2026年04月08日

吉川宏志『一九七〇年代短歌史』(その1)


「短歌研究」2021年6月号から2024年11月号まで3年半にわたって連載した文章をまとめた一冊。

多くの資料や作品に触れながら1970年代の社会や短歌の動向を丁寧にたどった力作。篠弘『現代短歌史』は1960年代までの記述で終っているので、1970年代を扱った本格的な短歌史はこれが初めてのものと言っていいだろう。

特筆すべき点がいくつもあるのだが、まずは文章の読みやすさを挙げておきたい。500ページ近い分量だが、つまずくことなく最後まで読み進めることができる。

これは当り前のようでいて、実はそうではない。短歌関連の評論などではしばしば主述がねじれていたり、修飾語と被修飾語が離れていたり、何度も読み直さないと文意がつかめない文章をしばしば見かける。本書にはそうした心配がまったくない。

次に、引用歌の一首一首に必ず触れていること。一九七〇年代に詠まれた多くの歌が引かれているのだが、ただ引くだけでなく読みや評価なども記している。これも簡単なようでいてそうではない。歌を責任もって大切に扱っていることがよくわかる。

そして、一番強く感じたのはフェアであること。できるだけ公正で客観的な記述をしようと心掛けている点である。もちろん、歴史というものは誰が書いても何らかの偏りが生じるものではあるのだが、だからこそフェアに書こうとする姿勢が欠かせない。

今だけでなく、10年経っても20年経っても読まれる価値のある本だと思う。おススメです。

2026年1月15日、短歌研究社、3000円。

posted by 松村正直 at 10:37| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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