2025年11月15日

なべとびすこ歌集『デデバグ』


第1歌集。

飲む前の水は重たい手荷物で飲んだ途端に自分に変わる
ふるさとを離れた人がふるさとを語るテレビをふるさとで見る
ゴミ袋ちょっと濡れてる 枯れた日と捨てた日どっちが命日だろう
信号を無視するときこそ信号を最も強く意識しながら
中間を取れば三ノ宮になっていつも誰かと会うための街
僕よりも僕のために怒ってくれて花束だった 花束だったな、
「じゃあまた」の「また」のころには春だろう 風をリュックにしまって歩く
「音楽もぜんぜん聴けんくなった」って言われてほうじ茶ラテが揺れてる
灯籠は下流で回収されるらしいそれでも君が灯した光
19時まで店員だった店員が私服になって帰っていった

1首目、ペットボトルの水は飲んでしまえばもう重さがなくなる。
2首目、ふるさとに住み続ける作者は複雑な気分で聞くのだろう。
3首目、花瓶の花を捨てる場面。上句の細かな描写が効いている。
4首目、無視することでかえって強く意識する。信号だけでなく。
5首目、大阪と姫路付近の人が会う場合。それ以外では行かない。
6首目、その場面を何度も思い返しては嬉しさを噛み締めている。
7首目、上句が鮮やか。次に会うときにはもう季節が変っている。
8首目、仕事などで余裕がない相手。何と声を掛けたらいいのか。
9首目、海へ行くことはない灯籠だが祈りの気持ちは本物である。
10首目、制服のときとは違う印象の私服姿。もう店員ではない。

連作としては、結婚して東京に転居した先輩を詠んだ「クジラのなまえ」18首が特に良かった。

2025年10月13日、左右社、1800円。

posted by 松村正直 at 10:41| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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