2014年から18年までの作品421首と長歌1首を収めた第4歌集。
生まれ育った福島県や会津へ寄せる強い思いが印象に残る。
いはしろの会津高田の梅の実に月さすあをきみなづきのよる
いくさより百四十六年、夕光が十六橋のからだを蔵(つつ)む
ふくしまの空気を吸つて熟(みの)りたるあかつきといふ桃のゐさらひ
除染土を入れた三百十四の袋が雨に流されにけり
ウェールズ語喋る罰とぞ子の首に掛けられてゐしWelsh Not
いにしへの楢葉(ならは)標葉(しねは)の名も遠き双葉高校募集停止す
都よりみれば東北 東にも北にもあらぬわがうぶすなよ
しろたへの手があらはれて苗といふあをきいのちを植ゑにけるかも
教職員人事評価のなき猫は道の真中に背中をこする
くるまみな路肩に寄りて真んなかを救急車ゆく雪のゆふぐれ
1首目、岩代は福島県西部の旧国名。月光を受けた梅の実が美しい。
2首目、戊辰戦争の激戦地。会津の人には忘れられない戦いの記憶。
3首目、福島を代表する桃の品種。結句に形状と愛情が感じられる。
4首目、具体的な数詞が効いている。何ともやるせない思いが滲む。
5首目、日本にも方言札があった。中央と地方の格差や差別の歴史。
6首目、旧制中学以来の伝統ある高校が原発事故の影響により休校。
7首目、「東北」という言葉が中央からの見方を如実に表している。
8首目、美しい田植えの光景。白秋の「大きなる手が」を思わせる。
9首目、教員をしている作者。猫は気楽でいいなあと思うのだろう。
10首目、路肩の雪に乗り上げるようにして道路を空けているのだ。
2018年5月28日、ながらみ書房、2500円。

