訳・解説:岡村嘉子。
1876(明治9)年に来日した著者の旅行記の第一巻。
とにかく面白い。ぐいぐいと引き込まれて読んだ。
日本に到着した印象や横浜・鎌倉・江ノ島の風物、人々の姿などが詳細に記されるとともに、同行の画家フェリックス・レガメのスケッチ126点も収めている。
思いもよらなかった日本人女性の特徴は、老いも若きも、出会うすべての女性たちが、子供を背負っていることである。しかも、赤ん坊とほとんど変わらないほど年端のゆかぬ幼児まで背負っているのだから。
日本家屋は、完全に取り外し可能なつくりになっている。そのため、こうした暑い季節には、壁に使われている紙の板〔襖。障子〕を外すので、通行人は、そこで働いたり、お喋りしたり、眠ったりする住人の姿を目にする。
聞くところによると、横須賀村は青い海に沿った灰色の家々からなる周辺部とのことだ。だが、いろいろ調べた結果、もうひとつの湾の奥、つまり右手の岬の裏に、軍港が隠されているとわかった。
この国では家の戸締りをしないといってよい。じっさいに必要がないのである。それというのも、泥棒が出るのは稀だし、物乞いにいたっては一切出会わないからである。
役者たちとは別に、舞台上には茶色い装束の者たちがおり、彼らは決して目に見えない存在とみなされている。ある者は小道具を運んだり、ガス灯の口を調節したりするために出入りする。
後に現在のフランス国立ギメ東洋美術館を創設する著者の観察は丁寧で、偏見や差別とも無縁だ。そのため、明治初期の日本の様子がありありと見えてくる。
当時の日本人にとっては当り前過ぎてわざわざ書かないようなことまで書き残しているのが、ありがたい。今では、それが当り前ではなくなっているからだ。
そういう意味では、明治初期の日本というのは、現代の日本人から見れば既に「外国」に近い存在になっているのかもしれない。
2026年4月25日、角川ソフィア文庫、1260円。


