「顧問作品」「会員作品」「OB作品+ミニエッセイ」「エッセイ」「企画」「評論」「立命短歌史」「吟行」「前号評」「活動記録」「規約」と、充実した内容。全144ページ。
印象に残ったものを順番に挙げていく。
○エッセイ 菊池まどか「菊池まどかの電子書籍を買わない暮らし」「少しくらい値段が高くても、ちゃんとしたものを売ってまっとうに商売をしている、小さな商店にお金をまわすことに決めたの」という友人エミリーの言葉に触れて、それを実践するようになる作者。私も共感する。以前だったら「何を青臭いこと言ってんの」と言われそうな内容なのだが、こういう「まっとう」な感覚が実は大事なのだ。
○会員作品いつからかヒエラルキーの枠外に置かれたほうれん草のおひたし
加藤綾那
座らせてあなたに缶を手渡せばあらゆる花としてさくらばな
村松昌吉
新設の書架のひかりを浴びながらレーニン全集、とほい呼吸よ
濱松哲朗
○宮ア哲生「立命短歌史U」「立命短歌」創刊号に掲載された「立命短歌史」の続編、補足編。
その後あらたに判明したことや見つかった資料などを取り上げつつ、第一次から第四次までの立命短歌会の歴史を描き出している。非常に緻密な内容で、資料の探索力にも驚かされる。
今後我々が立命短歌史を編んでいくにあたって、先代「立命短歌史」(1970年に書かれたもの:松村注)が明らかに出来なかったことをいかに盛り込めるかは、重要な課題点である。
立命短歌史について文章化するとき、思い起こせばいつも意識していることがある。それは、四〇年後の立命短歌会に所属する後輩に、見知らぬ先輩が通ってきた過去を学びたいとする後輩に、少しでも自分の調査事項、知識、考察を伝えたい、ということである。
40年前に書かれた文章を読みながら、40年後のことを意識する著者。歴史のバトンをつなぐこうした観点は、今、非常に大切なものだと思う。
○評論 濱松哲朗「坂田博義ノート〈前篇〉」第3次立命短歌会に所属し、1961年に24歳の若さで亡くなった坂田博義について、残された作品や資料を丁寧に読みつつ、著者はその実像に迫っていく。
興味深かったのは、坂田が教育実習で訪れた北海道の中学校の校長が、坂田の父だったのではないかという推論である。その上で著者は「教員である父への思いの屈折」「家や父に対する坂田の屈折」を導き出す。こうした指摘は、たぶん初めてのことだろう。これは重要な点だと思うので、ぜひ確証を掴んでほしい。
坂田のライバルであった清原日出夫については、野一色容子さんの2冊の評伝によって、かなり詳細なことまでわかってきた。坂田博義についても、同じようにいろいろなことが明らかになっていくのを期待したい。
2015年9月20日、立命館大学短歌会、500円。