2026年03月23日

なみの亜子歌集『ねじ花』

短歌研究社
発売日 : 2025-12-12

2021年から24年までの388首を収めた第6歌集。

粉雪の五つにひとつ飛び込みてくる軒下にうすく物干す
雷をこわがりし犬思い出のひとつとなりて積乱雲見ゆ
好きだった人を好きではなくなって痛むのだ波除けのように背中が
誤嚥性肺炎に年を越しし父 面会禁止にむしろやすらぐ
バスに乗る五分になにも思わずに揺れていたればこころの手ぶら
その妻を亡くしてのちはじっとして山椒魚になってしまった
犬が鳴き子ども泣くこえ家々の窓いっせいに網戸となれば
関節の具合にひとはお天気の予報を告げぬもうすぐ雨や
戸籍上の母を次男はアキちゃんと呼び長男は決して呼ばない
肉体はむしろ邪魔なりほんとうに寄り添うという力仕事に

1首目、飛んでくる雪を「五つにひとつ」と数字化したのが面白い。
2首目、犬の散歩をしていた頃の記憶が甦るけれどもう犬はいない。
3首目、好きだった頃の気持ちを思い出してしまうので痛みが強い。
4首目、愛情と本音が滲み出る。病院に任せっきりにできる気安さ。
5首目、何も考えなくていい時間。「こころの手ぶら」が印象的だ。
6首目、亡くなった父を偲ぶ歌。「山椒魚」の比喩が何とも悲しい。
7首目、夏になると近所の家からいろいろな生活の音が聞こえだす。
8首目、脊髄損傷の夫。気圧の関係で関節が痛んだりするのだろう。
9首目、子連れの再婚の場合、子どもが懐くかどうかは難しい問題。
10首目、初二句にハッとさせられた。心と心がぴったり寄り添う。

なみのさんとは「塔」に同じ頃に入って、一緒に同人誌をやったり飲み歩いたりしたこともある。歌集に詠まれている夫や両親にもお会いしたことがある。

それから20年近い歳月が経ったのだとしみじみした思いになった。

2025年12月12日、短歌研究社、2500円。

posted by 松村正直 at 22:54| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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