2026年07月24日

千葉優作歌集『anchorage』

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『あるはなく』(2022年)に続く第2歌集。
https://seijisya.com/book/anchorage/

ぎしぎしと缶切りに缶ひらくとき国境線を越える軍隊
ひとも車も通らぬ秋は紅葉を映しつづけてゐるカーブミラー
歳月に祖父の身体は奪はれてただ銀縁の眼鏡がのこる
客が来るたびに路上へすこしづつジャズを漏らしてゐる喫茶店
人間で言へばひたひに傷のあるなすび売られてゐたり半値で
鮭のあたまをふたつに割りぬ冬の雲みたいに光る出刃包丁で
おしなべて無口な冬の野菜なり煮込まれてゐるあひだに透けて
かはづの手 かへるで かへで はらはらとみづからの手を切り落とす秋
はじめまして、とこころの内に呟けり 海へと投げる名刺一枚
秋はひとも海も孤独になる季節 船の往来ばかりにぎはひ

1首目 「鳥わたるこきこきこきと缶切れば」(秋元不死男)を思う。
2首目、何かが通るときでなく通らないときを詠んだのが印象的だ。
3首目、祖父の形見となった眼鏡。上句の簡明な死の表し方が響く。
4首目、入口の扉が開くと店内に充満していた音楽が外に漏れ出る。
5首目、剣豪みたいな雰囲気だけどキズ物なので安売りされている。
6首目、「冬の雲みたいに」という比喩が銀白色と季節感を伝える。
7首目、白菜などを入れた鍋を思い浮かべた。色もカラフルでなく。
8首目、カエデの語源は蛙の手。そう思って見ると随分と生々しい。
9首目、初めて来た海に向けた挨拶。下句に映像的な美しさがある。
10首目、大勢の人で賑わった夏が終わり海の表情もよそよそしい。

2026年5月24日、青磁社、2200円。

posted by 松村正直 at 08:28| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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