2021年から2025年までの作品を収めた第4歌集。
言葉が殻を破ったような迫力のある歌が多い。結婚生活が詠まれる一方で、ひりひりするような痛みと重苦しさも感じる。
風の日は橋がひかるよ地上からすこし浮かんでひとを思えり
夏草は身体の外で鳴りながら楽器のように受け身でいたい
泣くひとを見てるしかないドトールで白い絵の具に塗り潰される
声は変わり、心も変わる。柑橘を嗅いでからだを変わってもいい
夢に字幕があればいいのに「来て」という文字のうしろに花びらは散り
火鍋用鍋の左右で茹でる蕎麦胃袋ふたつ光らせながら
身体じゅうの穴を眠気が掘りすすむ生前に花を手向けてもいい
眠りいる目鼻を指でたどりゆく夜更け、城跡、靴を燃やして
吊り革に手首を嵌めて目をつむる供花のようには眠くなくとも
斬首ののち残る視界に立っているみずからの脚 草のあわいに
移し替えるときにこぼれる骨の粉喪服に息を吹きかけて消す
まばたきに何度でも押し潰される自室に夜のベランダがある
1首目、橋の上には地上とは少し違った世界がある。明るい相聞歌。
2首目、自ら鳴ることはなくて人の手に鳴らされる存在である楽器。
3首目、声を掛けることさえできず壁の一部になったような気分か。
4首目、身体だけは一生変わらない。別の身体に乗り換えられたら。
5首目、初二句の発想に惹かれる。夢では聴き取れない言葉も多い。
6首目、茹で上がったら食べようという欲望が胃袋を光らせている。
7首目、麻酔が効いていくところか。生者にこそ花が必要なのかも。
8首目、夫の寝顔に触れながら城跡を旅するような寂しさを感じる。
9首目、乗り物に乗っているだけだがまるで吊るされているみたい。
10首目、斬り落とされた首が見ている自分の脚。鮮烈なイメージ。
11首目、祖母の収骨の場面。この世から消えてしまったとの思い。
12首目、逃げ場のないような息苦しさがある。下句も不吉な感じ。
2025年12月9日、左右社、2000円。


