監修:尾崎正明
執筆:古田亮、鶴見香織、吉田春彦
いつからか速水御舟が好きになって美術館によく行くようになった。そんな速水御舟の人生と作品の変遷について解説した本。
作風に大きな違いがありながら、どの作品にも御舟らしさが必ず表われている。初期の《京の舞妓》と晩年の《花の傍》を例にとると、前者はものの存在の確かさに迫ろうとした写実的描写であり、後者は装飾性を意識した平面的な画面処理であって、二つの間の隔たりは大きい。しかし、表現に対する態度にはまったく違いがない。
おそらく、ではあるが、御舟が次男であったということも画家の誕生には有利に働いたことだろう。蒔田家は長男が継ぎ、御舟は一五歳で母方の祖母速水きくの養子となっている。父親には、御舟が絵の道に進むことについて反対する理由が特段見当たらなかったはずである。
「梯子の頂上に登る勇気は貴い、更にそこから降りてきて、再び登り返す勇気を持つ者は更に貴い。大抵は一度登ればそれで安心してしまふ。そこで腰を据へてしまふ者が多い。登り得る勇気を持つ者よりも、更に降り得る勇気を持つ者は、真に強い力の把持者である。」(速水御舟語録)
「鍋島の皿に柘榴」(1921年)、「樹木」(1925年)、「翠苔緑芝」(1928年)など、いつか実物を見てみたい。
2009年10月15日第1刷、2019年7月20日第5刷。
東京美術、1600円。


