『あるはなく』(2022年)に続く第2歌集。
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ぎしぎしと缶切りに缶ひらくとき国境線を越える軍隊
ひとも車も通らぬ秋は紅葉を映しつづけてゐるカーブミラー
歳月に祖父の身体は奪はれてただ銀縁の眼鏡がのこる
客が来るたびに路上へすこしづつジャズを漏らしてゐる喫茶店
人間で言へばひたひに傷のあるなすび売られてゐたり半値で
鮭のあたまをふたつに割りぬ冬の雲みたいに光る出刃包丁で
おしなべて無口な冬の野菜なり煮込まれてゐるあひだに透けて
かはづの手 かへるで かへで はらはらとみづからの手を切り落とす秋
はじめまして、とこころの内に呟けり 海へと投げる名刺一枚
秋はひとも海も孤独になる季節 船の往来ばかりにぎはひ
1首目 「鳥わたるこきこきこきと缶切れば」(秋元不死男)を思う。
2首目、何かが通るときでなく通らないときを詠んだのが印象的だ。
3首目、祖父の形見となった眼鏡。上句の簡明な死の表し方が響く。
4首目、入口の扉が開くと店内に充満していた音楽が外に漏れ出る。
5首目、剣豪みたいな雰囲気だけどキズ物なので安売りされている。
6首目、「冬の雲みたいに」という比喩が銀白色と季節感を伝える。
7首目、白菜などを入れた鍋を思い浮かべた。色もカラフルでなく。
8首目、カエデの語源は蛙の手。そう思って見ると随分と生々しい。
9首目、初めて来た海に向けた挨拶。下句に映像的な美しさがある。
10首目、大勢の人で賑わった夏が終わり海の表情もよそよそしい。
2026年5月24日、青磁社、2200円。

