2025年07月27日

三潴忠典歌集『曲がらなければ伊勢まで行ける』

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2023年に現代短歌社賞次席になった作者の第1歌集。
名前の読み方は「みつま・ただのり」。
役所での仕事を詠んだ歌が印象に残る。

車椅子がやや回り道して進む歩道のそこはほんとに平ら
届出に不備がないかを確認して「おめでとうございます」と言ったりもする
スリッパにデスクの下で履き替えて苦情を聞いた足を休める
スマートフォンに当確通知がなだれこむ 投票箱はこれから運ぶ
傾げてる首の左右を入れ替えて到着を待つ鈍行の旅
カウンターに五つの椅子が並んでる二番目と四番目は寂しい
雨傘をきつく縛って細くする嵐ちかづく川のほとりで
検体採取は診療行為 綿棒の袋を切って医師に差し出す
立行司の「勝負あった」という声を無観客場所中継に聞く
座るときに膝がぶつかる窓口に斜めに座り要件を聞く

1首目、歩いている人にはわからないほどの高低差があるのだろう。
2首目、婚姻届を受理する場面。全く知らない人ではあるけれども。
3首目、他の人からは見えないところで疲れとストレスを和らげる。
4首目、開票率0%で当確が出ても開票作業は粛々と行われていく。
5首目、上句の言い回しが面白い。座席で眠りながら姿勢を変えた。
6首目、一人おきに座ることが多いので、あまり座ってもらえない。
7首目、傘の状態の話だけでなく気を引き締めているようでもある。
8首目、コロナ禍のPCR検査会場。手伝えるのは綿棒を出すまで。
9首目、ふだんから行司は言っているのだが歓声などで聞こえない。
10首目、私たちの知らない窓口の内側の世界を垣間見せてくれる。

2025年7月15日、現代短歌社、2500円。

posted by 松村正直 at 08:18| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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