第1歌集。
飲む前の水は重たい手荷物で飲んだ途端に自分に変わる
ふるさとを離れた人がふるさとを語るテレビをふるさとで見る
ゴミ袋ちょっと濡れてる 枯れた日と捨てた日どっちが命日だろう
信号を無視するときこそ信号を最も強く意識しながら
中間を取れば三ノ宮になっていつも誰かと会うための街
僕よりも僕のために怒ってくれて花束だった 花束だったな、
「じゃあまた」の「また」のころには春だろう 風をリュックにしまって歩く
「音楽もぜんぜん聴けんくなった」って言われてほうじ茶ラテが揺れてる
灯籠は下流で回収されるらしいそれでも君が灯した光
19時まで店員だった店員が私服になって帰っていった
1首目、ペットボトルの水は飲んでしまえばもう重さがなくなる。
2首目、ふるさとに住み続ける作者は複雑な気分で聞くのだろう。
3首目、花瓶の花を捨てる場面。上句の細かな描写が効いている。
4首目、無視することでかえって強く意識する。信号だけでなく。
5首目、大阪と姫路付近の人が会う場合。それ以外では行かない。
6首目、その場面を何度も思い返しては嬉しさを噛み締めている。
7首目、上句が鮮やか。次に会うときにはもう季節が変っている。
8首目、仕事などで余裕がない相手。何と声を掛けたらいいのか。
9首目、海へ行くことはない灯籠だが祈りの気持ちは本物である。
10首目、制服のときとは違う印象の私服姿。もう店員ではない。
連作としては、結婚して東京に転居した先輩を詠んだ「クジラのなまえ」18首が特に良かった。
2025年10月13日、左右社、1800円。


