副題は「帝国日本最後の戦い」。
帯に「5万部突破」と記されていて、かなり話題になっている本である。これまで一般向けに書かれた日ソ戦争の本があまりなかったからであり、またロシアのウクライナ侵攻も影響しているのだろう。
新書なのでそれほど内容に厚みがあるわけではないが、1945年8月8日から9月初めまで続いた日ソ戦争の経緯や影響がコンパクトにわかりやすく記されている。
日ソ戦争は半月足らずの戦争だったが、残した爪痕は大きい。日本にとっては敗戦を決定づける最後の一押しとなっただけではない。シベリア抑留・中国残留孤児・北方領土問題などはこの戦争を起点とする。広い意味では、朝鮮半島の分断や、満洲で国共内戦が始まったのもこの戦争がきっかけだ。東アジアの戦後は、日ソ戦争抜きには語れない。
こうしてソ連軍が旅順と大連へ一番乗りを果たす。八月二十二日、ソ連軍の空挺部隊が両市に進駐する。ようやく九月二日になって米軍の巡洋艦二隻が大連に入港したが、すでに街はソ連軍が掌握しており、なす術もなく退去した。ソ連の支配下に置かれた大連と旅順には中国共産党が進出する。国共の内戦中に大連は中国共産党の重要な拠点となった。
南樺太と千島列島における戦いは、二重の意味で埋没している。まず、日ソ戦争自体がアジア・太平洋戦争のなかで埋没し、個別に論じられることが少ない。さらに、日ソ戦争のなかでも光が当たるのは犠牲者の多い満洲だったからだ。
ソ連領内に空軍基地を借り、日本本土を爆撃するのは、アメリカの悲願だった。日米開戦後すぐの一九四一年一二月一一日、ハル国務長官はマクシム・リトヴィノフ駐米ソ連大使に、カムチャツカ半島かウラジオストクで爆撃機の基地を提供してほしいと要望した。
日ソ戦争から今年で80年。その影響は今も続いていると言っていいのだろう。
2024年9月25日初版、2024年12月10日9版。
中公新書、980円。