2026年08月18日

鑓水青子歌集『幹にもたれて』


「短歌人」「まいだーん」所属の作者の300首を収めた第1歌集。

朝早く蟻の大群わがへそを掘りはじめたるところで目覚む
成果なき会議を終えて子に会いにみつばちぐみへ向かわんとする
手袋をしたままの指で掛けてゆくダッフルコートの木でできたボタン
強豪の野球チームに入れたれど初日わが子は砂場であそぶ
「おおきい人が車道のほうを歩くんだよ」子にさとされてつなぎなおす手
酒蔵から醬油蔵へまた味噌蔵へ受け継がれゆく仕込みの桶は
梅雨明けを待ちわびながら家じゅうのタオルを白にととのえる朝
あつあつのごはんむすんでゆくときの感覚に似て秋深まりぬ
浅く張る湯船にからだすべらせてパラオのガイドブックを広ぐ
菜の花のみっしり咲ける土手をゆく自転車でゆく高らかにゆく

1首目、結句まで読んで夢の話だとわかる。何とも生々しい印象だ。
2首目、「みつばちぐみ」がいい。保育園に行く作者も蜜蜂みたい。
3首目、木の棒みたいな不思議なボタン。意外と掛けにくいものだ。
4首目、子がやりたがったというより親がやらせたがったのだろう。
5首目、子育てをしているとけっこう子どもから教わることが多い。
6首目、この順番に意味がある。仕込み用の木桶を再利用していく。
7首目、梅雨明けを待ち望む気分に新しいタオルの白さがよく合う。
8首目、かなり個性的な長い比喩。最初は少しずつ、やがて一気に。
9首目、浴室で旅行を思い描いている。パラオの海が見えるようだ。
10首目、3回繰り返す「ゆく」がいい。結句に強い意志を感じる。

2026年8月12日、六花書林、2500円。

posted by 松村正直 at 21:47| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。