赤煉瓦の東京駅をつくった「日本近代建築の父」辰野金吾(1854‐1919)の生涯を描いた小説。
読書はタイミングと流れが大切だと思っている。7月に唐津に行って旧唐津銀行(辰野金吾記念館)を見てきたこともあり、唐津に生まれ育った辰野のことが気になっていた。
(片山)東熊のこういう早耳は、肥前唐津藩という旧佐幕組、つまり維新の負け組の出身である(辰野)金吾や(曽禰)達蔵には逆立ちしても得られぬものだった。
おそらく日本初の民間の建築事務所であろう辰野建築事務所は、このようにして誕生した。日本に職業としての「建築家」が誕生した、その瞬間ともいえる。
金吾はおなじ日本銀行でも、本店と大阪支店はドイツ式でやったが、その後の名古屋支店、および京都支店はクイーン・アンでやっている。
師のジョサイア・コンドルとの関係や同じ唐津出身で工部大学校造家学科(現在の東京大学工学部建築学科)でも同期(一期生)であった曽禰達蔵との友情、明治から大正への時代の移り変わりなどが鮮やかに描かれている。
辰野は国会議事堂の設計にも意欲を持っていたが、果たすことなく64歳で亡くなる。その死因がスペイン風邪だったことを、この本で初めて知った。
近代建築界の「大ボス」みたいな人。イメージとしては、俳句の高浜虚子、短歌の土屋文明、将棋の大山康晴みたいな感じかな。時代は違うけれど。
「大ボス」がいるというのは、良くも悪くもそのジャンルにとって大事なことだと思う。
2023年4月10日、文春文庫、910円。


