2023年09月19日

同人誌「北公園」

 DSC01376.JPG


「島根県塔短歌会員有志」8名による同人誌。
連作5首とミニエッセイ、題詠「北」とその歌評が載っている。

たまごやきもっていこうね まだ冬とよばれる日々にもひなたはあって/日下踏子

どこかにピクニックに出掛けるような楽しい気分。ひらがなの多さが相手との穏やかな関係を感じさせる。

白線を見ながら歩く 正しいことばかりしているわけじゃないこと/上澄 眠

道路に引かれた真っ直ぐな白い線は正しさを感じさせる。でも、人生はなかなかそうはいかないもの。

小学校で一番地味な場所だった西側校舎の石炭置き場
/小山美保子

地味だったのに何十年経っても忘れられない記憶として残っている。きっと好きな場所だったのだろう。

声が聞きたい だからといって覗いてはだめだよ昼の製氷室を
/田村穂隆

ダメと言われるとかえって覗きたくなってしまう。製氷室の中には一体どんな声がうごめいているのか。

千一羽折ってしまった鶴一羽折り紙に解く 赦してあげる
/丸山恵子

人間の願いや祈りが込められているから、千羽鶴はたぶんしんどい。だから折り紙に戻すのは解放なのだ。

題詠「北」の歌評を見ると、お互いの作品をよく読み込んでいることがわかる。第4回BR賞でも、日下踏子さんが田村穂隆『湖とファルセット』を取り上げた書評が佳作に入っていた。

今のところ同人誌「北公園」は単発の発行のようだが、2号、3号とぜひ続けて欲しい。

2023年2月26日、北公園編集委員会。

posted by 松村正直 at 19:08| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年07月28日

「歌壇」2023年8月号

坂井修一の対談シリーズ「うたを生きる、うたに生きる」の第7回。永田和宏との対談がおもしろかった。

印象に残った箇所を引く。

永田 最近、もう一つ、「手渡す時間」がすごい大事だと思っている。時間って直線的に流れて行くと思っているんだが、実は一つ一つ手渡されているという意識がないと流れていかないんじゃないか。これは物理的な時間とはちょっと違って、生物学的な時間でもある。
永田 それが、さらに日本人の中のアイデンティティの分裂と言うか、ギャップを生んでいて、つまり日本人は江戸から明治と続いてきた自分たちの歴史を一つのものとしてなかなか実感できないところがある。
坂井 日本の伝統の中でも良いものは、近代短歌がつなぎ損なったものも多い。それは、文化伝統を継ぐ立場としては、恥ずかしいことではないかと思うことがあります。
坂井 基本はすごくピュアで、多くが単純なものなんだけど、それゆえに深いものがあるんですよね。そこへカジュアルにつなげられるかどうか、すごく難しくて、私がいちばんうまくいってないことかもしれない。岡井さん、塚本さんなどもそうです。

それぞれの問題意識がはっきりと出ていて、印象に残った。

posted by 松村正直 at 07:04| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年07月10日

「パンの耳」第7号刊行

 pan7.jpg

同人誌「パンの耳」第7号を刊行しました。
前号よりメンバーが5名増えて20名になりました。


mokuji7.jpg

20名の連作15首とエッセイ「街のうた」を収めています。
A5判60ページで定価は300円。
現在、松村のBOOTHにて販売中(送料無料)です。

https://masanao-m.booth.pm/

今後、葉ね文庫さんや9月10日の文学フリマ大阪でも販売する予定。
みなさん、ぜひお読みください!

posted by 松村正直 at 22:14| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月24日

「COCOON」28号

結社「コスモス」の若手メンバーによる季刊の同人誌。作品、評論、時評、エッセイ、書評、コラムなど多彩な内容となっている。

「親が先生なのになるの?」と人は言う「だから」はからから転がっていく
教員はサブスクリプション驚きの低価格にて働かせ放題
/山田恵里「チョークかたかた」

子が教員になったことを詠んだ連作。作者も教員だ。1首目は「なのに」に傍点がある。かつては親の姿を見て教員を志す人も多かったが、近年は逆になっているのだろう。残業や休日出勤が多く、過重な負担に苦しんでいる。

「やせたい」は口だけでしょう?メガ盛りに豚汁(とんじる)つけて玉子もつけて
ないでしょう、やせる気なんて。吉野家の帰りにフラペチーノも飲んで
/伊藤祐楓「あずき色の看板」

牛丼チェーン店での飲食の様子を詠んだ作品。「やせたい」と言いながら、ついつい食べ過ぎてしまう。引用歌は連作の5首目と12首目。こんなふうに離れた場所に置かれることで、連作の横のつながりをうまく生み出している。

つり革にからだあづけておもひをりわが部屋にゐるまりも、さぼてん
春の日のアンリ・マティスの丸めがねしらくものうへにうかびつつあり
/岩ア佑太「菜種梅雨」

ちょっとした気分や雰囲気を醸し出すのがうまい作者。1首目は「まりも」「さぼてん」のひらがな表記が、生きものを飼っているみたいで効果的。2首目はマティスの絵ではなく眼鏡が思い浮かんでいるところが面白い。

ほんたうに雨になつた、といふ声を窓の反射に聞いてをりたり
人体の手がかりとして歯の治療してきた人とみる海のいろ
/有川知津子「手がかり」

1首目は、窓の外を見て独り言のように呟く人の声を部屋の中で聞いている。二人の距離感のようなものが印象的だ。2首目は万一事故などで亡くなった場合に身元確認の「手がかり」になることをふと思ったりするのだ。

ささやかな高揚のあり〈らっきょう玉〉ふたつひねって判子(はんこう)出して
これはかつて地層の一部だったもの唇(くち)は触れおり備前の土に
/大松達知「らっきょう玉」

「らっきょう玉」という言葉は知らなかったけれど、「判子」が出てきたのでわかった。印鑑ケースやがま口財布の留め具のことか。なるほど、らっきょうの形に似ている。2首目は備前焼の器。言葉によって認識や世界が変わる。

フィナンシェに飾られてゐる塩漬けのさくらが出会ふ今年のさくら
桜より櫻の漢字が合ひさうなやまざくら咲く百円硬貨
/杉本なお「さくらの釣銭」

舞台は桜まつり。1首目、お菓子に載っている桜は塩漬けで保存された去年の桜なのだろう。2首目、「桜」と「櫻」の密度の違い。百円玉にデザインされている八重桜は、確かに花びらの密度が濃い。思わず確認してしまった。

一人一人の作品は別々で多様だけれど、全体としてのまとまりや方向性は感じる。このバランスが、同人誌の大切なところだろう。みんな同じになってしまってはダメだし、かと言ってみんなバラバラでは意味がない。その加減がちょうど良くて心地いい。

散文では、梅田陽介「酒造りの歌から滴る情の露」が出色。中村憲吉の歌集『しがらみ』を取り上げている。

近代的な酒造りに必要な革新技術が形になったのは昭和十年頃とされているため、近代化直前の酒造りの情景を立体的に描写している点でも歴史資料的な価値がある。
この製法は生酛造(きもとづく)りといい、人工の乳酸菌を添加する安定した清酒製造法が確立した現代では希少なものになってしまった。

酒造りに関してとても詳しいなと思ったら、巻末の質問コーナー「最近食べたおいしいもの。」に「酒造りが終わって、四ケ月ぶりに食べた納豆」と書いていた。なるほど、同業者だったのか。酒蔵に納豆菌を持ち込まないように、仕込み期間は納豆を食べられないのだ。

今から100年以上前に刊行された歌集を取り上げているところに好感を持つ。こうした文章が載る同人誌には信頼が置ける。大地にしっかり根を張っている感じ。きれいで美しい花を咲かせることも大事だけれど、それと同じくらいに、太い根を張っていることも大事だと思う。

2023年6月15日、500円。

posted by 松村正直 at 11:52| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年04月21日

連載「秀歌を読もう」

NHK学園の機関誌「短歌春秋」に「秀歌を読もう」という短い鑑賞文を連載しています。

現在5回まで書いていて、あと3回書く予定です。

秀歌を読もう「永井陽子」(「短歌春秋」162号)
秀歌を読もう「石川啄木」(「短歌春秋」163号)
秀歌を読もう「山崎聡子」(「短歌春秋」164号)
秀歌を読もう「小池光」 (「短歌春秋」165号)
秀歌を読もう「河野裕子」(「短歌春秋」166号)

posted by 松村正直 at 22:12| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年04月20日

「歌壇」2021年5月号

「ことば見聞録」第12回、品田悦一(万葉学者)と川野里子(歌人)の対談がスリリングで面白い。

話題は万葉集や斎藤茂吉についてだが、両者とも過度に相手にすり寄ったり話を合わせたりせず、言いたいこと、言うべきことをはっきり言っていて心地よい。

これはけっこう貴重なことで、私自身、対談や座談会などに出るたびに感じるのだけれど、どうしても話を合わせる方向に行ってしまいがちなのだ。

特に印象に残った発言をいくつか引く。

品田 柿本人麻呂や山部赤人は、万葉を代表する宮廷歌人ですが、彼らの営みは自己表現などではなかった。
品田 人麻呂は徹底的に体制派ですよ。体制を讃美し、体制を言葉によって荘厳することに命をかけていた人で、つまりプロパガンダの芸術ということを本気で追求した人です。
川野 男性批評者が囲んでいる斎藤茂吉という像は、茂吉自身と茂吉を囲む男性論者によって作られてきたのではないかという気がしてならないのです。
品田 歌人が短歌について語っている本はいっぱいあって、私も必要上ときどき手に取りますが、歌人の短歌解読には大概不純物が紛れ込んでいて、テクストの取り扱いとしては不徹底に終わっている。
川野 なぜ短歌が滅ばないかというと、近代化したい日本語文学という、ある種劣等感を伴った意識がある限り、短歌はその補完的な役割を担わされつつ、決して滅びずにあり続けるという奇妙な存在感があったのだろうという気がします。

なるほど、なるほど。
全21ページというなかなかのボリュームだが、実に刺激的だった。

posted by 松村正直 at 17:51| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年04月11日

「歌壇」2023年4月号

昨年12月に亡くなった篠弘さんの追悼特集が組まれている。

鼎談「篠弘氏の歌業」(三枝ミ之、島田修三、栗木京子)が良かった。故人と関わりの深かった3人が、篠の評論や作品を取り上げて、その功績や問題点について率直に語り合っている。

島田 明治の近代短歌から前衛短歌までのスパンで、短歌史を見通した人は篠さんだけでしょうね。あの人のやり方は資料至上主義、資料に語らせるのね。三枝さんはご存じだと思うけれど、あれは早稲田の柳田泉の流儀だと思う。
栗木 篠さんは「前衛短歌が取り落としたものの一つに、女性の歌を読み切れなかった、ということがあった」と思っていらした。例えば山中智恵子さん、葛原妙子さんなどの位置づけ。(…)その反省の上に立って、女性の歌の流れを大事にされましたね。
三枝 戦後民主主義を基準にして短歌史をどのように見るかが彼の使命だった。(…)篠さんは一つの篠史観を残してくれたわけだから、それをどういうふうに補うか、どういうふうに伸ばすか。違う観点を出すかというようなことが、残った人に課させられた課題だと思います。

篠さんについての思い出を一つ。

2021年に篠さんのライフワークであった『戦争と歌人たち』(本阿弥書店)の書評を書いた時に、十数か所の誤植を見つけて版元に連絡した。すると、その日のうちに篠さんから電話が掛かってきてお礼を言われたのである。

体調の問題があって十分な校正ができずに申し訳ない、再版する際には直したい、とまず謝って、それから、若い人に読んでもらえるのはありがたい、これをもとにさらに若い人が調べて書いてほしい、とおっしゃった。

十数分話をしただろうか。それが篠さんと話した最後である。

『戦争と歌人たち』のテーマをどのように受け継いでいくのか。昨年のオンラインイベント「軍医の見た戦争 ― 歌人米川稔の生涯」は、その問いに対する私なりの回答でもあった。

posted by 松村正直 at 22:43| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年04月05日

「現代短歌」2023年3月号

発行からだいぶ時間が経ってしまったけれど、座談会「『つきかげ』はなぜおもしろいのか」(小池光・花山周子・山下翔)を読む。三人とも深く読み込んでいて、とてもおもしろかった。

 暁の薄明に死をおもふことあり除外例なき死といへるもの
小池(…)「除外例なき」っていうのがすごい造語だな。普通は「例外のなき死」と言うでしょう。「地下道(ちかだう)電車」や「売犬(ばいけん)」と同じよ。こういう半造語というか、茂吉の作った新しい熟語みたいのがすばらしくて。ほんとにさ、みんな死ぬんだな、と思うよな。
小池(…)やっぱり言葉で歌を作っている。写生なんて建前で看板には書いてあるんだけどさ、実際やってることは言葉を操作して、新しい言葉と言葉の組み合わせを試してみたりね。簡単に言えば、詩だよね。ポエジー。新しい言葉の発見みたいな意味での詩が、斎藤茂吉にはきわだってあるんだよ。

小池の発言からは、茂吉の歌を通じて小池自身が歌作りにおいて大事にしているものが伝わってくる。

posted by 松村正直 at 10:03| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年03月05日

「八雁」2023年1月号

八雁創刊十周年記念大会のディスカッション「近代短歌から継承したいもの」が読み応えがある。発言者は内山晶太、今井恵子、花山多佳子、島田幸典(司会)の4名。

「短歌革新によって生まれ、その後も多くの力量ある歌人の実作の蓄積を通じて築かれてきた、そしてそれらを手本にしながら歌を作り発展してきた短歌の在り方そのものが大きな変化を迎えているんじゃないだろうか」(島田)という問題意識に立って企画されたディスカッションである。

内山の写生に関する指摘や分析が非常に鋭い。

言葉というのは細かい単位での調節ができないので、物事を写すには不適な道具なんではないかなと思います。言葉は物事を写生するにはサイズがでかすぎるというのが一応私の今考えている所です。
写生ってやっぱり前面特化型の表現様式だと私は思っていて、基本的に背後がないんですよ。後ろ側がない。あるとすれば気配とか、その触覚ですか。そういうものでは捉えられますけれども、基本的に、写生というのは前のものをどう写し取るか。
(吉川宏志『石蓮花』の〈自販機のなかに汁粉のむらさきの缶あり僧侶が混じれるごとく〉について)
前面特化型でありながら、こういう比喩を使うことによってそこに立体感っていうものを生み出している。これ、写生の進化のひとつではないかなと思います。

この「前面特化型」というのは、たぶん視覚重視、視覚偏重ということなんだろうと思う。五感のうち嗅覚や聴覚も背後のものを捉えることができるけれど、視覚は前のものしか見ることができない。

他の3人の印象的な発言を引く。

(花山)日露戦争後の若い歌人は、短歌というものに対して、他の文学ジャンルの中でとても限定的なかすかな詩型にすぎないと思っていて、そこに容れるものもささやかというか。啄木は短歌を「一瞬の切れ切れの感想」と言ってるし、白秋は「一箇の小さい緑の宝玉」と言う。対極に見えて、限定論というんですか、その認識と内容が釣り合った完成度がある時期といいますか。
(島田)短歌が文語による優れた歌、時には調べを伴って美しく、また時には散文的な伝達も可能な文語を作った、ということが文語が生き延びた理由だと思います。短歌があったために、文語が世の中の一部ですけど、残り、もっと言うと近代文語がこれによって生まれたと思っています。
(今井)比喩的にいうと、写生・写実っていうのは近代短歌の中の標準語みたいな感じでとらえています。けれど、その標準語の外側には、無数の方言とか、それぞれの日常語とかがあるわけ。それが短歌の現場ではやっぱり時々、ふっ、ふっと、吹き出す。それがわたしには面白い。ペロンと平板な短歌史ではなく厚みが感じられます。

「近代短歌の特質がよく表れている作品」5首を各自が挙げているのだが、4名ともに選ばれているのは啄木ただ一人。

内山選 佐藤佐太郎、木俣修、斎藤茂吉、北原白秋、石川啄木
今井選 正岡子規、窪田空穂、石川啄木、前田夕暮、岡本かの子
花山選 若山牧水、石川啄木、北原白秋、斎藤茂吉、前田夕暮
島田選 与謝野寛、石川啄木、三ヶ島葭子、古泉千樫、佐藤佐太郎

啄木ファンとしてはもちろん嬉しい。それにしても、この啄木の強さっていったい何なんだろう。

posted by 松村正直 at 10:08| Comment(2) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年02月24日

「コスモス」2023年3月号

創刊70周年記念号。「コスモス」の創刊は1953年。
「未来」は1951年、「塔」は1954年。

「これからのコスモス、これからの結社」と題する座談会が載っている。出席者は、高野公彦、小島ゆかり、大松達知、水上芙季の4名。

僕は結社を辞めてしまったけれど、結社というものは今でも好きで、結社の功績はとても大きいと思っている。

座談会で驚いたのは高野さんの入会当時の話。宮柊二に「コスモス」の編集分室の住み込みのアルバイトに誘われて入会し、就職も宮柊二の口利きで、結婚相手も宮柊二の紹介とのこと。かつての結社の濃厚な師弟関係が伝わってくる。

4名がそれぞれ自分の体験や結社のあり方について率直に語っていておもしろい。結社の今後についても、「良い答えはないんですけど」(大松)、「名案はないなあ」(高野)など、正直に述べている。確かに、難しいかじ取りを迫られるのは間違いない。

印象に残った高野さんの発言を2つ引く。

落ちた歌を直してまた出すのは、その人の進歩にはマイナスだと思います。きっぱり諦めて新たな歌を作るほうがいい。
年が離れていて、自分の歌が理解してもらえないとか、見当はずれな批評をされるとか、嫌な気持ちになることってあるじゃない。でも世の中はそういうもので、自分を理解してくれない人が一杯いる。その人たちと接触することで、人間的に鍛えられるわけですよ。理解してくれる人ばかりの中で歌を作っていると〈ひ弱な歌〉になると思う。

こんなふうにはっきり言う人は今では減ってしまったので、貴重だと思う。全面的に賛成するわけではないけれど、胸にしまっておきたい考えだ。

posted by 松村正直 at 21:45| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月05日

「パンの耳」6号のチラシ

chirashi-pan6.jpg


同人誌「パンの耳」第6号を刊行しました。
15名の作品15首とエッセイ「海のうた」を掲載しています。

弓立 悦  「三日月の匂い」
鍬農清枝  「パワースポット探して」
雨虎俊寛  「メーデーコール」
長谷部和子 「銀色のトランク」
紀水章生  「風のリンカク」
添田尚子  「銀色のオリーブ」
甲斐直子  「青い魚」
佐々木佳容子「いもうとの息」
松村正直  「烏鷺の争い」
和田かな子 「青きおむつの」
岡野はるみ 「木々のにおいの立ち込めていて」
河村孝子  「数学少年」
木村敦子  「谷から丘」
乾 醇子  「たゆたひうかぶ」
澄田広枝  「曼珠沙華まで」

定価は300円。(送料込み)
現在、BOOTHで販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/

よろしくお願いします!

posted by 松村正直 at 22:42| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月03日

「パンの耳」第6号刊行!

DSC00549.JPG


同人誌「パンの耳」第6号を刊行しました。
15名の作品15首とエッセイ「海のうた」を掲載しています。

弓立 悦  「三日月の匂い」
鍬農清枝  「パワースポット探して」
雨虎俊寛  「メーデーコール」
長谷部和子 「銀色のトランク」
紀水章生  「風のリンカク」
添田尚子  「銀色のオリーブ」
甲斐直子  「青い魚」
佐々木佳容子「いもうとの息」
松村正直  「烏鷺の争い」
和田かな子 「青きおむつの」
岡野はるみ 「木々のにおいの立ち込めていて」
河村孝子  「数学少年」
木村敦子  「谷から丘」
乾 醇子  「たゆたひうかぶ」
澄田広枝  「曼珠沙華まで」

定価は300円。(送料込み)
現在、BOOTHで販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/

松村まで直接連絡いただいても対応できます。
よろしくお願いします。

2022年10月20日発行、A5判、48ページ。

posted by 松村正直 at 08:38| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月20日

「短歌往来」2022年8月号

林田恒浩の作品「いまは異国の」33首を読む。

国境にちかき恵須取は燃ゆ戦車隊は襲ひかかれりかの夏の日に
             (恵須取・ウグレゴルスク)
三千人のロシアの兵が上陸したるふるさと眞岡 忘るるなかれ
             (眞岡・ホルムスク)
豊原まで追ひつめられて投降したり父は小さき白旗をかかげて
             (豊原・ユジノサハリンシク)

林田さんは昭和19年樺太の生まれ。ロシア軍のウクライナ侵攻を見て、昭和20年の樺太の様子を思い出しているのだ。もちろん、赤子だったので覚えているわけではないが、両親などから聞かされた話なのだろう。

「虜囚」とはとらはれ人のことなりて白夜を詠ふ 父のおもひは
日の丸を焼きし日あれば抑留のさま父はかたるなし口をふさぎて

終戦後、王子製紙に勤務していた父は3年間に及ぶ抑留生活を送る。
生き延びて家族と再会できたのは、昭和23年のことであった。

作者の父、林田恒利は「多磨」(のちに「形成」)に所属する歌人でもあった。

喚(わめ)きつつ伐採のノルマにいどみゐし童顔の兵も還るなかりし
         『火山島群』(昭和39年)
国の旗焼きてソ聯軍をむかへたる日の傷み歳月のなかに重たし
         『木香』(昭和50年)
白旗をかつてもちたる掌(てのひら)をつらぬくこゑぞ野の鵯は
老いづきてけふ病むことも抑留の日にかかはると思ひ悔しむ

3年間に及ぶ過酷な抑留と強制労働は、恒利の心と体に生涯消えることのない傷を残したのであった。

posted by 松村正直 at 18:29| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月11日

「パンの耳」販売中

「パンの耳」5号.jpg


同人誌「パンの耳」1号〜5号、販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/

毎月第1金曜日に開催している「フレンテ歌会」(神戸市東灘区文化センター)もメンバー募集中です。お気軽にお問い合わせください。

posted by 松村正直 at 07:55| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月18日

「現代短歌」2022年5月号

gendai-tanka 202205.jpg

https://gendaitanka.thebase.in/items/60009566

「現代短歌」は隔月刊なので、3月発行分が5月号になる。ちょっとややこしい。

特集「アイヌと短歌」は論考9篇+作品1篇+誌上復刻版『若き同族(ウタリ)に』の計76ページ。質・量ともに本格的なアイヌの特集となっている。

バチェラー八重子、違星北斗、森竹竹市、江口カナメらアイヌの歌人についての論考と、佐佐木信綱、斎藤史、小田観蛍ら和人がアイヌを詠んだ歌に関する論考の両方が載っている。それぞれが有機的につながり、特集全体として話が深まっているように感じた。

オイナカムイ 救主(すくひぬし)なれば ウタリをば 救(すく)はせ給(たま)へ 奇(く)しき能(ちから)に
              バチェラー八重子
熊の肉、俺の血になれ肉になれ赤いフイベに塩つけて食ぶ
              違星北斗
視察者に珍奇の瞳みはらせて「土人学校」に子等は本読む
              森竹竹市
近き日に公園になるアイヌ墓地/朝つゆふめば/心ぬれにし
              江口カナメ

佐佐木信綱と松浦武四郎が知り合いだったことや、斎藤史が川村カ子トについての歌を詠んでいることなど、今回の特集で初めて知ったことも多かった。

この特集には、私も「異民族への「興味・関心」と「蔑視・差別」 近代短歌にとってアイヌとは何だったか」という論考を書いた。

特集名の「アイヌと短歌」は「アイヌ」and「短歌」ということではない。「短歌」を通じて「アイヌ」の歴史や差別の問題について考え、「アイヌ」を通じて「短歌」という日本語表現の性質や制約について考えることだと思う。その両面を意識して書いた。

ぜひとも多くの方に読んでほしい。

posted by 松村正直 at 00:09| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月12日

特集「アイヌと短歌」

ainu-and-tanka.jpg


3月16日発売の「現代短歌」5月号に、「アイヌと短歌」という特集が組まれます。短歌の商業誌に本格的なアイヌの特集が載るのはおそらく初めてで、画期的なことです。

私も原稿用紙50枚を超える評論を書きました。「異民族への「興味・関心」と「蔑視・差別」 近代短歌にとってアイヌとは何だったか」という内容です。多くの方にお読みいただければ嬉しいです。

「現代短歌」は一般の書店にはほとんど並びませんので、下記の取り扱い書店でお買い求めになるか、
http://gendaitanka.jp/bookstore/list.html

または、現代短歌社のオンラインショップをご利用ください。
https://gendaitanka.thebase.in/items/60009566

現在、予約受付中です!

posted by 松村正直 at 18:13| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月18日

特集「アイヌと短歌」

P1090590.JPG


隔月刊の短歌雑誌「現代短歌」の次号予告を見ると、5月号(3月16日発売)の特集は「アイヌと短歌」。短歌の商業誌で本格的なアイヌの特集が組まれるのは、私の知る限り初めてのことです。

バチェラー八重子、違星北斗、森竹竹市、江口カナメといったアイヌの歌人が取り上げられているほか、私も「近代短歌にとってアイヌとは何だったか」というテーマで長い評論を書きました。

「現代短歌」は一般の書店にはほとんど並びませんので、下記の取り扱い書店
http://gendaitanka.jp/bookstore/list.html

または、現代短歌社のオンラインショップにてお買い求めください。
http://gendaitanka.jp/magazine/

posted by 松村正直 at 14:40| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月24日

「パンの耳」第5号刊行!

 P1090569.JPG


同人誌「パンの耳」第5号を刊行しました。
13名の作品15首とエッセイ「空のうた」を掲載しています。

木村敦子  「ごてんまり」
紀水章生  「水に還る」
乾 醇子  「つぶさぬやうに」
岡野はるみ 「空の差し色」
河村孝子  「レクイエム、点々」
長谷部和子 「二日月の光」
添田尚子  「夏のジッパー」
鍬農清枝  「グレーの領域」
弓立 悦  「針葉樹」
松村正直  「ひがんばな」
佐々木佳容子「綿菓子」
甲斐直子  「リヤドロ」
森田悦子  「では また」

定価は300円。(送料込み)
BOOTHと「葉ね文庫」で販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/

また、松村まで直接連絡いただいても対応できます。
よろしくお願いします。

posted by 松村正直 at 14:34| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月27日

「みかづきもノート vol.1」

P1090245.JPG


小田桐夕さんが中心になって行っている「みかづきも読書会」で、私の歌集『紫のひと』を取り上げていただきました。

読書会の記録は「みかづきもノート vol.1」という冊子にまとめられています。第1回(江戸雪『空白』)と第2回(松村正直『紫のひと』)の分が収められていて、本文56ページ。

現在、メンバーの一人である濱松哲朗さんのBOOTHにて販売中です。ご興味のある方は、ぜひお買い求めください。

https://tetsurohamamatsu.booth.pm/items/3196226

posted by 松村正直 at 11:59| Comment(2) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年06月19日

「つくば集」創刊号

P1090058.JPG

筑波大学の学生を中心に活動している「つくば現代短歌会」の機関誌の創刊号。

内容は、ゲストの郡司和斗(かりん)と平出奔(塔)の作品とロングインタビュー、会員の作品(短歌・俳句)、そして会の沿革、会員紹介。全174ページ。

ロングインタビューは全65ページというかなりの分量。連作の作り方についての話が特に興味深かった。

郡司 僕は連作というものが本当に存在するのか疑っている派なので、構成とかテーマとかを最初から決めてそれを浮かび上がらせるように作るというよりかは、できるだけ素でできたものを輝かせたいですね。ただ、どうしてもそれだけでは連作にならなかったりするので、(…)素でぽろっと出てきた良い歌を輝かせるために、歌を探しに行くというようなことはやりますね。
平出 たまに出てくるなんかよくわかんないけどいいねみたいな歌も大切にしたいですね。そういうときに役立つのが、百首会みたいな無茶で(笑)。なぜ百首会のときにつくった5首を軸にしたかというと、百首会のときに生まれる歌って何がいいのかよくわかんない歌が多いと思って。でもすごくいい歌だとも思っていました。

以下、会員の短歌作品から。

あなたはあなたの窓辺に鶸を棲まはせるわたしはそればかり
を見てゐた             橋本牧人
だれしもがいちりんに佇つ曼珠沙華この世に肋骨(あばらぼ
ね)を咲かせて           橋本牧人
優しい声を切り捨てた日に文学はうつ伏せでしかスキャンで
きない               荒木田雪乃
炊飯器の縁に貼りつくものたちは痛い剥がして食べてください
                  小川龍駆
なんとなく出掛けて気づく欲があり欲から遠ざかるための風
                  豊冨瑞歩
ふりかけをかけるのが下手な僕のこと否定しないでおこう春
めく                林さとみ
水道水水道管から絞り出す 「海だった」なんて泣かないで、
朝                 神乃

2018年から活動を続けて、今回が初めての機関誌の発行とのこと。
来年以降も順調に刊行が続きますように!

2021年5月16日、600円。

posted by 松村正直 at 08:08| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月18日

「短歌研究」5月号の増刷

「短歌研究」5月号が創刊以来90年で初めて増刷になったということで話題を呼んでいる。

https://www.asahi.com/articles/ASP5K541YP5HUCLV002.html?twico

「三〇〇歌人新作作品集」には私の歌も載っているので、基本的にはめでたく、嬉しいことだと思う。でも、ちょっと立ち止まって考えたいことがある。

一つは「初めての増刷」=最大の売上、ではないということだ。記事には「初刷り4千部に500部を増刷した」とあって、そんなに少ない部数なのかと逆に驚いた次第である。年々雑誌の販売数が減っているのは知っていたが、ここまでの落ち込みようだとは思わなかった。

例えば結社誌「塔」でも1300部くらいは刷っているので、その3倍しかないと考えれば総合誌の部数の少なさがわかるだろう。

もう一つは、今回の特集が300名の作品を羅列した(だけの)ものである点である。正直なところ、これで売れるのだったら編集のアイデアなど何も必要ないではないか、との思いが拭えない。

もちろん、喜ぶべきことだとはわかっている。わかってはいるのだけど、このモヤモヤ感はどうしたものだろう。

posted by 松村正直 at 21:15| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月20日

「パンの耳」第4号

 pan4.png


同人誌「パンの耳」第4号を刊行しました。
14名の作品15首とエッセイ「好きな相聞歌」を収めています。

添田尚子  「だれかの時間」
弓立 悦  「枯れ葉が肩を」
乾 醇子  「遠巻きに」
小坂敦子  「湯煎にかける」
森田悦子  「白羽二重」
河村孝子  「そのへん ファンタジー」
甲斐直子  「キャラメル」
長谷部和子 「うはのそら」
鍬農清枝  「コロナが教えてくれた森」
岡野はるみ 「しっぽ」
佐々木佳容子「どこかにいつも」
松村正直  「土を掘る」
木村敦子  「ぼたもち」
升本真理子 「竜巻雲」

定価300円でBOOTHにて販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/items/2830304
直接メール等でご連絡いただいても対応できます。

どうぞよろしくお願いします。

posted by 松村正直 at 06:13| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月09日

「現代短歌」2021年1月号

現在発売中の「現代短歌」2020年1月号は、第7回現代短歌社賞の発表号。現代短歌社賞は歌集を出してない方が対象で、未発表・既発表を問わない300首を募集。受賞作は歌集として刊行される。

http://gendaitanka.jp/award/

今回は受賞作の西藤定「蓮池譜」30首抄、次席の田村穂隆「感情の獣たち」30首抄のほか、阿木津英・黒瀬珂瀾・瀬戸夏子・松村正直により選考座談会が37ページにわたって掲載されている。

これだけ選考過程を全部オープンにしている賞も珍しいと思う。応募作の良い点・悪い点だけでなく、現代短歌の様々な問題について4名の選考委員が語り合っているので、ぜひお読みください。

現代短歌社のオンラインショップで購入できるほか、メールや電話で直接取り寄せることもできます。

http://gendaitanka.jp/magazine/2021/01/

posted by 松村正直 at 08:09| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年07月15日

「パンの耳」販売中

「パンの耳」1号〜3号、販売中です。
1冊300円(送料込み)。

チラシ フレンテ歌会同人誌「パンの耳」3号より-1.jpg

(クリックすると大きくなります)

posted by 松村正直 at 22:52| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年07月03日

「パンの耳」第3号発売中!

同人誌「パンの耳」第3号、発売中です。


  P1070828.JPG


A5判、46ページ。メンバー14名の連作15首とエッセイ「私の気になる短歌」を載せています。


  P1070832.JPG


定価は300円(送料込み)。
お読みくださる方は、松村までご連絡ください。


posted by 松村正直 at 21:48| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月15日

「パンの耳」第3号

同人誌「パンの耳」第3号を発行しました。


  P1070828.JPG


A5判、46ページ。メンバー14名の連作15首とエッセイ「私の気になる短歌」を載せています。


  P1070832.JPG


定価は300円(送料込み)。
お読みくださる方は、松村までご連絡ください。


posted by 松村正直 at 23:40| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月10日

「短歌研究」2020年1月号

昨年9月に仙台文学館で行われた小池光と花山多佳子の対談「茂吉短歌・二十首をたっぷり読む」が面白かった。斎藤茂吉の歌を十首ずつ持ち寄って読み解いていくのだが、二人の息がよく合っていて中身の濃い対談になっている。

小池 卵を産むために育てられているめん鶏なんだけどね。めん鶏の雌というイメージと、剃刀研人は男だよね、男女のエロスみたいなのが一瞬ここに溢れてる。ここではっとする。なにかとてもエロチックなイメージでね。「めん」がすごく大事で、下手な人が作ると「鶏」になっちゃう。「めん鶏」だと言うからそこに男女の――そこまで言っちゃうと言いすぎなんだけども――性的な感覚がちらっと背景に存在が見える。そこがこの歌の見どころだと思う。
花山 それは小池説(笑)。
小池 小池説さんだけどさ(笑)。
花山 最近の歌会って、これ、要らないという指摘をしたがる傾向がありますよね。ダブってるとか、無意味に入ってるとか。全然そういうことではないと思うんだけどね。

読んでいて楽しく、もっともっと読みたくなる。

posted by 松村正直 at 07:47| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月17日

「歌壇」2020年2月号

坂井修一の連載「甦る短歌」は小池光の作品を取り上げている。

坂井は小池の第1歌集『バルサの翼』を読んで、小池が「新しい極を現代短歌にもたらす人として、私には意識されたのだった」と書く。その上で、最新歌集『梨の花』から歌を引きつつ、

私のような読者は、小池光にはこうした歌とは別のものを期待し続けたいという願いがある。それは、同時代を生きる者としての、新鮮な世界観だ。

と記している。

ちょうど先日の名古屋のシンポジウムでも、小池さんの歌についての話が出たところだった。私の意見は坂井さんと近い。『梨の花』の歌の良さを十分に認めつつも、一人の小池ファンとして、もの足りなさも感じるのである。

posted by 松村正直 at 23:02| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月14日

「穀物」第6号

飲食(おんじき)のため御する火のとりどりに並びて市に湯(タン)を煮る鍋
                    小原奈実

市場でスープを煮ている場面。「湯(タン)」という表記だけで海外だとわかるところがいい。活気溢れる市場の様子が見えてくる。

春雷は鏡の谷にひらめくをわが引く藍いろのアイライン
                    川野芽生

「鏡の谷」は三面鏡のことだろう。「藍いろ」と「アイライン」の響き合いと句跨りの味わい。「ひらめくを」の「を」が効いている。

こころは声にこゑは夜霧にながれつつなぐさめてくれなくていいから
                    濱松哲朗

三句以下「ながれつつ/なぐさめてくれ/なくていいから」と「な」の音でつながっていく。相手からの慰めを欲しつつも拒絶する感じ。

水草の眠りのやうに息をするあなたの土踏まずがあたらしい
                    濱松哲朗

「土踏まず」は普段はあまり他人に見せることのない部位。安らかな寝息を立てて眠る相手の土踏まずを、新鮮な思いで見つめている。

「残酷なことをしていた」そうなのか残酷だったのか今までは
                    廣野翔一

恋人から別れを切り出された場面。一緒に楽しく過ごした時間を「残酷」だったと言われたことが胸に痛い。呆然とした思いが伝わる。

皿を置くときみは煙草をやめていた秋にしばらくそのままの皿
                    山階 基

灰皿と言わずに「皿」と言ったのがいい。「きみ」がもう煙草は吸わなくなっていたことを知らなかったのだ。そのちょっとした寂しさ。

山階基歌集『風にあたる』の特集が組まれていて、川野芽生「あともどりできない歌―『風にあたる』の中に流れる時間」が良かった。

山階基の歌は、読みやすいようでいて、時制や文体にどこか不思議な屈折を感じるものが多い。
山階の歌には、だらだらと経過していきながら決してあともどりできない時間が内包されている。

どちらも的確な分析だと思う。

2019年11月24日、400円。

posted by 松村正直 at 07:44| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月04日

「かりん」2020年1月号

時評に遠藤由季さんが、歌集・歌書の書評について書いている。

毎月の総合誌に掲載されている書評を読むとき、気になることがある。ほぼ女性の著書は女性、男性の著書は男性が書いており、かつ世代の近い人が選ばれている。
一冊の歌集・歌書の書評が総合誌に載るのは同時期になりやすい。そのとき、同性・同時代の読み手による書評ばかりが偏って掲載されてしまうのはどうか。もっと多岐な視点から一つの書物を評することはできないか。

この意見に、全面的に賛成する。

これは歌壇の無意味な慣習でしかなく、一刻も早くあらためるべきだと思う。

posted by 松村正直 at 10:16| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年12月19日

「ひとまる2」

平成10年生まれのメンバーによる短歌同人誌。

電話でも風が強いね なれるなら君にとっての船とか樹とか
                    石井大成

電話の向こうから風の音がして相手の心細さが伝わってくる。一字空けの後の「なれるなら」がいい。君の力になりたいという強い思い。

さみしいは寒さのそくど立ち漕ぎで坂を下れば月は遠のく
                    今村亜衣莉

「さみしいは寒さのそくど」に強引な説得力がある。さみしさを振り切るように、寒い夜道を自転車でスピードを出して走っていく。

裏向きに売らるる柿に折り紙のような折り目の幾筋かあり
                    狩峰隆希

蔕を下にして並んでいる柿の実。四角っぽい実に対角線のように入った筋を「折り紙のような折り目」と喩えたのが秀逸。美味しそうだ。

OSの更新未了の三歳が「さんしゃい」と言う二本の指で
保育士の「おやすみなさい」に潜みたる命令形の影濃かりけり
五時〇一分これはサービス残業のたかいたかいでさよならをする                   久永草太

保育園を舞台にした連作。1首目、口では三歳と言っているのに、指はまだ二歳の時のまま。2首目、言われてみれば確かに命令形だ。園児におとなしく昼寝してもらわないと保育士は困る。3首目、就業時間は五時までだが、子ども相手なのできっかりには終われない。

2019年11月24日。

posted by 松村正直 at 23:25| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年12月15日

「プチ★モンド」第107号

全80ページのうち評論や連載などの散文が約30ページと充実している。

松平盟子「前髪を上げなかった陽子へ」(4ページ)は、没後20年を迎える永井陽子の思い出を記したもの。

四十八歳のその死は、もちろん大きな驚きではあったが、永井の場合、残念さはともかく、自死は不自然でも不思議でもないと身近な人たちの多くは感じたのではないか。私もたぶんその一人だった。
私たちは性格も歌風も異なり、相互に刺激し合いながら、どこか微妙に噛み合わないものを感じ取っていたと思う。
永井陽子は生涯まぶたを覆うほど前髪を伸ばしていた。前髪のすぐ下の両目は細く、人を直視しないで話をした。笑うときは口をあまり開けず「ククッ」と声を押し出した。

島崎藤村の「初恋」に「まだあげ初めし前髪の」というフレーズがあるように、かつては「前髪を上げる」=「大人の女性になる」という意味を持っていた。「前髪を上げなかった陽子」という言い方には、少女性を失わなかった永井に対する松平の複雑な思いが滲んでいるのだろう。

2019年12月1日、1500円。

posted by 松村正直 at 20:14| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年12月07日

「パンの耳2」を読む会

来年2月7日(金)に「パンの耳」第2号を読む会を、西宮で開催します。ゲストは小黒世茂さんと染野太朗さん。

どなたでも参加できますので、興味のある方はご連絡ください。
批評会は無料、懇親会は6000円です。

 「パンの耳2」を読む会チラシ.png


「パンの耳」第2号も引き続き販売中。
1冊300円(送料込み)です。

「パンの耳」第2号チラシ.png

よろしくお願いします!

posted by 松村正直 at 12:24| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月23日

「六花」VOL.4

rikka 04.jpg

テーマは「詩歌と出会う」。A5判88ページ。

歌人や俳人など28名が文章を寄せている。皆さん自由に、気楽に、好き好きに書いているのがいい。

上村典子「無垢の白の箱と青鉛筆」には、石橋秀野の有名な句「蟬時雨子は担送車に追ひつけず」についての娘の言葉が引かれている。

著者安見子によれば(『石橋秀野の一〇〇句を読む〜俳句と生涯』飯塚書店)、「担送車の上で手にした句帖に、青鉛筆で走り書き」されたという。

実際に担送車の上で書いたとの証言に慄然とする。鬼気迫る光景だ。

小田部雅子「少年農民大関松三郎」は、かつて小学校の国語の教科書に載っていた「山芋」「虫けら」の少年詩人の話。懐かしい。

松三郎は、貧しい農家の三男ゆえ農は継げず、高等科卒業後は鉄道学校に進み、昭和十九年、海軍通信隊として乗っていた輸送船が攻撃を受け、南シナ海で戦死した。十八歳だった。

ああ、そうだったのかと思う。何となく少年のままのイメージがあるのは十八歳で亡くなっていたからだったのか。

戦後、松三郎の詩をまとめて出版したのは、担任だった寒川道夫。Wikipediaの寒川の項目には「詩集『山芋』の〈作者〉の大関松三郎を指導した」とある。〈作者〉と〈 〉付きになっているところに、微妙な問題が潜んでいる。

佐川俊彦「藤原さんの「黄昏詞華館」」には、ワセダミステリクラブ時代の藤原龍一郎の思い出が記されている。

もう一人、ワセミスには謎の先輩、氷神さんもいて、ドラキュラのマントと牙の入れ歯のコスプレ姿で、モンシェリにやって来たりしていました。氷神さんと藤原さんと僕だと、マンガの話をしていたように記憶しています。

「氷神さん」(氷神琴支郎)=仙波龍英の学生時代の姿である。

2019年12月5日、700円。

posted by 松村正直 at 23:44| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月12日

「パンの耳」第2号、在庫あります

 P1070399.JPG


同人誌「パンの耳」第2号、まだ在庫があります。
メンバー15名の連作(15首)とエッセイ「私の好きな歌」を載せています。

「パンの耳」第2号チラシ.png


定価は300円。(送料込み)
お申込は松村(masanao-m@m7.dion.ne.jp)までお願いします。

posted by 松村正直 at 08:28| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月30日

田中道孝「季の風」50首

第65回角川短歌賞受賞作品。

花水木に顔を撫でられ組み上げる丸太足場に白い陽が差す
仮囲いも足場もこえて飛んでくる野球のボール投げかえす夏
昼寝するわれのためにと風をつれ紋白蝶は地下足袋のさき
目覚むればこの世の駅についていて初老の顔が窓にうつりぬ
型枠を奥歯の力で引き上げる冷たい風に大声だして

建設現場で働く様子などを詠んだ50首。
季節が春、夏、秋、冬と移っていく。「花水木」「野球のボール」「紋白蝶」などが現場の作業の歌の中に入ってくるのがいい。

posted by 松村正直 at 07:27| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月14日

「岡大短歌」7号

八首連作×10名、一首評×5篇、二十首連作×3名、三十首連作×1名、往復書簡(15首×2名)×2篇という内容。全62ページ。ゲストは魚谷真梨子、魚村晋太郎。

 山笑う、とさいしょに喩えた人がいてその生涯で出遭うほほえみ
                        加瀬はる

「山笑う」は芽吹き始めた山の様子を表す春の季語。「笑う」という言葉で大胆に捉えることで、同じ山の姿がそれまでとは違ったものに見えてくる。

 あなたは海を例えない 言葉ではなくきらめきで理解する人
                        大壺こみち

海の魅力を言葉で説明したり何かに喩えたりするのではなく、そのまま感受するということだろう。言葉にすることで失われてしまうものがある。

 助手席にゆきのねむたさ こんなにもとおくの町で白菜を買う
                        長谷川麟

助手席に乗っていると雪が融けるように眠くなるという感じか。「ゆき」と「白菜」の白さの重なり。ひらがなの多用が間延びしたような気分を伝える。

 地図に載らない小さな並木のようだった愛した時間はひどくみじ
 かい                    加瀬はる

恋人と付き合っていた時期を振り返っての感慨だろう。「小さな並木」という比喩がよく、季節の移り変わりや二人の気持ちの変化が感じられる。

 隣人の水音がしてなんとなく今はシャワーはやめにしておく
                        水瀬惠子

アパートの隣りの部屋から水を使う音が聞こえる。何の問題もないのだが、人の気配が感じられる気がして、シャワーを使うのをためらってしまう。

2019年7月15日、400円。

posted by 松村正直 at 21:25| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月13日

「パンの耳」第2号

 P1070399.JPG


同人誌「パンの耳」第2号を刊行しました。
メンバー15名の連作(15首)とエッセイ「私の好きな歌」を載せています。

 P1070395.JPG


定価は300円。
お申込は松村(masanao-m@m7.dion.ne.jp)までお願いします。

posted by 松村正直 at 11:26| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月22日

「短歌研究」2019年6月号

現代代表男性歌人130人作品集に、奥田亡羊さんが「樺太」と題する7首を寄せている。

 北の果てにさらに北して船出する石榑千亦五十九歳
 心の花昭和三年十一月号にうねりて光る樺太の河
 風景の記憶となりて歌にあり露人の庭に咲く秋の花

エッセイには拙著『樺太を訪れた歌人たち』を読んだことが書かれていて、有難かった。石榑は奥田さんにとって「心の花」の遠い先輩に当たる。

「心の花」昭和3年11月号掲載の石榑千亦「樺太にて」114首は、とても意欲的な一連だ。

   露人の家
 丸木つみ重ねたてたる家にのこりゐる露人のさだめ思へば悲し
 帰るべき国もなけれか草花をうゑはやしたり家のまはりに
 ひとの国と今はなりつれのこりゐて花などうゝるかなしき心
 花をうゑて涙つちかふ親の心しるには未だ幼き子なり

1905年のポーツマス条約によって南樺太が日本領になった後も、北樺太やロシア本土に引き揚げずに残ったロシア人=「残留ロシア人」を詠んだ歌である。

今から90年以上前の歌であるが、こうした悲哀は世界中のあちこちにあったし、今現在もある。あるいは、例えば北方領土問題を考える際にも関わってくる話である。島がもし日本に返還された場合、そこに住むロシアの人たちをどうするのか。そうした点も意識しておく必要があるだろう。

posted by 松村正直 at 11:47| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月04日

「梁」96号

九州在住の歌人を中心とした同人誌。全136ページ。
29名の作品15首のほか、評論やエッセイなどの散文が充実している。

・島内景二「小野葉桜を読む―現代人へのメッセージ―」
・中村佳文「牧水の耳―渓の響き「日の光きこゆ」「鳥よなほ啼け」」
・生田亜々子「変身の刻〜石牟礼道子の短歌研究五十首〜」
・山田利博「三種の歌・夕顔の和歌―源氏物語と和歌第二十三回」
・渡邊 円「聖書とともに読む大口玲子(下)」
・吉川良登「写真短歌の魅力と作法に関する一考察」

評論は6篇。これだけ評論が載っている短歌誌はあまり見ない。

生田亜々子の評論は、作家石牟礼道子の文学的な出発となった短歌研究五十首の入選作「変身の刻」(昭和31年9月号)を取り上げて論じたもの。

よく「短歌研究五十首詠」「短歌研究新人詠」などと言われるが、当時の誌面ではどこにも「詠」がついていないので、今回は「短歌研究五十首」とする。

細かな話ではあるけれど大事なところだろう。これだけでも、信頼できる書き手であることがわかる。

雪の夜なれば乾きゆく皮膚をもつ、傷(やぶ)れつゞけしにんげんの裔
扉にてもつれしわれを抜けしとき風がもちゆきしごとき分身

生田は誌面に掲載された全14首を読み解いた上で、『苦海浄土』などの作品に見られる「石牟礼独自の最大の特徴とも言える筆致と同じものがこの短歌研究五十首入選作からもすでに読み取れる」と記す。

ちょうど「塔」4月号の65周年記念評論賞でも、「石牟礼道子『錬成所日記』の第二次世界大戦終戦前後の短歌を考察する」(河原篤子)という応募作を読んだところだったので、石牟礼と短歌の関わりに興味を覚えた。

2019年5月1日、現代短歌・南の会、1500円。

posted by 松村正直 at 08:44| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月25日

「角川短歌」2019年3月号


座談会「歌壇・結社のこれからを考える」が面白かった。

参加者は梅内美華子・生沼義朗・澤村斉美・小島なお・寺井龍哉の5名。
皆さんかなり率直に突っ込んだ意見を述べ合っていて、中身が濃い。

寺井 結社に入った場合の負担と恩恵を天秤にかける意識はすごくあると思う。結社に入っていろんな人間関係ができて、いろんな歌が読めるようになるということと、でもお金もかかるし、時間も取られるし、作業もしなければいけないということ。その天秤で揺れて、結社に入らない選択をする人はすごく多いんじゃないかと思います。
寺井 (・・・)定期的に選を受けて、どれが落ちてどれが載ったかという判断を基に勉強するということは求めていないんじゃないかという気はします。でもそもそも、選を受けて腕を磨くという、段階的・歌学的なコースみたいなものが今後の短歌の世界も有効かどうかは大いに疑問だと思います。

こうしたテーマの座談会は「やっぱり結社はいいよね!」といった結論になりがちなのだが、今回は結社に入っていない寺井さんが参加したこともあって、かなり開かれた議論になっているように感じた。

posted by 松村正直 at 21:37| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月10日

「too late」1号

「未来」の大辻隆弘選歌欄「夏韻集」所属の3名(門脇篤史・道券はな・森本直樹)による同人誌。他に、御殿山みなみ・染野太朗・谷とも子がゲストとして参加している。

 甘鯛のアラのパックを選びをり雨に濡れたる髪を冷やして
 故郷から届く馬鈴薯いくつかは鍬の刺さりし跡を残して
                         門脇篤史

1首目、スーパーで買物をしている場面。「甘鯛」「アラ」「雨」の「あ」音がリズムを作っている。生鮮食品売場の冷気に髪が冷えてゆく。
2首目、下句がいい。土から掘り起こす時に鍬が刺さってしまったのだ。おそらくこうした馬鈴薯は市場には出ずに自家消費されるのだろう。

 また傘がないと気がつく 鱗のように剝がれる雪のさなかに立って
 踏みしめた木の実にひびが入るとき膝にさびしいひかりがよぎる
                         道券はな

1首目、もともと持って来なかったのか、どこかに置き忘れたのか、ともかく傘がない。「鱗のように剝がれる」という比喩が秀逸。
2首目、感触や音ではなく「ひかり」と表現したところがいい。木の実に罅が入るのと同時に自分の膝にも光の罅が入るような感覚だろう。

 どうしても食べたい物のイメージがわかずに歩く惣菜売り場
 半分に折ったパスタを茹ででいる小鍋の隅に欠片が浮かぶ
                         森本直樹

1首目、目当ての物を買おうとしてではなく、何か食べたい物を探し回っている時のあてどない感じ。武田百合子の枇杷の話を思い出す。
2首目、大きな鍋が家になくて小鍋に入る大きさにパスタを折っている。うまく割れなかった欠片が浮かんでいるところに侘しさを感じる。

 娘さんいくつになつたと訊いてみる冬のはじめのあたたかい日に
                         谷とも子

何の説明もない歌だが、相手との関係性がほのかに浮かび上がってくる気がする。かつて付き合っていた男性と久しぶりに会った場面か。

2019年1月20日、400円。

posted by 松村正直 at 00:19| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月02日

「遠泳」 創刊号


笠木拓、北村早紀、佐伯紺、坂井ユリ、榊原紘、中澤詩風、松尾唯花の7名による短歌同人誌。

 ストロベリー・フェアのメニューを卓に伏せ鈍くあかるい雲を仰いだ
                         笠木 拓

早春のファミレスを思い浮かべて読んだ。苺がたくさん載ったメニューの明るさと窓の外に広がる曇り空。微妙な感情の起伏が感じられる一首。

 中庭に降り来ることしはじめての雪を巣箱のように見ていた
                         笠木 拓

「巣箱のように」という比喩がおもしろい。巣箱の暗い穴から外を覗いている感じだろうか。「中庭」という限定された空間も「巣箱」と響き合う。

 裸でいる方がきゅうくつ湯船では三角座りで首まで浸かる
                         北村早紀

服を着ている時の方が気が楽で、裸になると心細いような不安を覚えるのだろう。湯船の中で自分の膝を抱えるようにして、その不安を鎮めている。

 どの光とどの雷鳴が対だろう手をつなぐってすごいことでは
                         佐伯 紺

雷との距離にもよるが、稲妻(光)と雷鳴(音)は数秒〜十数秒ずれる。上句の雷の話から下句の相聞的な「手をつなぐ」話への展開がいい。

 煮魚のめだま吐き出すその舌が濡れおり夜の定食屋にて
                         坂井ユリ

目玉の周りのゼラチン質の部分を舐めて、目玉本体は吐き出したのだ。脂で濡れた舌や唇がぬめって光る様子が見えてくるようで生々しい。

 生活に初めて長い坂があり靴底はそれらしく削れる
                         榊原 紘

転居して新しい町に住み始めたのだろう。暮らしの中に「長い坂」があって、毎日それを上ったり下ったりすることが新鮮に感じられるのだ。

 硝子戸の桟に古びた歯ブラシを滑らせ春の船跡のよう
                         榊原 紘

古い歯ブラシを使って硝子戸の桟の汚れを擦り取るのだが、それを「船跡」に見立てたのがおもしろい。「春の」とあって、気分まで明るくなる。

 人ひとり無きというその明るさを灯していたり夜の食堂
                         坂井ユリ

学校や寮などの「食堂」を思い浮かべた。誰もいない広々とした空間に電気だけが灯っている。無人であるゆえに一層その明るさが目に付く。

 ティンパニにひらたき蓋をかぶせつつ盆地を籠める靄をおもえり
                         笠木 拓

皮の部分が傷まないように保護する蓋があるのだろう。楽器の形状と蓋をする動作から盆地に立ち込める靄をイメージしたところが美しい。

2019年1月20日、500円。

posted by 松村正直 at 23:12| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月24日

「角川短歌年鑑」2019年版


島田修三・川野里子・大松達知・川野芽生・阿波野巧也の5名による座談会「生きづらさと短歌」を読む。率直な意見が交わされていて面白い。

印象に残った部分を引く。

阿波野 正直、近年の生きづらさについて話すことに僕はあまり気が乗らない、というか、ここに集まっている人たちって、いわゆるインテリ層なわけですよね。
大松 人間は選択肢があるのはじつはすごいストレスなんですよね。だから、スティーブ・ジョブズはそのストレスを感じなくて済むように毎日同じ服を着ていたと聞きます。
島田 社会への悪意だよね。
川野芽 というより、社会の悪意ですね。人間を社会にとって「有用」か「無用」かという尺度で選別しようという、社会に蔓延する圧力が噴出して、実際に人間に刃を向けた事件だと思いました。
川野里 「生きづらさ」はテーマとして大事だけど、注意深く取り組まないと個別の生がそこに埋もれてしまう、それも怖い。

そもそものテーマ設定に対しては疑問があるのだが、話の中身は深い。

posted by 松村正直 at 08:50| Comment(2) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月20日

「パンの耳」第1号


西宮で行っているフレンテ歌会のメンバー14名で、
同人誌「パンの耳」第1号を刊行しました。
A5判、48ページ。

各自の連作15首とエッセイ「短歌とわたし」が載っています。

P1070095.JPG

私も新作「みずのめいろ」15首を発表しました。

定価は300円(送料込み)。
購入希望の方は、住所・氏名・電話番号を明記して
松村までご連絡ください。
masanao-m@m7.dion.ne.jp

posted by 松村正直 at 22:49| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月19日

「短歌ホリック」第3号

 あのあたりを歩ける気がする冬の雲の上から冬の雲を見てゐる
                       荻原裕幸

「「飛ぶ」などの動詞や飛ぶものの名詞(蝶や鳥など)が使われていない〈飛んでいる感じ〉のある歌」という難しい題を実に鮮やかにクリアしている。飛行機の窓から見える雲の絨毯。

 打ち合わせ果てたるのちの雑談を映す壁紙 森、フィンランド
                       辻 聡之

打ち合わせが終って気分がほぐれている感じ。それまで意識していなかった壁紙の柄が目に入る。「森、フィンランド」が遠い世界へ誘うようだ。

 口付けの場面はカメラ越しに見るしかも他人のiPhone越しに
                       廣野翔一

友人の結婚式の大事なワンシーンをレンズ越しに見ている不思議。写真係という役回りをしている自分に対するやや自嘲的な視線も感じられる。

 海老の背を切り開いてる キッチンを出ていくための扉はひとつ
                       岩田あを

「切り開いてる」と「扉」のイメージがかすかに重なり合う。閉じ込められているような閉塞感や自分の背中を切られているような痛みを感じた。

 沈黙がこわくて牛のべろを焼く未来がこわくてレモンを絞る
                       谷川電話

焼肉屋で誰かと牛タンを食べているところ。「沈黙がこわくて」「未来がこわくて」と畳み掛けるように2回繰り返される理由付けが印象的だ。

 やみくもに色を重ねているような五月の川のひかりっぱなし
                       土岐友浩

結句「ひかりっぱなし」がおもしろい。「五月の川のひかり」までは「ひかり」を名詞だと思って読むのだが、実は動詞「ひかる」の連用形なのだ。

 ほんの数分おにぎりが入っていただけのコンビニの袋平気で捨てる
                       戸田響子

コンビニで買って食べるまでの数分間しか使われなかったレジ袋。「平気で」と書くことによって、かすかなためらいがあることを滲ませている。

 「台風で閉園です」の看板と並んで写真を撮る しょうがない
                       山川 藍

まだ台風は来てないのに一日閉園に決まったのだ。残念な気分を抑えてツイッターなどに載せるための写真を撮る。結句「しょうがない」が山川流。

2018年11月25日、500円。

posted by 松村正直 at 23:33| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月17日

「短歌往来」2019年1月号

島津忠夫編「永井陽子未発表稿・他」としてエッセイ3篇が掲載されている。

それぞれ、愛知県立女子短期大学文芸同好会機関誌「轍」の2号と6号、愛知学生文学サークル協議会機関誌「ひろば」5号に掲載されたものとのこと。掲載の経緯については編集後記に「数年前に島津忠夫氏から届けられた手紙にあったもので、及川が机の片隅に置きっぱなしになっていたものを掲載しました」と記されている。

「轍」や「ひろば」は一般には入手が難しいので「未発表稿」という扱いになったのだろう。けれども、実はこのうちの1篇「現代短歌に何を求めるか」は、「塔」1972年2月号に載った文章である。

以前、このブログでも紹介したことがある。
http://matsutanka.seesaa.net/article/387138482.html

「現代短歌に何を求めるか」という題は、「塔」1972年2月号から数か月にわたって続いた企画のタイトルなので、もともと「塔」に書いた原稿を「ひろば」にも載せたという事情なのだろう。

いずれにせよ「未発表稿」でないことだけは確かである。


posted by 松村正直 at 23:24| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月07日

「パンの耳」第1号

  P1070093.JPG

西宮で行っているフレンテ歌会のメンバー14名で、
同人誌「パンの耳」第1号を刊行しました。
A5判、48ページ。
各自の連作15首とエッセイ「短歌とわたし」が載っています。

P1070095.JPG

私も新作「みずのめいろ」15首を発表しました。

定価は300円(送料込み)。
購入希望の方は、住所・氏名・電話番号を明記して
松村までご連絡ください。
masanao-m@m7.dion.ne.jp


posted by 松村正直 at 22:48| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月04日

「穀物」第5号

 包みハンバーグの銀河を切り開く婚約中の女ともだち
                      狩野悠佳子

アルミホイルを切り開くとハンバーグの湯気が立ち上がる。銀色から「銀河」をイメージしたのと、「包み」と「婚約中」がどことなく響き合うところがいい。

 植物になるなら何に? ばらが好きだけど咲くのは苦しさうだな
                      川野芽生

薔薇の花の幾重にも重なり合う花びらは、確かに「苦しさう」という感じがする。単に見ている分には美しいのだけれど。

 人のをらぬ街へ帰れば街ぢゆうの涸れざるままの湧き水に逢ふ
 をとこみなをとこのこゑになりゆくをかつて屠(し)めたる鶏の爪痕
 大合併の前年に編まるる町史にて大火の夜は頁を跨ぐ
                      濱松哲朗

「翅ある人の音楽」40首。力のある連作で、今回最も注目した。
自らの過去の記憶をたどる旅のなかに、ところどころ他者からの批判や侮蔑の言葉がカタカナ書きで挟み込まれる。

一首目、廃墟となった故郷の風景。ただし、現実の故郷ではなくイメージとしての故郷を造形しているのであろう。
二首目、「男ノクセニ、女ミタイナ声ヲ出シヤガツテ。」という言葉もある。思春期に声変わりする男たちとは異なる存在としての自分。声は身体の一部であるから、他人が軽々しく何か言うべきことではない。
三首目、大火に関する記述が長く続く。面白いのは、写実的な文体でありながら内容はおそらくイメージであるところ。こうした方向性の歌にはとても可能性を感じる。

 「なごり雪」を知らない人と歩いてる雪にさわれる連絡通路
                      廣野翔一

1974年発表のイルカの大ヒット曲「なごり雪」。雪を見て「なごり雪」を思い浮かべる作者とその曲を知らない相手。世代や育った環境の違いがこんなところに表れる。

 銀紙のちぎれた端を口にしてからすにも立ち尽くすことあり
                      山階 基

道端で食べ物を漁っているところか。黒い嘴からのぞく銀紙が鮮やかだ。しばらくじっと動かずに、呆然としているようなカラスの姿。

2018年11月25日、400円。

posted by 松村正直 at 13:16| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月14日

「現代短歌」2018年12月号

第6回現代短歌社賞が発表になっている。
門脇篤史「風に舞ふ付箋紙」300首。

 ハムからハムをめくり取るときひんやりと肉の離るる音ぞ聞ゆる
 牛乳に浸すレバーのくれなゐが広がるゆふべ 目を閉ぢてゐる
 子を成すを恐るる我と恐るるに倦みたる妻と窓辺にゐたり

堅実な詠みぶりの力ある作者で、今後が楽しみだ。

選考委員4名(阿木津英・黒瀬珂瀾・瀬戸夏子・松村正直)による座談会も29ページにわたって掲載されている。ふつうは座談会を行っても誌面に載るのは半分か3分の1くらいの分量になるのだが、これは当日の話のほぼすべてが載っている。

ところどころ緊迫した(?)やり取りもあるので、皆さんぜひお読みください。

なお、第7回現代短歌社賞の募集も始まっています。
歌集未収録作品300首(未・既発表不問)。
締切は来年7月31日。

posted by 松村正直 at 19:07| Comment(2) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする