「俳句研究」2004年1月号から12月号に連載された「古池の彼方へ」をまとめたもの。
芭蕉の代表作「古池や蛙飛こむ水のおと」の解釈から始まって、蕉風開眼とは何だったのか、そして俳句の本質とは何かといった問題に迫った評論集。
まず芭蕉が詠んだ「蛙飛こむ水のおと」は当時はこれだけでも驚くべき表現だった。というのは和歌や連歌はいうまでもなく、貞門、談林の俳諧においても蛙は鳴声を詠むものと決まっていたからである。
宮廷の歌人たちはたいてい都の外へ出たがらない人々だったから歌枕など見たこともなかったが、それは何のさしつかえにもならなかった。それどころか、想像力を働かせるにはその方がかえって好都合だった。
「蛙飛こむ水のおと」は現実の音である。これに芭蕉が取り合わせた「古池」は心の中に浮かんだ景色だった。蕉風開眼とは現実の世界に心の世界を取り合わせたことだったのである。
早くからあった江戸、伊賀、尾張の門弟たちの間では芭蕉の新風、いわゆる蕉風をめぐって意見が分かれ、のちに袂を分かつ人も出たのに対して、近江と京の門弟はみな初めから蕉風を浴びて育った蕉風の申し子たちだった。
論理展開が実に鮮やかで、発想も文章も圧倒的に冴え渡っている。
まさに名著。
2005年6月10日、花神社、2000円。


