331首を収めた第6歌集。
あとがきに「私は三年前に手術を受け現在も加療中」とある。
自動車も人も時間に選ばれて交互に青き信号わたる
焼き菓子の砂糖のおもさ計りつつ連れ合ひはわが話を聞かず
みほとけの帰依篤きひと難病に神の洗礼受けたりしとぞ
薬師如来彫らるる岩間くだりくるみづを掬ひて病むわれが飲む
うづ高く積まるる黒き鉱石にあめ降りしづむ埠頭は寒く
絶え間なく桜はな散る村の道きのふとおなじ人がゐて掃く
朝顔の花を数えてゐる妻かわづかに下の顎うごかして
足元の草を引きゐて知らぬ間に妻とわれとの距離とほくなる
墓石に水をそそげる幼らはみづから濡れて水をよろこぶ
石仏の前掛けひとひ縫ひし妻日の暮れ顔が重たしと言ふ
1首目、「時間に選ばれて」がいい。決められた秒数に従って動く。
2首目、ユーモアのある歌。大事な慎重さを要する場面なのですよ。
3首目、僧侶である作者にとって何とも複雑な思いのする話である。
4首目、癌を病む作者。昔から多くの人が飲んできた水なのだろう。
5首目、船で運ばれる鉱石の山。人の姿のない光景を見つめる作者。
6首目、花の散る時期には毎日履いているのだ。日々の行いの尊さ。
7首目、下句の描写がいい。声は聞こえないけれど何か言っている。
8首目、病む自分と妻との心理的な距離を表しているようでもある。
9首目、墓参りが水遊びになる幼子たちの姿。死者も喜んでそうだ。
10首目、ずっと下を向いていたのだろう。「重たし」に実感がある。
2025年8月5日、現代短歌社、3000円。

