2026年08月05日

沖ななも歌集『木陰の思想』

著者 : 沖ななも
角川文化振興財団
発売日 : 2026-07-24

第11歌集。

正座しておとなしく何かを待つさまにとうもろこしのつぶつぶ並ぶ
一本の牛乳瓶が瓶として立ち上がりくる飲み干ししあと
住職も子どもから見ればパパにして呼ばるるパパはTシャツを着る
大根をスパッと切りぬすっぱりと切れるは大根くらいのものか
竜田川に沿って歩けと教えられ沿いて歩くに道離れゆく
降りたいだけ降れば雨も気がすむか夜ふけて一つ二つ星見ゆ
こんなところに永遠(とわ)に眠れる人のおり段々畑のゆきつくところ
朴の木は白磁の壺をかかげつつ今年の宴始めんとせり
古いパイプを「捨てる」の箱から戻すとき父の破顔がけむりにかすむ
折り畳み傘のつばさを一つずつたたみて電車を待てりゆうぐれ

1首目、確かにきれいな姿勢で粒々が並んでいる。擬人化がうまい。
2首目、飲む前は「牛乳」だったものが「瓶」という存在に変わる。
3首目、「パパお客さんだよ」などと呼ばれて出てきた普段着の姿。
4首目、大根を切る爽快さ。世の中や人生の問題はこうはいかない。
5首目、教えられた通りに歩いているはずが、道が逸れていく不安。
6首目、ゲリラ豪雨のような雨を擬人化している。晴れ間が覗いた。
7首目、段々畑の一番上に立つ墓。畑や集落を見下ろす場所にある。
8首目、朴の花の色や形や質感を「白磁の壺」に喩えたのが印象的。
9首目、一度は処分しようとした父の愛用品。やはり捨てられない。
10首目、「つばさ」がいい。手を離すと鳥のように飛んでいきそう。

2026年7月24日、角川文化振興財団、2600円。

posted by 松村正直 at 22:25| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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