この1週間この本を読み続けて、ずっと暗い気分になっていた。
すごい本。まさに圧倒的な内容だ。
2015年にノーベル文学賞を受賞した著者のデビュー作。
三浦みどり訳。
ベラルーシ人の父とウクライナ人の母を持つ著者が、第二次世界大戦に従軍した女性たち500名以上から聞き取りを行って記した本。これまであまり表に出てこなかった女性の体験した戦争の実態が生々しく描かれている。
母の父親であるウクライナ人の祖父は戦死して、ハンガリーのどこかに葬られており、ベラルーシ人の祖父、つまり、父の母親はパルチザン活動に加わり、チフスで亡くなっている。その息子のうち二人は戦争が始まったばかりの数ヶ月で行方不明となり、三人兄弟の一人だけが戻って来た。それがわたしの父だ。
このように、著者の生い立ちにも戦争は深く関わっている。
大木毅『独ソ戦』に克明に記されている通り、ドイツとソ連の戦いは想像を絶する激しさだった。現在のウクライナやベラルーシはドイツ軍の進撃に蹂躙され、占領され、無数の死傷者を出した。
https://matsutanka.seesaa.net/article/482885876.html
https://matsutanka.seesaa.net/article/482900345.html
そして多くの10代や20代の若いソ連の女性が従軍し、狙撃兵や通信兵、機関銃兵、飛行士、電信係、射撃手、軍医、看護婦、衛生指導員、斥候として戦った。
また料理係や洗濯係、パン焼き係、運送係などを務めた女性もいる。さらに、占領下でパルチザンや地下活動家になった女性など、一人一人の証言が細かく書き留められている。
「勇気を称える」メダルをもらったのが十九歳。すっかり髪が白くなったのが十九歳。最後の戦いで両肺を撃ち抜かれ、二つ目の弾丸が脊椎骨の間を貫通し、私の両脚が麻痺して戦死したとみなされたのが十九歳でした。十九歳の時に……(ナヂェージダ・ワシリーエヴナ・アニシモワ)
せめて一日でいいから戦争のない日を過ごしたい。戦争のことを思い出さない日を。せめて一日でいいから……(オリガ・ワシリーエヴナ・ポドヴィシェンスカヤ)
祖国でどんな迎え方をされたか? 涙なしでは語れません……四十年もたったけど、まだほほが熱くなるわ。男たちは黙っていたけれど、女たちは? 女たちはこう言ったんです。「あんたたちが戦地で何をしていたか知ってるわ。若さで誘惑して、あたしたちの亭主と懇ろになってたんだろ。戦地のあばずれ、戦争の雌犬め……」あるとあらゆる侮辱を受けました……。(クラヴヂア・S)
戦争は勝利という結果に終わったけれども、彼女たちは身体や心に深い傷を負った。さらに、戦後になると従軍していた女性たちは一転して激しい差別にさらされることになる。
こうした戦争の負の側面は、戦勝国ソ連の歴史において長らく伏せられ、隠され、語られることのないものだった。それを長い時間をかけて取材し、発掘し、記録した著者の功績は大きい。
2016年2月16日第1刷、2022年4月15日第14刷。
岩波現代文庫、1400円。



日本は軍国主義教育でしたが、ソ連は愛国教育が強かったようです。
ドイツ軍の捕虜となり、解放後シベリアへ流刑された軍人たち、ドイツ軍の占領下の住民がドイツの協力者とみなされ差別される理不尽さ、国は戦争に勝ちながら無念な人生を歩まされた多くの人たち。
現代のプーチン政権化の国民は、スターリン時代と同様に、発言には細心の配慮をしないと平穏な人生は送れない。戦後80年となりますが、変わらないなあと思いました。
さまざまな示唆や教訓を受け取ることのできる本だと思います。