2016年から2025年までの作品307首を収めた第1歌集。
あとがきに、「私が札幌に住んでいること。不安定な雇用であること。女性であること」とある。
北窓にすずしい空気を吸い込んでまた目録の枝葉へ潜る
雨粒を拒まぬ白き木蓮の肌うっとりと老いてゆくよう
打ちつけるその直前の静寂で止まったままの渚の写真
紫陽花をぱちんぱちんと断ち切ってこの子は天国、あの子は地獄
肝臓が意外と上のほうにありトイレでホッカイロを貼りなおす
子のいないことに理由がいるようで目を閉じて抱くメロンの重み
縛られたまま咲きあふれ連翹のやりっぱなしのやられっぱなし
うっすらと透けるねむたさ包み込み海老蒸し餃子のかすかな光
とろとろと灰汁をとるなり開口の浅蜊のたましい浮かぶあたりを
半そでをさらに捲って出す腕の夏の野菜のよう、あの子たち
1首目、図書館で働く作者。一瞬息抜きして根を詰めた作業に戻る。
2首目、つややかな花が雨に濡れている。下句の把握が実に印象的。
3首目、静止した写真であるが一瞬後に波の砕ける様子が目に浮かぶ。
4首目、下句のリズムが楽しそうで残酷。神のように運命を分ける。
5首目、肝臓のあたりが不調で重いのだろう。温めると良いらしい。
6首目、子どもがいないことに対して、世間の無言の圧力を感じる。
7首目、下句が面白い。枝が広がらないように縛っているのだけど。
8首目、眠たさのきざす感じと蒸し餃子の皮の透ける様子が重なる。
9首目、観念して殻を開いた浅蜊からたましいも出てしまったのだ。
10首目、生き生きとして元気な様子。おそらく若い子なのだろう。
2026年7月31日、本阿弥書店、2400円。

