副題は「塚本の血のあと」。
「歌人入門」シリーズの 13冊目。
このシリーズはどれもおススメのものばかり。
海も葡萄も眞(まさを)に濡れて秋が來る老人のやうに坐つてゐるな/第一歌集以前
原爆忌昏れて空地に干されゐし洋傘(かうもり)が風にころがりまはる/『装飾樂句』
水を切る敦盛蜻蛉(あつもりとんぼ)水くぐる維盛蜻蛉(これもりとんぼ) 男ははかな/『天變の書』
日向灘いまだ知らねど柑橘の花の底なる一抹の金/『豹變』
枇杷の汁股閧ノしたたれるものをわれのみは老いざらむ老いざらむ/『詩歌變』
三次(みよし)の街に晝飯くらふさびしさは北さして流れゆく川ばかり/『黄金律』
その夏の葬りの死者が戰死者にあらざるを蔑されき忘れず/『詩魂玲瓏』
初期から最晩年まで100首の歌の鑑賞を通じて、塚本の60年以上にわたる歌の変遷や特質がよく伝わってくる。
初出は一九五一年九月「日本短歌」、その時は「鮭色の踵の」だった。なぜ桃色に変えたのだろう。鮭のほうがよくないか。
名歌「夢の沖に」のあとに数首「鶴」の歌が続くのはやや興ざめの感がある。塚本は類歌の処理に関しての自己基準が、やや緩やかだったのではないか。
ただこの時期、先行する詩句のもじりやパロディで成立している歌が多すぎるように思う。多作は塚本の信条であったが、言葉の量で圧す方法には疑問が残る。
塚本に師事したことを「私の人生において無上の幸福であった」と記す著者だが、疑問点や批判すべき点はきちんと指摘しているところも印象に残った。これこそ文学における師弟関係のあるべき姿と言っていいだろう。
2025年6月30日、ふらんす堂、1700円。


