2025年10月05日

水原秋櫻子『高濱虚子 並に周囲の作者達』


高濱虚子に師事して「ホトトギスの四S」の一人として活躍した著者が、やがて客観写生や花鳥諷詠の理念に飽き足らず袂を分つまでを記した自伝的回想記。

表題になった高濱虚子のほか、高野素十、松根東洋城、池内たけし、中田みづほ、山口青邨、山口誓子、原石鼎、川端茅舎、赤星水竹居、富安風生、鈴木花蓑、田中王城といった俳人が登場する。

結社の師弟関係や人間関係、主観と客観の問題など、今にも通じる話がたくさん出てきて面白く、また考えさせられる内容だ。

ホトトギスには「客観写生」という標語があった。元来「写生」という語には、作者の心が含まれているわけで、客観写生というのはおかしな言い方なのであるが、大衆には一応わかりやすい語であるに相違ない。
いままでに詠んでいた句が、殆どすべて景色や花鳥の描写ばかりで、自分の感情をわすれ、主観を捨てていた。だから句を読み返すと、景色は眼の前に浮んで来るが、その時の心の躍動は消えてしまっている。こういう俳句ではなく、心がいつまでも脈々とつたわる俳句が詠みたいのだが、ホトトギスではそれを教えない。
虚子は明らかに作者の主観を認めている。それならばその主観をいかにして描写の上に現してゆくかということを、私達はききたいのであった。私達は句の調べの上に主観をのせてゆくことを考えていたが、それを完全に理論的に説明することがむずかしいのである。
結局はホトトギスを去ると決心して、さすがに思われるのは、十年の育成を受けた恩であった。私は初学者にして渋柿を去ったので、ともかくも俳句のことがわかるようになったのはホトトギスに学んだ為である。

仲間との会話や吟行の場面など当時の様子が事細かに記されているが、この本が刊行されたのは1952年、著者60歳の時のこと。「ホトトギス」を脱退したのは1931年、39歳の時なので、20年以上経ってからの回想ということになる。

何か元になる日記などがあったのだろうか。

2019年2月7日、講談社文芸文庫、1800円。

posted by 松村正直 at 23:31| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。