2026年07月26日

つげ義春『つげ義春日記』


1983年に講談社から出た単行本の文庫化。

昭和50年から55年にかけての約5年間の日記。長男(正助)の誕生、藤原マキ(真喜子)との結婚、妻の癌の発病、古本や中古カメラの収集・販売、団地への入居、不安神経症の発病といった日々が描かれている。

何だか知っているような気がしたのは、以前、藤原マキ『私の絵日記』を読んだことがあるからだった。

今日も正助のうなり声で熟睡できず、子供のために生活のすべてを混乱させられているようで憎悪を覚える。そのことをマキに云うと泣き出した。
私が引き継ぐ百五十万のローンは、昭和七十六年十月まで支払いを続ける。あと二十三年間だ。溜息が出る。書類には「昭和七十六年」と明記されてあるが、昭和七十六年なんて年号が存続するものなのか?
医者嫌いの自分はあの待合室がなによりも苦痛だ。見知らぬ人の視線を意識しながらじっとしているのは耐えられない。「つげさんどうぞ」と名前を呼ばれ、すっと立ち上るとき、視線が集中するとよろけそうになる。
夕方から自分は一人で障子を張り替えた。初めての経験なのに上手にできた。こういうことをすると所帯じみているけれど「生活している」といった実感があり嬉しい気がする。しっかり「生活」するのはいいことだ。つまらぬ観念的なことを考えるより「生活者」になること、それが精神的にも安定を得ることになると思う。

後半は心身の不調が目立ち、記述もひたすら暗くなっていく。もちろん、事実そのままというわけではないのだろうが、胸が痛む。一方で、それが心地よかったりもするから厄介だ。

2020年3月10日第1刷、2021年11月10日第6刷。
講談社文芸文庫、1300円。

posted by 松村正直 at 23:49| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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