2024年08月12日

村山司『イルカと心は通じるか』


副題は「海獣学者の孤軍奮闘記」。

「イルカと話したい」という夢を抱いて海獣学者となった著者が、手探りでイルカの知覚や認知に関する実験を続けてきた半生を振り返って記した本。

「フィン→⊥」はできるのに、その逆の「⊥→フィン」ができない。(…)おそらく、動物の生態においては何かを逆に考えるということは少ないのかもしれない。
日本で最も飼育されているのはバンドウイルカという種で、水族館のショーでもおなじみのイルカである。このイルカには別名「ハンドウイルカ」という呼び名もあり、現在、日本では両方の名前が存在している。

「バンドウ」と「ハンドウ」、実にまぎらわしい。

好きなことに挑むというのはそれなりの負荷もあるわけで、やりたいことがそのままできる人は多くない。皆、何かしらの紆余曲折を経由する。その一つが失業である。
水族館人にとっては誰でも知っている当たり前のことが研究者には初耳だったということはよくある。

このあたりの研究者の苦労や喜びは、おそらく他のさまざまなジャンルにも当てはまることだろう。

2021年9月20日、新潮新書、780円。

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2023年01月30日

松田純佳『クジラのおなかに入ったら』


ストランディングネットワーク北海道の副理事長を務め、クジラの食性について研究している著者が、自らの研究者としての履歴や研究内容について記した本。

クジラの「ストランディング」(漂着・座礁)については以前にも読んだ記憶があり、同じ本を買ってしまったのかと思ったが別の本であった。

田島木綿子『海獣学者、クジラを解剖する。』
https://matsutanka.seesaa.net/article/484281329.html

ちなみに、本書にもこの田島さんは登場する。

今、世界では91種の鯨種が確認されている。そのうち日本周辺では、なんと41種もの鯨類が確認されている。
クジラの胃内容物からイカの新種が見つかることだってある。深海からクジラがイカを運んで来てくれているのだ。
ストランディングというのはだいたいタイミングが悪い。何かやろうと計画しているときに限って何か打ち上がりがちだ。ストランディング調査を任せてもらえるようになってから、ストランディングが発生すればすべての予定をキャンセルして調査に行く。

道内でストランディングがあったと連絡を受けると、著者はすぐに現地へ調査に出掛ける。「函館から羅臼までは車で10時間くらいかかる」「函館―稚内間は意外と9時間くらいで行ける。稚内で1泊したあと、朝イチのフェリーで利尻島を目指した」といった具合だ。

北海道は広い。そして、研究者には体力が必要なのであった。

2021年12月3日、ナツメ社、1300円。

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2021年11月09日

田島木綿子『海獣学者、クジラを解剖する。』


副題は「海の哺乳類の死体が教えてくれること」。

国立科学博物館に勤務する著者が、20年以上にわたる研究と2000頭以上の調査解剖の経験を踏まえて記した本。私たちのほとんど知らない「海獣学者」の日々が垣間見られて面白い。

2017年に『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)がヒットしてからだろうか、このところ「○○学者の×××。」といったタイトルの本が増えている。

『天文学者が、宇宙人を本気で探してます!』(洋泉社、2018)
『もがいて、もがいて、古生物学者‼』(ブックマン社、2020)
『フィールド言語学者、巣ごもる。』(創元社、2021)

など、各社から続々と刊行されている。本書もその流れと言っていいだろう。

著者はクジラなどが海岸に打ち上げられる「ストランディング(漂着、座礁)」を研究対象にしている。漂着などめったに見られないものかと思っていたのだが、そうではないらしい。

ストランディングは、決して珍しい出来事ではない。クジラやイルカなどの海の哺乳類(海獣)に限っても、国内で年間300件ほどのストランディングが報告されている。

クジラが打ち上がったとの連絡が入ると、何はさておき著者は現場に駆け付け、解剖に取り掛かる。血まみれ臭いまみれの世界だが、ストランディングの原因究明や研究のためには欠かせないものだ。

大型クジラの場合、肋骨や椎骨も、たった1本でさえ、人間が1人で運ぶのは相当困難である。そうした標本の重みを感じつつ、同時に、こんな巨大な動物が、自分と同じ時代に生きている喜びに心が震える。

一冊を通して、著者の海獣に対する思いの強さがよく伝わってきた。

2021年8月5日、山と渓谷社、1700円。

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2021年10月21日

石川梵『鯨人』


インドネシアのレンバタ島のラマレラ村では、手作りの木造船に乗って銛一本でマッコウクジラを仕留める伝統捕鯨が行われている。著者は1992年から4年かけて、初めてその漁の撮影に成功した。

昔ながらの方法で、マンタやジンベエザメ、クジラを捕獲する村人たち。漁は常に危険と隣り合わせで、怪我を負ったり船が沈んだり、死者が出ることもある。そんな彼らの生活に密着し、その生き方や自然観に触れる。

「自分たちは食うために必死に鯨と闘う。鯨も生きるために必死に抵抗する。どちらが勝つかは神様が決めることだ」

著者は鯨漁の撮影に成功した後も村に通い続け、今度は命を奪われる側の鯨の姿の水中撮影に挑む。

現在公開されている映画「くじらびと」の原点がここにある。

2011年2月22日、集英社新書、780円。

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2021年09月16日

映画「くじらびと」

監督:石川梵
撮影:石川梵、山本直洋、宮本麗

インドネシアのラマレラ村で行われている伝統的な鯨漁を描いたドキュメンタリー。監督はこの村を長年取材している写真家で、2011年に『鯨人(くじらびと)』(集英社新書)という本も出している。

手作りの舟と銛だけで、クジラだけでなくマンタやジンベエザメも捕まえる。中でもマッコウクジラ漁の映像は圧倒的だ。舟の上からだけでなく空撮も用いて、ダイナミックな漁の様子を見事に映し出している。

ロープの付いた銛を何本も打ち込まれ、大量の血を流しながら、それでも何とか逃げようとするクジラ。舟に体当たりし、巨大な尾びれを叩きつける。漁師たちも大怪我を負ったり亡くなったりすることもあるので必死だ。

かつて日本で行われていた古式捕鯨も、こんな感じだったのだろう。

シネマ京都、113分。

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2021年04月22日

松浦漬

以前から一度食べてみたかった「松浦漬」の缶詰を買った。


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松浦漬は鯨の「かぶら骨」(上顎の骨の内部にある軟骨組織)を酒粕に漬けたもので、佐賀県呼子の名物になっている。


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原材料名を見ると、ちゃんと「鯨の蕪(カブラ)骨」とある。

蒼海(あをうみ)の鯨の蕪骨(ぶこつ)醸(か)み酒のしぼりの粕に浸(ひ)でし嘉(よ)しとす
           北原白秋『夢殿』(昭和14年)

北原白秋は大正14年夏の樺太旅行の際に、この松浦漬を製造販売する「松浦漬本舗」の創業者の息子と知り合いになり、昭和4年に呼子を訪れた。 

白秋の樺太旅行記『フレップ・トリップ』(昭和3年)を読むと、松浦漬について「鯨ん鑵詰ばこさえとる。全国に出しますもんな」「鯨ん骨ですたい。輪切がえらかもんな。そりゃ珍しか」といった会話が交わされている。


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缶詰を開けると、こんな感じ。
酒粕に唐辛子がすこし混ざった中に「かぶら骨」が入っている。


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かぶら骨を取り出して水洗いすると、こんな感じ。
薄切りにされてクラゲみたいな食感。お酒のアテにいいのだろうな。

有限会社松浦漬本舗は明治25年の創業。
https://www.matsuurazuke.com/
一缶1296円(税込)とけっして安くはないが、120年以上続く伝統の味である。

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2020年11月09日

太地町(その2)


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偶然見つけた海蝕洞から眺めた海。


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レストラン「漁火」の鯨御膳。
ハリハリ鍋、赤身と皮の刺身、竜田揚げ、尾羽毛など。どれも美味しい。


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恵比寿神社の鯨の骨の鳥居。
現在のものは三代目で、イワシクジラのあご骨が使われている。


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燈明崎に向かう道。
左右から枝葉が伸びてトンネル状になっている。この先に岬がある。


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燈明崎。

古式捕鯨の時代にはここに「山見台」があり、沖を行く鯨を見つけたり、捕鯨の指揮を取ったりした。岬に来ると急に雲行きが怪しくなってきて、小雨がパラパラと降り出した。


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和田の石門。

古式捕鯨を始めた和田家の屋敷があったところ。海岸から洞窟のようになった門をくぐると、狭い路地に家が立ち並んでいる。まるで迷路みたい。


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足元のマンホールを見ると、「太地」の文字と海を泳ぐ鯨の絵が描かれていた。


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旅の土産に買った須の子(頬肉)の缶詰と鯨ハム。
ごちそうさまでした。


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2020年11月08日

太地町(その1)

鯨の町として有名な和歌山県の太地町に行ってきた。

同じ近畿圏ではあるけれど、京都からは特急を使っても4時間以上かかる。東京に行く方がはるかに近い。


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JR紀勢線の太地駅。

ホームの壁には鯨や魚など海の生きものが描かれている。駅は町の中心部からは少し離れたところにあり、循環バスが走っている。


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イルカが乗っているポスト。
赤ではなく水色に塗られていて、水しぶきが上がっている。


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まずは、太地町立くじらの博物館へ。

イルカの追い込み漁を描いたドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」の舞台となったこともあり、近年、太地町には動物愛護運動や捕鯨反対派の人たちが来るようになっている。この日も朝から博物館前で、追い込み漁やイルカの飼育に反対する演説が行われていた。


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博物館は1969年の開館ということで、さすがにあちこち古びた感じはあったけれど、展示内容は充実していた。


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古式捕鯨の様子を再現したジオラマ。


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屋外に展示されているシロナガスクジラの骨格標本(レプリカ)。
陸上で見ると驚くほどの大きさだ。


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自然の入り江を使って行われるクジラショー。

3種類のゴンドウクジラ(コビレゴンドウ、オキゴンドウ、ハナゴンドウ)が、飼育員の合図でジャンプしたり、鰭を振ったりする。イルカショーは何度も見たことがあるが、クジラショーは初めて。小さな子供を連れた家族で賑わっていた。


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捕鯨船「第一京丸」。

2012年まで実際に使われていた船が展示されている。船体に「RESEARCH」とあるのは、調査捕鯨を行なっていたため。


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2020年03月08日

岩本久則『クジラの玉手箱』


副題は「生きてるクジラを楽しもう!」。
1995年に小学館より刊行された『キューソクのクジラの缶詰』を加筆・修正して文庫化したもの。

1988年に小笠原で日本初のホエール・ウォッチングを行った著者が、鯨の種類や生態、日本人と鯨の関わり、捕鯨とIWC脱退の問題など、様々な角度から鯨について記した本。

クジラは地球始まって以来、最大の生きものである。
シロナガスクジラは、かつての恐竜よりもさらに大きく、最大記録は30メートルに及ぶ。これはボーイング767の機体とほぼ同じ長さである。
ホエール・ウォッチャーの間では、自分でクジラを発見すると「僕のクジラが潜った」とか「私のクジラを見せて上げる」などと、まるで発見した人に全ての権限があるかのような発言が飛び出します。
当時(19世紀:松村注)の捕鯨は大きな経済活動であり、産業としての位置づけは、現在想像するよりもはるかに重要なものであった。

副題にのある通り、鯨を殺して食べるのではなく、生きている鯨を見て楽しもうというのが、著者の基本的な主張だ。巻末には国内や海外のホエール・ウォッチングのポイントを載っている。機会があれば一度見に行ってみたい。

2019年12月11日、小学館文庫、600円。

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2019年07月17日

加藤秀弘著 『クジラ博士のフィールド戦記』


鯨類研究所、水産庁遠洋水産研究所、東京海洋大学で40年にわたってクジラについての調査・研究を行ってきた著者が、自身の経歴や鯨の生態、IWC(国際捕鯨委員会)の問題などを記した本。

鯨類は鯨目の総称で、このちょっと下の亜目レベルで、ヒゲクジラ亜目(14種)とハクジラ亜目(75種)に分かれる。これらの亜目は(・・・)同じ「クジラ」とついてはいるが、ゾウとライオンぐらいかけ離れた動物群である。
ヒゲクジラでは体格依存的に大人、つまり性成熟に達する。簡単に言えば、ある体格(体長)になると大人になるわけだ。栄養状態が良くなるにつれ、この体長に到達する時間が早くなる。だから、大人になる年齢がだんだん若くなる。

こういう記述を読むと、自分がクジラについてこれまであまり詳しく知らなかったとあらためて思う。

日本は今年6月にIWC(国際捕鯨委員会)を脱退し、7月から商業捕鯨を再開した。その背景には捕鯨国と反捕鯨国の長年にわたる争いや行き詰まりがある。

IWCからの脱退と再加盟を繰り返した他国の例は幾多もある。個人的な切望であるが、IWCに変貌の兆しが見えた時には、是非再加盟を検討してほしい。

IWCの科学委員会のメンバーとして尽力してきた著者の何とも複雑な思いが滲む文章だ。

2019年5月30日、光文社新書、840円。


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2018年10月02日

イルカショー(その3)


捕鯨とイルカショーの関わりの話をもう少し続けたい。

2009年にアカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した映画「ザ・コーヴ」は、「くじらの町」として知られる和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を取材したものだ。

かつて商業捕鯨で賑わった太地町では、商業捕鯨が禁止されて以降、IWC(国際捕鯨委員会)の管轄外である小型捕鯨とイルカ漁が細々と続けられている。

このイルカ漁で獲れたイルカは、地元を中心に食用とされるのであるが、実はそれだけではない。生きたまま水族館に販売されるものもあるのだ。この生体販売は食肉用よりも高額で、漁に従事する人々の大きな収入源となっている。

しかし、このことがWAZA(世界動物園水族館協会)から問題視され、2015年にJAZA(日本動物園水族館協会)は会員資格停止処分を受けることになる。その後、追い込み漁で獲られたイルカの入手を禁止することを決めたJAZAから、太地町の「町立くじらの博物館」が脱会し、他の4施設もこれに追随するという事態になっている。

https://www.sankei.com/west/news/170403/wst1704030007-n1.html

先日、イルカショーで批判を浴びた新江ノ島水族館も、このJAZAを脱会した水族館の一つである。ここに、イルカショーをめぐる問題の根深さがよく表れていると思う。

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2018年09月22日

イルカショー(その2)


今月9日、江ノ島で開催されたセーリングW杯の開会式でイルカショーが行われたことに対して、外国人選手や国際セーリング連盟から批判が起きたことは記憶に新しい。
http://www.afpbb.com/articles/-/3189289

この記事にもあるように、現在イルカショーは「動物愛護団体から残酷な搾取行為として非難されている」状況にある。ストレスのたまる状態で監禁され、見世物にされているという批判である。かつてサーカスの定番であった猛獣ショーが現在ではあまり行われなくなっている状況と似ているだろう。

こうした状況を踏まえて、イルカショーも変化を余儀なくされているのだ。近い将来、イルカショーそのものが見られなくなる日も来ると思う。

実はこのイルカショーの問題と、先日IWC(国際捕鯨委員会)の総会が行われたばかりの捕鯨の問題は、深くつながっている。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13684894.html

鯨とイルカは別物だと思っている人も多いが、生物学的には同じクジラ類ハクジラ亜目に属する生き物である。大きさによって便宜的に呼び分けているに過ぎない。国際的な反捕鯨の運動とイルカショーに対する批判は、同じ「鯨・イルカ保護」という観点から生まれているものなのである。

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2018年09月21日

イルカショー(その1)


先日、久しぶりに京都水族館へ行った。

「京の川」(オオサンショウウオ)「オットセイ」「ペンギン」「京の海」「くらげ」など12のエリアに分かれた展示は見どころが多く飽きない。2012年に施設ができた時には「何で京都に水族館?」と思っていたのだが、行ってみるとやはり楽しい場所である。

今回、気になったのはイルカショーのこと。

「これまでにない芝居を交えた、新しい劇場型イルカパフォーマンス」という触れ込みで、単なるイルカショーではなく、「イルカとトレーナー、そしてパフォーマーが心を通わす姿をありのままに表現した」という内容になっている。
http://www.kyoto-aquarium.com/lalafin/

残念ながら、これがつまらない。

以前のイルカショーは、イルカが高くジャンプしたり、何頭ものイルカが同時にジャンプしたり、イルカの上に人が乗ったりと、ダイナミックで息をつく暇もないほどの迫力のあるショーだった。

それに対して今のイルカショーは、安っぽい芝居の合間に時々イルカがジャンプを見せる程度のもので、ショーとしては格段に劣っていると言っていいだろう。(それでも、遠足に来ている子どもたちは大喜びだったが)

なぜ、こんなことになったのか。
おそらく、近年、イルカショーに対する国際的な批判が高まっていることが背景にあるのだと思う。

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2018年07月21日

イルカ漁の歌


岡野弘彦の歌集『天の鶴群』(1987年)に、「いるか漁」25首がある。

 うらうらと照る日かすめる沖べより舳(へ)さきおし並め舟きほひくる
 大島の風早岬はるかなる潮路の涯ゆ追ひ迫るらし
 三重(みへ)に張る網つぎつぎにしぼられて五百のいるか湾にひし
 めく

まずは最初の3首。

2首目の「風早岬」は伊豆大島にあるので、これはかつて伊豆半島の川奈や富戸で行われていたイルカの追い込み漁に取材したものであろう。何隻もの船でイルカの群れを湾へと追い込み、網で仕切って外へ逃げられないようにして捕獲するのである。

 冬凪ぎの海原とほく追はれきているかは啼けり低き鋭声に
 蒼浪のうねりを越ゆる雌(め)いるかの姙(みごも)れる腹しろくつや
 めく

湾内に追い込まれたイルカたちの様子である。
激しい鳴き声を立てるイルカの中には妊娠中の雌のイルカもいる。

 浮きいでて苦しき息を衝ける背に鳶ぐち打ちて引き寄するなり
 岩むらの上にのりあげ口吻(くちさき)に血を噴きてゐしそれも死に
 たり
 砂の上に切り据ゑられしいるかの首その幾つかは生きてあぎとふ

いよいよイルカの捕獲の場面。
浅瀬に追い込んだイルカの背に鳶口を引っ掛けてナイフでとどめを刺す。
砂浜に並べられたイルカの首はまだ生々しく動いている。

 ひたすらに立ち働けるおほよそはわれより老いて頰骨さびしき
 浜の火に濡れそぼつ身を寄せあひて屠りしのちの顏くらくゐる
 肉削ぎしいるかの骨を背に負ひて夕べの浜を帰りゆく女

イルカ漁に従事する漁師とそれを手伝う女性たちの姿。
捕獲したイルカは浜に引き揚げられ、すぐに解体処理される。
3首目は、骨を持ち帰って何かに使うのだろうか。

     *

伊豆半島でのこうしたイルカ漁は、2004年を最後に、現在はもう行われていない。

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2018年07月20日

映画 「おクジラさま」


監督・プロデューサー:佐々木芽生
副題は「ふたつの正義の物語」

和歌山県太地町のイルカ漁をめぐって起きる様々な出来事を取材したドキュメンタリー。

環境保護団体「シーシェパード」の活動家、外国人ジャーナリスト、右翼団体の活動家、太地町の漁師、町長など多くの人々の発言をまじえつつ、異なる価値観や考え方がぶつかり合う現場を描き出している。

1980年代以降、欧米を中心に反捕鯨の運動が高まりを見せ、近年はイルカ漁(=小型鯨類の沿岸捕鯨)に対しても風当たりが強くなっている。この映画は、捕鯨に賛成か反対かという捉え方ではなく、そうした現状をできるだけ公平に描いている点に特徴がある。

映画の中で太地町に住むアメリカ人ジャーナリストが、「捕獲されるイルカは絶滅危惧種ではないが、太地町のような濃密な人間関係のある暮らしの方が絶滅危機種だ」と言っていたのが印象に残った。

人口3000人の町が抱え込むには大き過ぎる問題だろうと思う。

2017年、日本・アメリカ、96分。京都シネマにて。


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2016年07月08日

『海豹島』 のつづき

樺太から北海道に戻ってきた鈴鹿野風呂は、8月18日に網走を訪れる。ちょうど港には鯨があがったところであった。

 鯨揚ぐ知らせの笛の長鳴りす
 捕鯨船舳の銛の日を返す
 高鳴れる轆轤に鯨あげらるゝ

「轆轤」と言うと茶碗でも作るように思ってしまうが、ウインチのことである。尾びれにロープを掛けて吊り上げるのだ。

 鯨さく長柄包丁両手もち
 鯨さく忽ち磯を赤にそめ
 割かれゆく鯨の肉のなだるゝよ

岸に揚げられた鯨は、その場ですぐに解体されたようだ。
海の水が血に赤く染まってゆく。

 鯨割く仔鯨出でゝいとしけれ
 鯨さく尼も遊女も見てゐたり

解体された鯨はメスだったようで、お腹の中から胎児の仔鯨が出てくる。
港には大勢の見物客が集まっていたようだ。
「尼も遊女も」の句が、一連20句の最後となっている。

ちなみに網走は、現在でも国内に残る数少ない捕鯨の町の一つである。
http://www.city.abashiri.hokkaido.jp

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2016年05月19日

伴野準一著 『イルカ漁は残酷か』


和歌山県の太地町で行われているイルカの追い込み漁は、近年、国際的な批判にさらされている。関係者へのインタビューや資料に基づいて、この問題をどのように考えれば良いのかを示したノンフィクション。

こうした問題に関して公平・中立な立場を取るのは難しいし、そのような立場が存在するかもわからない。それでも著者が努めて冷静に客観的に記述しようと心掛けていることはよく伝わってくる。好著と言っていいだろう。

和歌山県が最も多くイルカやゴンドウを捕っているわけでもない。小型鯨類の捕獲頭数を県別にみると一位は常に岩手県で、(・・・)和歌山は捕獲頭数では大きく水をあけられた万年二位の県である。

といった事実や、太地町のイルカ追い込み漁が伝統的なものではなく1972年頃に新しく始まった漁法であること、「ザ・コーブ」に主演した活動家リック・オバリーがかつてイルカの調教師であったことなど、私の知らなかったことが多く記されている。

また、バンドウイルカに関して言えば、食肉としての利用(1頭1万円程度)よりも水族館への販売(1頭40万〜70万円)が目的となっていることなども明らかにする。

そのうえで、著者は漁師へのヘイトスピーチや違法行為を繰り返すシーシェパードなどに対して厳しく非難するとともに、私たち自身の問題についても問いかけるのだ。

傲慢不遜な彼らに対する反発から、私たちのなかからイルカ漁について虚心坦懐に考えようとする気運が失われてしまったことも事実である。

文化と伝統、漁業の衰退、地域振興、環境保護、動物福祉など、多くの問題を考えさせる一冊であった。

2015年8月11日、平凡社新書、840円。

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2016年05月03日

映画 「ビハインド・ザ・コーヴ」

副題は「捕鯨問題の謎に迫る」。
撮影・監督・編集:八木景子。
http://behindthecove.com/

2009年に公開されアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した映画「ザ・コーブ」。そこに描かれた和歌山県太地町を訪れて、町の人々やシーシェパードの活動家に取材し、さらに水産庁の役人や学者などの意見もまじえて、捕鯨問題とは何かに迫っていく。

この映画を観て一番感じたのは「公平」や「中立」に立つのがいかに難しいかということ。そもそも、そんな立場など存在しないのだろう。この映画は、両者の意見を聞きつつも、基本的には反「コーヴ」の立場から撮られていると言っていい。

結局、よくわかったのは、捕鯨問題が単なるクジラの問題を離れて、自然保護団体や各国の政治的な思惑の中でもはや身動きの取れない状況にあるということである。

捕鯨問題をナショナリズムと絡めることなく理性的に論ずるにはどうすれば良いのか。そこが問われているのではないかと思う。「アメリカもかつては捕鯨をしていた」とか、「オーストラリアでは牛や羊を食べている」とか、「アングロサクソンは自分たちが偉いと思っている」といった反論は、残念ながらほとんど意味をなさない。

上映終了後、観客席からは拍手が起きた。「よくぞ言ってくれた!」という気持ちはわかるのだけれど、私には何とも重い気分が残った。

京都みなみ会館。107分。

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2013年09月30日

長崎味めぐり

JR京都伊勢丹の地下2階食料品売場で、10月1日まで「長崎味めぐり」が開催されている。
そこに長崎の鯨専門店「くらさき」も出店中。

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「鯨カツ弁当」(1000円)と「鯨の竜田揚げ&鯨カツのセット」(1500円)を購入。
どちらも、しっかりとした味付けで美味しかった。

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2013年04月19日

ながさき鯨カツ弁当

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デパ地下を歩いていたところ、長崎市の鯨専門店「くらさき」が出店していたので、「ながさき鯨カツ弁当」を買う。1050円。ついでに単品の「鯨の竜田揚げ」も。

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使われているのは南氷洋産のミンククジラの肉。「鯨カツ」「鯨そぼろ」「鯨竜田揚げ」の3種類の味が楽しめる弁当になっている。

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2013年02月13日

鯨の歌

「塔」2月号に「鯨の歌を読む」という文章を書きました。

最近関心を持っている鯨のことを、短歌作品を通して考えてみようという内容です。「鯨」×「短歌」という感じですね。石榑千亦、川田順、吉植庄亮、佐藤佐太郎といった人たちの歌を引きました。

2月号に前編として5ページ、3月号に後編4ページが載ります。
どうぞお読みください。

一度和歌山県の太地町へも行ってみたいと思っています。

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2013年02月04日

クジラかるた展

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天保山マーケットプレースの海遊館サテライトギャラリーで開催中の「クジラかるた展」へ。
「かるたでわかるクジラのヒミツ」と題して、鯨に関するかるたがパネル展示されているほか、実際にクジラかるたで遊べるようにもなっている。

このクジラかるたは、和歌山県に住むホエールアーティストあらたひとむさんの制作したもの。あらたさんはクジラをモチーフにしたイラストやグッズ、絵本など、数多くの創作活動をしている。

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「は」の札には

 鼻の穴
  ハクジラひとつ
   ヒゲふたつ


とあり、次のような説明がある。
ハクジラはイルカなどを見ればわかるように三日月形の鼻孔が1つで、ヒゲクジラは人間の鼻のような形で鼻孔が2つある。

これを読んで思い出したのが
マッコウは一つでザトウは二つです背にある鯨の鼻孔を知りつ
           今井恵子『やわらかに曇る冬の日』

という歌。沖縄でホエールウォッチングをしている場面を詠んだ連作の中の一首だ。

マッコウクジラとザトウクジラの見分け方を教えてもらっているのだが、つまりマッコウクジラはハクジラで、ザトウクジラはヒゲクジラであるということなのだろう。

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2012年12月02日

くじらの寿司

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昨日のお昼は藤井大丸「タベルト」で見つけた鯨の握り寿司。
ミンククジラの赤身、ナガスクジラの畝須ベーコン、クジラユッケ×各2貫。

どれも初めて食べたが、おいしかった。


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2012年09月15日

大隅清治著『クジラと日本人』



著者は財団法人日本鯨類研究所理事長(当時)。

日本人と鯨の歴史的な関わりや捕鯨文化、クジラ資源の管理方法やIWC(国際捕鯨委員会)の現状など、クジラをめぐる様々な問題を学者の立場から論じている。

日本で捕鯨が発展した要因として、天武天皇以来、獣類を殺して食べることを禁止する詔が何度も出されていた中で、鯨は魚と見なされて食べることが許されていた点を挙げているのが興味深い。

猪の肉のことを「山鯨」と呼ぶのにも、そうした背景があるのだろう。つまり鯨であればOKだったということだ。

2003年4月18日、岩波新書、700円。

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2012年08月29日

秋道智彌著『クジラは誰のものか』



著者は人類学者で、総合地球環境学研究所名誉教授。

クジラと日本人、クジラと人間との関わりについて、経済、文化、政治、歴史、環境など多面的な角度から論じた本。「捕鯨か反捕鯨か」「消費か非消費か」「商業捕鯨か原住民生存捕鯨か」といった二元論に立つのではなく、クジラと人間との関係は多様であり、その多様性を守ることこそが大事なのだと主張する。

例えば、捕鯨に代るものとして、反捕鯨国や団体が推奨する「ホエール・ウォッチング」や「ドルフィン・スイム」についても、著者は次のように述べる。
イルカと遊ぶドルフィン・スイムの体験者と、捕鯨でクジラを仕留める捕鯨者とはまったく違った世界にいるようなものの、体験という共通項で両者はどこかで共有できるものをもっているはずだと考えたい。それはほかでもない、生き物との直接対決ということである。
この文脈で考えた時、おそらく両者の対極にあるのは、クジラに対して無関心であること、海の生き物に対して関心を持たないことなのだということが、よくわかる。そして、実はそちらの方が問題としては深刻なのかもしれない。

2009年1月10日発行、ちくま新書、740円。

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2012年06月09日

くじらうどん


「魚菜酒房くさび」というお店で昼食をとった。
地下鉄「烏丸御池」駅から歩いてすぐ。
民家を改装した作りになっていて、一階はカウンタ8席と個室、二階は座敷とテーブル席になっている。

ここの平日のランチメニューに「くじらそば・うどん」がある。850円。
早速、くじらうどんを注文する。

メニューには「当店オリジナル。くじらの出汁と鰹、鯖、昆布出汁を合わせたっぷりの水菜でどうぞ」と書かれている。

甘辛い出汁とシャキシャキの水菜がよく合って美味しい。
鯨の細切れの肉もたくさん入っている。
うどんの他にいなり寿司も二つ付いていて、ボリューム十分であった。

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2012年06月08日

鯨肉


このところ、捕鯨やクジラに関する本を読んだり、ドキュメンタリー番組を見たりしているのだが、実は鯨肉を食べた記憶がほとんどない。

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というわけで、山口へ行ったお土産に鯨肉の商品を買ってきた。
「くじらの竜田揚げ」「くじらカレー」「鯨の大和煮」の三品。

クジラと一口に言っても、シロナガスクジラ、マッコウクジラ、ザトウクジラ、コククジラなど様々な種類がある。今回買った商品に使われているのは、すべてミンククジラ。

ただし、1986年から大型の鯨を対象とする商業捕鯨は全面禁止となっているため、これらの鯨肉は調査捕鯨の副産物として販売されているもの。「調査捕鯨ミンク鯨使用」などと表示されている。

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2012年05月31日

小松正之著 『宮本常一とクジラ』

水産庁の漁業交渉官として国際捕鯨委員会などの場で活躍した著者が、宮本常一の本をたどりつつ、西日本に残る伝統捕鯨の跡をフィールドワークして訪ね回ったもの。

登場するのは、山口県長門市、三重県鳥羽市、和歌山県太地町、長崎県五島列島、佐賀県呼子町、対馬、壱岐、周防大島など。

著者の主張は明確だ。

海に囲まれた日本は水産資源を有効に活用することが大切で、資源の枯渇を防ぎつつ、漁業に力を入れていくことが、海沿いの町や離島の活性化には必須だというもの。そのために、外国に対しても主張すべき点はきちんと主張して、捕鯨を守らなくてはいけないということになる。

時おり、排外的なニュアンスの文章や自分の功績を自慢する文章がまじるのが気になるが、著者の述べるところはよくわかる。そうした著者の信念の根元には、生まれ育った町の風景があるらしい。
筆者の原点は、漁村の生まれであるというまぎれもない事実である。岩手県陸前高田町という、沿岸漁業とワカメ、カキなどの養殖業、沖合で操業するイワシ巻網漁があり、そしてクジラを追って南氷洋や北太平洋の金華山沖に行くもの、北洋のサケ・マス漁業に従事するもの、三九トンの木船で遠洋マグロはえなわ漁業に従事するものがあった。

日本の漁村に往時の活気を取り戻したい、そういう熱い思いが著者を支えているのであろう。

2009年2月25日、雄山閣、2000円。

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2012年05月03日

柴達彦著 『鯨と日本人 新版』

かつて南氷洋捕鯨に参加していた著者が、鯨と日本人の関わりや、捕鯨の歴史、捕鯨に生きた人々の姿などを記した本。

1982年のIWC(国際捕鯨委員会)の商業捕鯨停止決議を受けて1988年に日本が商業捕鯨をやめるに至る時期に書かれた本であり、序章の「捕鯨存続をかけて」にはやや感情的な表現が目立つ。

しかし、全体としては、鯨料理や鯨に関する文化の紹介なども含めて、日本人と鯨の結び付きの深さがよく描かれている。

この本の良いところは、実際に捕鯨に従事した人ならではの愛情が随所に表れている点だろう。単なる懐かしさではなく、鯨とともに生きた人々の姿を記録にとどめたいという思いが、ひしひしと感じられる。

1988年2月20日、洋泉社、1700円。

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2011年06月30日

小松正之著 『日本の鯨食文化』


副題は「世界に誇るべき“究極の創意工夫”」。

水産庁に勤めてIWC(国際捕鯨委員会)での交渉などを担当してきた著者が、捕鯨や鯨肉について様々な角度から論じた本。その根底にあるのは、クジラを食べることが日本の伝統的な食文化であるという一貫した観点である。

私は著者が言うところの「クジラを食べたことがない世代」である。学校給食の定番であったという「クジラの竜田揚げ」も食べた事がない。この本には、クジラ一頭をあまさず食べてきた歴史や料理法などが記されており、どれも興味深いものであった。千葉県南房総市、和歌山県太地町、山口県長門市、長崎県上五島町、佐賀県唐津市など、日本各地のクジラゆかりの土地も紹介されている。

また、戦後の食糧不足を鯨肉が救ったという話も出てくる。GHQは終戦の年には小笠原諸島での捕鯨再開を認め、翌昭和21(1946)年には日本が南氷洋に出漁することを許可した。
一九四七年二月、約三四〇トンもの鯨肉を積載して、南氷洋の捕鯨から帰還した鯨肉運搬船・第三十二播州丸が東京の築地港に入港した際には、熱狂的な歓喜に国民が沸いた。

これを読んで思い出すのは、茂吉の歌である。
わが国の捕鯨船隊八隻はオーストラリアを通過せりとぞ  昭和22年『白き山』
南海より帰りきたれる鯨船(くぢらぶね)目前にしてあなこころ好(よ)や

遠洋捕鯨の再開が敗戦後の日本を元気づけた様子がよく伝わってくると思う。

ところどころに「アングロサクソン国家の誤った抑圧」といったナショナリズム色の強い表現が出てくるのが残念だが、捕鯨をめぐる現在の国際情勢を考えると仕方がないのかもしれない。

2011年6月10日、祥伝社新書、780円。

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2011年03月11日

キラー・ホエール

『知床・北方四島』に「シャチのクジラ狩り」の話が載っている。択捉島と国後島の間の国後水道で、シャチの群れがミンククジラを襲っている様子である。それに続けて
択捉で遭遇したのは「キラー・ホエール」の英名を実践する通過型のシャチだった。

と書かれている。英語でシャチのことを「キラー・ホエール killer whale」と言うことを初めて知った。しかし、どうも疑問が残る。「英名を実践する」とあるが、この英語は「殺し屋クジラ」という意味であって「クジラ殺し」ではないのではないか。それならば「whale killer」とでもなるところだろう。

シャチを広辞苑で調べてみると
クジラ目の歯クジラの一種。体長約9メートル。(…)クジラを襲うので、土佐方言で「くじらとおし」という。

とある。シャチもクジラの一種ということなので、やはり「キラー・ホエール」は「殺し屋クジラ」ということだろう。でも、クジラの一種なのにクジラを襲うことで知られているわけだから、話がややこしくなる。

大辞林には「鯨に鯱」という慣用句も載っていて、
(シャチが鯨を襲う様子から)どこまでもつきまとって害をなしたり、邪魔をしたりすることのたとえ。

とある。ただし、この「鯱」は「しゃち」ではなく「しゃちほこ」と読むらしい。しゃちほこと言えば、あのお城の屋根に載っているやつだ。しゃちほことシャチ。ますますややこしい。「麒麟」と「キリン」のように、想像上の動物と実在の動物という関係なのだろうか。
posted by 松村正直 at 18:46| Comment(0) | 鯨・イルカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする