幕末から明治にかけて活躍した松浦武四郎(1818‐1888)の生涯と、彼が晩年に建てた一畳の書斎について、多数の図版や写真を織り交ぜて紹介した本。
探検家、著述家、古物蒐集家などマルチな顔を持つ松浦の業績を伝えるために、さまざまな工夫が施されている。松浦がフィールドワークに使った「野帳」の複製を綴じ込んだり、「新版蝦夷土産道中寿五六(すごろく)」の複製を折り畳んで綴じ込んだり、縦長の「北海道人樹下午睡図」を見開き2ページを使って横向きに印刷したり、眺めているだけで楽しくなってくる。
江戸で習得した篆刻で旅費の一部を捻出したが到底足りず、野宿でしのいだり、時には旅先で出会った人々の世話になったりもした。返礼として、彼らが伊勢参りをする際は、一宿一膳を提供するよう実家宛の書簡で頼んだ。
伊勢街道に面した土地(現在の松阪市)に生まれ育ったことは、松浦の生涯に大きな影響を及ぼした。帝釈天の参道に家がある寅さんにも似たエピソードだ。
松浦が全国から取り寄せた銘木などを集めて建てた「一畳敷」は現在、国際基督教大学の構内に保存されている。いつかぜひ公開されている時に見に行きたい。
2010年6月15日第1刷、2019年9月20日第5刷。
LIXIL出版、1500円。