2025年10月23日

白川ユウコ歌集『ざざんざ』


2013年から2024年までの作品501首を収めた第3歌集。

引っ越しの荷づくりすれば生活は直方体にはこばれてゆく
針と糸あるところには刺繍あり文字を持たない民族にもある
〈鳥ぎん〉は時が止まった釜めし屋うすいしゃもじでおこげをはがす
頼朝と政子の〈腰掛石〉ふたつあればふたりで腰掛けており
陽がのぼる前のひかりの窓辺にてひとりひらけり新約聖書
水を飲みドライフルーツ少し食み小鳥のように午後を過ごせり
どくだみの香りを嗅ぐと思い出すいつでも雨の大角(おおすみ)医院
六枚組〈啄木絵はがき〉五枚出し蟹の絵柄の一枚のこす
駱駝より駱駝の影はおおきくて砂漠の西に沈む太陽
孫代わりと母に呼ばれる雄猫がわがふくらはぎひょろんと跨ぐ

1首目、生活という形のないものが目に見える直方体の集積になる。
2首目、単に縫うだけでなく刺繍を施すのが人間ならではの部分か。
3首目、下句の描写がいい。昔ながらの店の佇まいがよく出ている。
4首目、伝説でしかないのだがもっともらしく二つ並んでいるのだ。
5首目、「ひ」の音の繰り返しが静謐な朝の空気と心を感じさせる。
6首目、ひとりで過ごす時間。少しのものだけで十分に満たされて。
7首目、子どもの頃の記憶か。常に暗い雨の印象とともにある医院。
8首目、「東海の…」の歌の記された一枚。思い入れがあったのか。
9首目、映像が目に浮かぶ歌。傾いた陽により影が長く伸びている。
10首目、孫を持たない母への複雑な思い。「ひょろんと」がいい。

2025年8月11日、六花書林、2500円。

posted by 松村正直 at 23:36| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。