戦時下の神戸の怪しげなホテルで過ごした日々を描いた自伝的小説。
「俳句」に昭和29年〜31年に連載された「神戸」(全10話)と「天狼」に昭和34年に連載された「続神戸」(全5話)を収めている。
めちゃめちゃ面白い。
国籍も職業もさまざまな人が出入りするホテルを舞台に、楽しくも哀しい人間模様が繰り広げられる。どこまでが事実でどこからがフィクションなのかはわからない。
わたしは四十五歳で、徴兵の最高年齢は、当時たしか四十二歳であったから、兵隊に引っぱり出される心配はなかったが、私の俳句友達は、私より年下の人が多かったから、もしかすると、汽車の窓から、神戸市民に別れの歓声を投げ掛ける兵隊達の中に、彼等の一人がいるのかもしれなかった。
昭和十八年の頃、東京には時々B29が現われたが、神戸は街全体がポカンと虚脱していて、市民にも国際都市特有の呑気さがあった。
神戸という街は、戦争中、流言のルツボであった。つまり、スパイの巣であった。県庁の外事課は、そのためやっきになっていたが、いわゆる敵性国、盟邦の、両方の人間が、日本の敗色濃い情報を流す。
戦時下にぽっかり空いた別世界のような、猥雑で非日常的で自由な空間。それは後にも先にもない、このときだけ出現した世界だったのかもしれない。
2019年7月1日発行、2025年9月20日6刷。
新潮文庫、490円。









































