副題は「樺太の戦争、そしてウクライナへ」。
1941年に樺太で生まれ1946年12月に函館に引き揚げた著者が、樺太で見た戦争や戦後の生活、そして平和に対する思いを記した本。
幼い私はカレオフとの親交によってロシア人は怖い人という印象がきれいに消えていった。怖いのはロシア人ではなく、戦争というものだったのだ。戦争は人間を敵味方に分断する。でも戦争がなければ、ロシア人と日本人は敵味方ではない。
日本では1954(昭和29)年に『空飛ぶダンボ』という題名で初公開された映画である。私はその映画を日本公開より8年も早い、1946(昭和21)年に見てしまったのである。
引き揚げはすべての財産を樺太に置いていくということでもあった。家や土地だけではなく、銀行との取引は停止され、樺太での預金は預金者の請求には及ばないものになるというのが外務省の見解だった。
昭和24(1949)年7月に終結を見るまでに、函館は総数31万1877人の引き揚げ者を迎えた。敗戦時の樺太の日本人の数は約40万人といわれているので、その多くが函館に上陸したということになる。
以前、函館を訪れた時に「樺太引揚者上陸記念碑」というものを見たことがある。
https://matsutanka.seesaa.net/article/460306601.html
著者はテレビ制作者となってから、「北のグルメ―樺太への旅」「ベルリン美術館―もう一つのドイツ統一」など国際交流の番組制作に携わった。幼少期の戦争や引き揚げの記憶が、平和に対する強い思いを生み出したのだろう。
2023年8月18日、岩波ジュニア新書、940円。