2019年から2026年の作品317首を収めた第2歌集。
「パンフレットやっぱり買えばよかった」と笑う銀杏を踏み分けながら
濃くうすく色づきながら夏空は慣らし保育のように暮れゆく
とりどりの使いきりバスアメニティー押し花ほどの薄さに並ぶ
ホタルイカの眼をまないたの隅に寄せ浅瀬のように春はかなしい
ひと皿も回っていないたそがれのまわるすしやに翡翠色の灯
おまたせとまたねの間(あい)にラザニアの地層があって分けて崩せり
濡れるほどではない雨もふたりなら傘さしてゆく烏丸御池
うつつにもゆめにもひとのおもかげのたちあおいたちあおいたそがれ
「きときと」をまずは教える富山へと友をいざなうときにはいつも
聴きますと言えば「聞くだけなんやろ?」と問われておりぬストーブの辺に
1首目、映画を見終えて一緒に帰るところ。落葉の黄色が鮮やかだ。
2首目、下句の比喩が実に個性的。こんなところにも私性は表れる。
3首目、ホテルに並ぶアメニティー。使い切りの分量である寂しさ。
4首目、硬い眼の部分だけ取り除く。たくさんの黒い眼に見られて。
5首目、夕食前のまだ客のいない時間帯。まるで別の世界みたいだ。
6首目、待ち合せて一緒にイタリアンを食べて別れるまでのふたり。
7首目、一人なら傘を差さないくらいの雨。二人でいる幸せを思う。
8首目、「立つ」と「たちあおい」「たちおあい」と「青い」の掛詞。
9首目、富山弁で新鮮を意味する語。海の幸の豊かな土地ならでは。
10首目、福祉の仕事で派遣された災害現場。傾聴も簡単ではない。
2026年6月26日、書肆侃侃房、2000円。


