早稲田短歌会を経て同人誌「羽根と根」に参加する作者の第1歌集。
ホチキスの針をどっちに打つかって話したせっかくの風のなか
花の名を教えるひとと聞くひとのそれぞれにそれぞれの花園
ほんとうに山下町は山の下 ゆっくり過ぎてゆくでかい犬
行きつけのようでそうでもないようなファミレスで夏の雨をみている
行き先は同じだけれど行く道がことなるバスが三台つづく
感情はむしろ孤島に咲いていて、そうだとしても言葉をつなぐ
ずっと一緒にいたいと思う/思わない 商店街のアーチをくぐる
陸橋と思い渡っているうちに眼下に見えてくる細い川
朗読をかさねやがては天国の話し言葉に到るのだろう
目を伏せていたって冥王星でだってあなたがめげていたらわかるよ
1首目、三つの促音と句またがりの生み出すリズム。右上か左上か。
2首目、頭の中の花園が違う。「それぞれの」「花園」が響き合う。
3首目、わが家の近くにある山下町も確かに山の下に位置している。
4首目、「行きつけ」の顔なじみ感には個人の店のイメージが強い。
5首目、終点まで行くならどれも一緒だが、そうでなければ要注意。
6首目、感情を相手と共有するのは難しい。下句に強い思いが滲む。
7首目、「思う」「思わない」が同時に存在することもあるのが心。
8首目、川の出現により「陸橋」だった構造物が「橋」へと変わる。
9首目、朗読に慣れてくると良くも悪くも言葉が透明になっていく。
10首目、冥王星の遠さと暗さ感が初句と重なる。「め」の音の響き。
2025年2月28日、書肆侃侃房、2000円。