『メロディアの笛 白秋とその時代』(2011年)の続篇。
「短歌往来」2016年1月号から3年間連載した文章に訂正、加筆したもの。
関東大震災、飛翔吟、前田夕暮・島木赤彦・斎藤茂吉との関係、「日光」創刊、鈴木三重吉や山田耕筰との関わり、戦争観、「多磨」創刊、薄明吟など、大正の終わりから昭和17年の死に至るまでの白秋の軌跡を描いている。
「本書は短歌を中心に同時期の詩や童謡、歌謡などの他のジャンルの作品も視野に入れて書くことを念頭に置いた」とあとがきにある通り、「歌人」という枠組みに収まらない国民詩人であった白秋の生涯が浮かび上がってくる。
白秋は、現実を描写して記録するという行き方を選ばず、大震災という大きな悲傷を背負わざるを得なかった時代感情を引き受けて童謡「からたちの花」を書いたのである。
赤彦による「アララギ」の編集経営が軌道にのり、歌壇の交流よりも根岸派の伝統路線を選んだ赤彦の標的となったのが白秋と夕暮であったのである。
郷土の言葉とは異なった標準日本語を用いて、西洋の楽曲の音階を習得させる唱歌教育に対する嫌悪感が、やがて童謡創作へと白秋をむかわせてゆくのである。
プロの文士として愛国歌謡や童謡の委嘱に応えねばならない立場にあった白秋にとって短歌は自由に心を遊ばせることのできる唯一無二の表現となっていたのである。
白秋は昭和10年に「多磨」を創刊し、「五十七年の生涯の最後の七年を歌人として生き、詩業の集大成に短歌を選んだ」。それは白秋にとって大きな意味を持っただけでなく、歌壇にとっても大きな出来事だったと言っていい。
「多磨」は多くの歌人を育てたのち昭和27年に終刊するが、その流れは宮柊二の「コスモス」や木俣修の「形成」などに受け継がれ、現在まで続いている。
2025年3月1日、ながらみ書房、2700円。

