2019年から2023年までの作品を収めた第5歌集。
父の死、母の死、コロナ禍など、大きな変化が起きた4年間だったようだ。
兄と我 妻と義姉の四人にて頭を垂れる父の遺体に
父を焼く炎を思う 長月の空を静かに舞う赤蜻蛉
終章のごとき家族の時間なりふたりで食べているあんぽ柿
猫などはいないと言えば怒りたる母の言葉が背に刺さりくる
二十人のマスクの顔が揃いたる六月一日朝の静けさ
次亜塩素酸ナトリウム液噴霧して三百二十二台の机拭えり
昭和十八年より途切れ途切れに続きたる父の日記は平成に果つ
「新聞は読んでますか」と問いたれば「見てはいます」と看護師の言う
選択肢なき心地よさしゃも鍋を頼みて鍋の仕上がりを待つ
読みさしの『暗夜行路』を返却す返却期限二日を過ぎて
1首目、父の火葬の場面。夫婦二組だけでひっそりと見送るところ。
2首目、火葬が終わるまで待つ。炎と赤蜻蛉の取り合わせが印象的。
3首目、実家に暮らす母と二人。家族にも終わりというものがある。
4首目、まぼろしの猫に怯える母の姿。何が見えているのだろうか。
5首目、少人数学級ではなくコロナ禍の分散登校。半数だけの教室。
6首目、「三百二十二台」という数が圧倒的。消毒だけでも大変だ。
7首目、亡き父の日記を見つけて読んでいる。生涯をたどるように。
8首目、コロナ禍で面会できない入院中の母に新聞を差し入れたが。
9首目、しゃも鍋の専門店なのだろう。何を頼むか迷う必要がない。
10首目、志賀直哉唯一の長編小説。重苦しい内容に難儀したのだ。
2026年7月10日、本阿弥書店、2500円。

