『能登早春紀行』(1983年)と『津軽海峡を越えて』(1984年)の2冊を収めた文庫オリジナル版。
作者の住む福岡から能登半島へ渡った海女の歴史をたどりつつ、さらに北前船の往き来のあった北海道の渡島半島へと旅を続けていく。
その土地その土地に暮らす人に会って話を聞き、集落を丹念に歩き回って思考をめぐらす。民俗学・歴史学・社会学の調査をするかのような旅の記録である。
その航海の折の風待ち港は、酒田から江戸までの間に十カ所ほど定められ、航路の安全をはかるために幕府の保護が加えられていた。日本海側には、佐渡の小木、能登の福浦、但馬の柴山、石見の温泉津、長門の下関がある。
珠洲は人口三万二千人。人口比率からいえば農業が主体の市とのこと。輪島市も人口三万三千人ほどで、輪島も珠洲もその人口が市街地に集中するばかりでなく、海辺から山間に散って集落を営んでいる。
真宗講は日々の暮らしの中で育ちそれを支えて来た。北陸を中心にひろく浸透していることについて、その歴史的由来もさることながら、信徒がどのような生活の中でどのような姿勢でそれを日常化しているのかということのほうが私の関心をさそう。
松前にやってくると、実にしばしば日本海側の町や村の名が出てくる。それが私にあらためて海路の長い歴史を感じさせる。日本のどこの町でも多くの移住者がいて、さまざまな寄り合いをみせているのだが、ここは日本海航路の関係者に集中しているので印象が深い。
私たちが赤レンガの建造物に魅せられるのは、それが一枚一枚人の手で積み重ねられているせいだ。その重なりが、一日一日を踏み渡る人生そっくりに見えてしまうからだろう。
森崎和江、とてもいいな。
これまで読んでこなかったのが申し訳ない感じ。他の著作もどんどん読んでいきたい。
2025年1月25日、中公文庫、960円。


