2025年09月25日

小牟田哲彦『日本鉄道廃線史』


副題は「消えた鉄路の跡を行く」。

多くの費用と歳月をかけて建設された鉄道が廃線へと至る経緯について、「戦時における廃線」「国鉄時代の赤字線廃止」「災害による廃線」「平成・令和の経営不振路線」と時代ごとに区分して記している。

現地への探訪記も多く含まれていて、単に歴史的な記録としてではなく、まさに現在の問題として鉄道の廃線を考える姿勢が明確になっている。

高千穂鉄道が先例(?)となったのか、大規模な自然災害によって列車の運行が不可能なほどに施設が損壊したJRのローカル線が、そのまま復旧されることなく廃止される例が、近年ではさほど珍しいことではなくなった。
路線バスの運転手不足は全国的な問題となっており、「赤字の鉄道路線をバスに切り替えれば、地方の公共交通を維持しつつ経費削減にも繋がる」といった発想は、地域によっては机上の空論に近づきつつある。
長距離の大量輸送を得意とする鉄道は、本質的に旅客よりも貨物の輸送量が収支に大きく影響する。北海道新幹線の建設に伴う並行在来線問題がクローズアップされたことで、貨物輸送の盛衰が路線の存廃に大きな影響を及ぼすことが、久々に問題意識として顕在化した。
鉄道を廃棄するという作業は、陸上のインフラを限定的にしか持たないバス路線や航空路線、船舶の撤退に比べて、はるかに大きな社会的影響をもたらす。そして、いったん廃線になって線路を剝がせば、後で事情の変化があっても、再び同じ区間に線路を敷いて列車を走らせることはほぼ不可能である。

鉄道の存廃は民間企業の収支だけで判断されるべきではなく、地域の活性化や移動の自由といった点も含め、国の交通政策全体のなかで考えていくべき課題なのだろう。

2024年6月25日、中公新書、1050円。

posted by 松村正直 at 22:56| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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