「歌人入門」シリーズの15冊目。
子規が「歌よみに与ふる書」を書いて短歌の革新に着手したのは明治三一年から。同三二年、同三三年の三年間、彼は歌人だった。しかも、正岡子規ではなく、歌人としての彼は「竹の里人」であった。
こうした観点に立って初期の歌は省き、明治30年以降の歌が取り上げられている。子規の研究者であった著者の分析はさすがに鋭い。
子規の志向の芯には保守的なものがあった。それは新聞「日本」の保守主義とかなり一致していた。
この歌の詠まれた当時、公園も氷店も新しい素材だった。子規は明治の新しい日常を詠んだのである。
子規の写生とはこの歌のように想像であっても目に見える風景をくっきりと描くことであり、現実を実際に写すことだけではなかった。
このシンプルと具体性は短歌や俳句のような小詩形の大事な要素だろう。名歌とか名句はたいていがシンプルで具体的だ。
この本の大きな特徴として、子規の境涯や人生に基づいた従来の読みから離れようとしていることが挙げられる。「子規という作者を文脈に入れて読む茂吉流を私としてはやめたい」「病人の子規の深い心を読む読み方が広がっているが、その読みから離れてもいいのではないか」とある通りだ。
解説「三年間の歌人」の中で著者は、短歌と俳句の違いを述べ、短歌が「作者が中心の文芸」であるのに対して、俳句は「五七五の表現がいかにすてきかを競う文芸」だと書いている。
そういう意味で本書は、短歌的な鑑賞ではなく俳句的な鑑賞の本と言っていいだろう。それは子規没後の近代短歌が失ったものを考えるヒントにもなる。
とは言え、正直なところ、歌人の書いた「正岡子規の百首」が読みたかったとも思う。
2025年11月27日、ふらんす堂、1700円。


