2026年07月29日

武田百合子『ことばの食卓』


画:野中ユリ。

武田百合子の「枇杷」というエッセイが好きで、また読みたくなってこの本を買った。他にも食べものに関するエッセイが収められているが、読んだ記憶がない。「枇杷」はこの本ではなく、何かのアンソロジーで読んだのだったか。

夜学性が紙袋のお菓子を、食べてみるか、とすすめてくれたので、土間に立ったまま食べたのだ。カステラの間に羊かんをはさんで三角に切った形のお菓子だった。この菓子の名前知ってるか、と訊くから、知らない、と答えると、シベリヤ、と言った。
秋のお彼岸の快晴の日で、日光は眩しく、全員汗ばんで上気し、むやみと笑った。芝居を演っているような気分だった。あの写真、E家ではきっと破って、ちぎって捨てたろう。先を下りて行く娘にそう言うと「そりゃ、そうだ。当り前のことです」と娘は振り向かずに、下まで真直ぐの石段を下りて行く。
きっとあの人は、お花見会の幹事なのだ。明日か明後日に、勤め先か町内会か商店会のお花見会があるのに、散ってしまっては幹事として顔が潰れるので、花のことばかりが心配な毎日なのだ。一枚散ったら、もうおしまい。はらはらはらはら散り出すのである。出来ることならセメダインで、この一枚を元のところへ貼りつけておきたい気持だろう。

どのエッセイも味わい深く、うまい。現実と空想と回想がほどよく入り混じって独特の雰囲気を湛えている。

文章を整え過ぎないのがいいのだろうな。どうしても整えてしまうものだと思うのだけれど。

武田泰淳・武田百合子のお墓(分骨)が知恩院にあるみたい。一度お参りに行ってみよう。

1991年8月22日第1刷、2024年9月5日第30刷。
ちくま文庫、680円。

posted by 松村正直 at 23:02| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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