2021年から2024年の作品を収めた、たぶん第11歌集。
野麦峠の笹原なかに楤の大樹(たいじゆ)あり惜しみつつ採りきその太き芽を
広告の「へしこ」の切り身は厚すぎる薄く刻むがわたしの流儀
菴没羅(あんもら)の熟れし実ふたつ卓におく本邦産の紅(くれなゐ)濃きを
宮川のみなもと近く花香る宿にいねたり「奥」といふ里
人と人近づけるのが歌ならむITの世は人遠ざける
幾百の宗徒踏みしや「ぜすきりしと」と刻みて古りし赤胴(あかがね)の板
「四金蛙王(スーチンワーワン)」ゴーグルかざす北島へドームとよもすかの日の北京
吾老いて食ひ余したる「野田岩」の鰻一切れ心に残る
再びは帰れぬ故郷と思ひつつ峠に立ちしか少年茂吉
腰下ろすところとて無き岸壁に友と分け合ふ煙草一本
1首目、タラの芽を採った思い出。大幅な字余りだが定型感は残る。
2首目、鯖などを糠漬けにした発酵食品。広告は見栄え重視なのだ。
3首目、菴没羅はマンゴーのこと。国内産の赤いアップルマンゴー。
4首目、川の源流に近い土地の名前が「奥」というのが味わい深い。
5首目、短歌の効用の一つ。今後ますます大事になっていくだろう。
6首目、踏絵の銅板。「ぜすきりしと」という表記に時代を感じる。
7首目、アテネ・北京で計四個の金メダルを得た平泳ぎの北島康介。
8首目、おそらく老舗の名店なのだろう。食べ切れずに残念な様子。
9首目、父に連れられて山形から峠を越え上京した茂吉の姿を思う。
10首目、山登りの思い出。岩に張り付きながら一服しているのだ。
2026年4月25日、青磁社、2500円。

