「短歌人」所属の作者の第2歌集。
空はいま無言を搾っているところ あとにしよう音楽の話は
もう消えた記憶の成れの果てとしてセイタカアワダチソウ群れて咲く
触れられる形でいえば駅だろう矢印と風を持つひとだった
雨後の街は金魚のにおいばかりする こころの外へ僕を出さねば
音楽のように片手を上げているあなたが何かを修復している
やわらかな冬のひかりよ日時計に一人称があればうれしい
春はなおさらあなたの中に教会が二つ見えその小さめの方
あこがれが針のようだと思うときこころから飛ぶまっさらな蜂
ひとすじの光を曳いて去り際のあなたは青いオーボエだった
みずいろのカフェテラスでは風に訊く人形同士の恋の顚末
1首目、無言でいることも時に大切。言葉で何かを壊さないために。
2首目、思い出せない記憶の残骸として黄色に塗りつぶされた風景。
3首目、自由な心と強い意志を持つ人の佇まいが目に浮かんでくる。
4首目、居心地のよい自分の心の中に閉じ籠ってしまわないように。
5首目、演奏しているのか指揮しているのか世界を直しているのか。
6首目、完全に受身の存在である日時計にも自らの意志があるはず。
7首目「春」や「小さめの方」という限定がイメージを強めている。
8首目、自分の心から対象へと向かって真っ直ぐに進んでいく思い。
9首目「青い」が印象的。オーボエの形や音、金属部分の光沢など。
10首目、本人たちに訊くわけにはいかない。風が見守っていた恋。
2025年8月23日、書肆侃侃房、2000円。

