2017年から2024年の作品を収めた第1歌集。
三章構成の一章と三章は新かな、二章は旧かなになっている。
どの舌も長い根を持つ地上にはついに届かぬままでいる根を
数分で降りやんだ雨 忘れてた、ではなくこれは悲しかっただ
光へと指紋をひたしながら待ついつか遺跡に変わる空港
それぞれに悲鳴を上げる方法は異なっていて静かな水面
言わないと決めた言葉を思うとき膨らんでいく冬の鳩たち
うつくしい心のひとがうつくしいものをつくるといううつくしい嘘
たれもみな生きながら死ぬ背表紙の(保存開始日)〜(資料廃棄日)
追憶の・鎮魂の・死者の・人生の・定型はみな生者の仕草
議事堂はどちらですかと吾に問ふ性善説に胸を衝かれつ
轡(くつばみ)を食みつつ駅へゆく日々の真昼の月のような明るさ
1首目、舌根という語を思い出した。「舌」は言葉でもあるだろう。
2首目、少しあとになって自分の感情に気づいたのだ。意識の空白。
3首目、指紋認証をしているところ。空港は確かに遺跡っぽい感じ。
4首目、水面が静かでも心の中はどうなっているかは人それぞれだ。
5首目、自分の「腹ふくる」ではなく鳩が膨らんでいるのが面白い。
6首目、実際にはそうとは限らないところが人間の複雑なところだ。
7首目、保存期間の決められた資料を見ながら人間も同じだと思う。
8首目、死者を悼む言葉を発するのも生者の奢りなのかもしれない。
9首目、国会議事堂前のデモへと向かう人のあまりにも純粋な様子。
10首目、馬のように使役されている感覚を持ちつつ職場へ向かう。
2025年9月25日、典々堂、2000円。


