357首を収めた第4歌集。
塾講師の仕事やコロナ禍の歌、ガザを詠んだ歌が印象に残った。
点灯夫とう生業ひとつゆらゆらと消滅したるのちの世を生く
あっという間にZoomの授業に慣れてしまいZoomの授業でも私語をする
あんなことこんなことにもふたをして無花果を煮ておれば澄む秋
百均の扇子二ヵ月でこわれたり扇子こわれてふく秋の風
箱買いの赤ボールペンを使い切るあっという間を生業とする
「光風動春」あの子この子の太き文字はねる書き初め展を見にゆく
幼子は歩みくるなり春の日をこぼさぬように掌にのせ
テストはじめ、と告げて静まる教室にふり出だす雨の音を聞きたり
刺してゆく×××××××ひと針が薔薇のひとひら、ひと針が恋
小さき蛾の翅ははたたくにんげんの世界に打ち当たり打ち当たり
1首目、電灯が普及する前の話。世の中から消えていく仕事も多い。
2首目、コロナ禍のオンライン授業。教室でなくても私語が始まる。
3首目、三句の「ふたをして」が上句と下句をうまくつないでいる。
4首目、いかにも百均の商品という感じだが無事に夏は乗り切った。
5首目、採点などに使うので大量に必要になる。「箱買い」がいい。
6首目、日常生活では見かけない言葉。それだけに印象に強く残る。
7首目、よちよち歩きの感じがよく出ている。その時期だけの輝き。
8首目、ざわめいていた教室が一瞬で静まり返る変化がよく伝わる。
9首目、刺繍の縫い目を×で表したのが面白い。針に思いを込めて。
10首目、窓ガラスにぶつかってもがく蛾。自然にはない人工物だ。
2025年12月26日、現代短歌社、2700円。

