「中部短歌会」所属の作者の第1歌集。
タイトルの「祈ふ」は「こふ」。
飛車の威を借る歩か我も年上の部下の仕事にダメ出しをして
かの日蜘蛛に喰はれし蝶の叫喚の嫋嫋たるをわがうちに聴く
どこまでも、どこまでも、空。 〈縊死〉ののち翅を持ち始むる蟻の群れ
泥濘になほ白かりきたんぽぽも紋白蝶の産卵管も
はよしりん、やぐい子だねえ。センセイの親指がおしつける名札(おなまえ)
注 やぐい:三河弁で「どんくさい」。
昼休み 愛想笑ひの絆もて同僚と行く〈ラーメン二郎〉
彼岸へのモールスめきて蛍火は明滅しつつのぼりゆきけり
#呟いてみた 「生きたい」と「死にたい」がぶつかる交差点
特攻を生き延びし祖父七十年のちのベッドに横たはりをり
母の死の後をひつそり生きてゐる秋の日差しを眩しみながら
1首目、「虎の威を借る狐」のもじり。会社内での上下関係の様子。
2首目、細く長く聞こえる叫び。声にならない悲鳴が心の中にある。
3首目、岸上大作を詠んだ一連の歌。羽蟻の飛翔のイメージが鮮明。
4首目、泥に塗れたものたち。白さゆえに一層痛ましく感じられる。
5首目、滋賀から愛知へと転居していじめられた経験。先生もまた。
6首目、「愛想笑ひの絆」が秀逸。自分だけでなく相手も愛想笑い。
7首目、蛍の光を死後の世界への通信として見ているのが印象的だ。
8首目、ハッシュタグを用いた一連。生きたいと死にたいは紙一重。
9首目、1945年と2015年。祖父が生き延びたから今自分がいる。
10首目、親を亡くした後の茫漠とした喪失感が深く滲み出ている。
2025年9月25日、短歌研究社、1800円。


