2026年01月08日

小島なお歌集『卵降る』


2021年から2025年までの作品を収めた第4歌集。

言葉が殻を破ったような迫力のある歌が多い。結婚生活が詠まれる一方で、ひりひりするような痛みと重苦しさも感じる。

風の日は橋がひかるよ地上からすこし浮かんでひとを思えり
夏草は身体の外で鳴りながら楽器のように受け身でいたい
泣くひとを見てるしかないドトールで白い絵の具に塗り潰される
声は変わり、心も変わる。柑橘を嗅いでからだを変わってもいい
夢に字幕があればいいのに「来て」という文字のうしろに花びらは散り
火鍋用鍋の左右で茹でる蕎麦胃袋ふたつ光らせながら
身体じゅうの穴を眠気が掘りすすむ生前に花を手向けてもいい
眠りいる目鼻を指でたどりゆく夜更け、城跡、靴を燃やして
吊り革に手首を嵌めて目をつむる供花のようには眠くなくとも
斬首ののち残る視界に立っているみずからの脚 草のあわいに
移し替えるときにこぼれる骨の粉喪服に息を吹きかけて消す
まばたきに何度でも押し潰される自室に夜のベランダがある

1首目、橋の上には地上とは少し違った世界がある。明るい相聞歌。
2首目、自ら鳴ることはなくて人の手に鳴らされる存在である楽器。
3首目、声を掛けることさえできず壁の一部になったような気分か。
4首目、身体だけは一生変わらない。別の身体に乗り換えられたら。
5首目、初二句の発想に惹かれる。夢では聴き取れない言葉も多い。
6首目、茹で上がったら食べようという欲望が胃袋を光らせている。
7首目、麻酔が効いていくところか。生者にこそ花が必要なのかも。
8首目、夫の寝顔に触れながら城跡を旅するような寂しさを感じる。
9首目、乗り物に乗っているだけだがまるで吊るされているみたい。
10首目、斬り落とされた首が見ている自分の脚。鮮烈なイメージ。
11首目、祖母の収骨の場面。この世から消えてしまったとの思い。
12首目、逃げ場のないような息苦しさがある。下句も不吉な感じ。

2025年12月9日、左右社、2000円。

posted by 松村正直 at 22:21| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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