2012年から2023年までの作品を収めた第3歌集。
わが夢に入りたる熊よ三日のち宇佐にて出会うその剝製に
百済観音パリ空港に降り給う蛹のように白く捲かれて
うすやみに冀願(きがん)する人ひそみいる旧病棟の庭をよぎれば
夕雲の明かりに寄りて書いているわれの後ろの影をいとしむ
シャガの花飛び立ちそうな谷の道剝がれた風を踏みながら行く
ざんねんな探偵としてわれはわれに雇われいたり今日も推理す
感情はときにわれより長身で水楢の若葉ふれながら行く
ひんやりと錫のコップののこる部屋 母に買いしは夏だとわかる
天満宮には五つの丸を焼鏝で押す文様の梅がまたたく
病廊にみっしり夏の山せまり漆黒と旅愁の見分けがつかぬ
1首目、夢のお告げだったのか。順序が反対なら何でもないのだが。
2首目、ルーブル美術館での展示のため厳重に梱包された謎の姿で。
3首目、病気が治ることを願い続けて叶わなかった人の霊だろうか。
4首目、明かりに向ってものを書くとき必ず背後には影が生まれる。
5首目、シャガはひらひらと飛びそうな花。「剝がれた風」もいい。
6首目、ユーモアのある歌。問題を解決できないダメな探偵なのだ。
7首目、感情が身体から溢れ出る。形がないからいくらでも大きく。
8首目、母が亡くなった後の歌。冷たい飲み物に向いているコップ。
9首目、本物の梅ではなく名物の梅ヶ枝餅がたくさん売られている。
10首目、死が近い夫を見舞う。廊下の暗さに自分の心も見えない。
あたたかい座席にたまに隣り合いモルゲンシュテルンの噂などする
おお、モルゲンシュテルン!
短歌に詠まれたのを見るのは初めてかもしれない。
https://matsutanka.seesaa.net/article/484388876.html
2025年11月21日、砂子屋書房、3000円。


