2020年から2025年の作品368首を収めた第10歌集。
はなびらの無きをも愛でて朝顔の変異にあそぶヒトといふもの
ひとりごと鳥も言ふのだ細きこゑあげてはみづから聴き入るふうに
合鍵をはじめて使ふ手のふるへ扉のうちに声かけながら
土手をゆく京成電車と高架ゆく総武線のおと聴き分けてゐる
東京湾の満ち潮に乗りうかうかと狭き水路に魚群ひしめく
ビルの間にひかつて見えるきれぎれをそれでも海と呼びてゆふぐれ
アキアカネ近くに止まるを見逃さず距離を詰めゆく三角のかほ
書くことは種を埋めるに似てはるか発芽のときを待てる文字たち
見舞へるをねぎらふ母のありがたうお忙しいところとは他人の行儀
へそのない蛙へそのあるあんぱんよ にんげんのへそ母を思はす
1首目、江戸時代から数々の変化朝顔を生み出してきた人間の情熱。
2首目、自分の鳴き声にうっとり聞き惚れているように見えたのだ。
3首目、連絡の取れない一人暮らしの友人宅。安否を気遣いながら。
4首目、音だけで違いが分かり、それぞれの車両の姿が目に浮かぶ。
5首目、「うかうかと」が面白い。早く広い海に戻りたいのだけど。
6首目、少ししか見えなくても海があることに心は安らぐのだろう。
7首目、結句「三角のかほ」だけ言ってカマキリを示すのが鮮やか。
8首目、歌にしろ文章にしろ書くことは未来の読者とつながること。
9首目、たぶん娘だとわからなくなっている。丁寧な口調が寂しい。
10首目、軽みのある上句から母とつながっていた跡を思う下句へ。
2026年5月21日、砂子屋書房、3000円。


