2026年02月03日

大口玲子歌集『スルスムコルダ』


第8歌集。「短歌日記」シリーズの15冊目。
2024年1月1日から12月31日までの366首が収められている。

タイトルは「心を高く上げよ」という意味のラテン語とのこと。

霜踏んでひとり行くらむ それぞれの冬野があれば子に付き添はず
相席ですするちゃんぽん 咲き揃ふ五島の椿のニュースがしみる
人生のところどころに灯りたるカステラの福砂屋の包装紙
よろこびを走つて伝へに行くといふことのよろこび花降る朝に
新しい人となるべく食べてゐる新じやが新玉ねぎ春ごばう
息子といふ遊び相手も居なくなり佐土原のくぢらのぼり見にゆく
オリーブの実とは異なるきらめきのオリーブオイルをくるりとかけて
東京のホテルにすくふ白粥の白に消えたり岩塩の白
満月は明日と思ひて仰ぎたり祈りは祈る者を変へゆく
権力と無縁に咲けるコスモスを見るため人はお金を払ふ
行き交へるシスター若きはポシェットのやうにスマホを斜め掛けして
幾たびも息子はわれを驚かせ驚かせいつか離れてゆかむ

1首目、高校受験のために遠くまで行く息子。心配ではあるけれど。
2首目、長崎の町で五島列島を思う。店のテレビが告げる満開の椿。
3首目、贈答品としてもらうカステラ。明るい包装紙に記憶が甦る。
4首目、伝える相手もきっと喜んでくれる。人生に何回もないこと。
5首目、春の野菜の生命力を身体に取り入れて生まれ変わった気分。
6首目、鯉のぼりの鯨版。子が家を出て一人の時間が増えた寂しさ。
7首目、サラダの皿などにかけている。金色の光のようなきらめき。
8首目「白」を3回繰り返したのがおもしろい。映像が目に浮かぶ。
9首目、下句に箴言のような重みがある。祈りの本質と言っていい。
10首目、風に揺れる無力なコスモス。でもそれゆえの魅力もある。
11首目、シスターにスマホは不似合いだが現代の若者には必需品。
12首目、驚かされたり悩まされたりしているうちが花なのだろう。

2025年12月25日、ふらんす堂、2500円。

posted by 松村正直 at 23:46| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。