

雑詠(001)

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いつ来ても清掃中のトイレありさほどきれいというにあらねど
レジを打つひとの背後に整然とならぶ煙草は二〇五種類
手作りのサンドイッチを売る店のお兄さん手の柔らかそうな
カーナビの町と町との境目の峠、二軒のラブホテルあり
放置すればそのまま嘘になってゆくだけ鹿の皮うつくしいから
勝敗の決したるのちなお数手すすめてわれは投了したり
泳ぐのをやめたる鴨は日を浴びて丸まっており冬の中州に

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posted by 松村正直 at 10:05| Comment(0) | 雑詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする