晩年の母との暮らしを詠んだ第2歌集。
第29回若山牧水賞受賞。
金魚さんゐなくなつたと不安げな母に指さす水槽の中
親族が集ふ場にゐて妻のないわれは薄墨めいて座りぬ
歯ブラシとヘアーブラシを迷ひつつ母はもごもご歯磨きをする
今朝採つたキュウリ二本を母に見せ喜んでゐる母をよろこぶ
普通人の生活ありたる更地には墓標のごとく立つ水道栓
昼風呂の湯気に煙りてシャンプーが人形のごと窓辺にならぶ
先送りできる余裕のあることが若さだつたか月明かりの日々
わが亡父(ちち)は逆さまになり朝を待つ母が片付けしテーブルの上
高山さんはわが母のこと介護職の方には息子さんと呼ばれる
生きるとは死ぬまで生きむとする力テーブルの海に母の手泳ぐ
1首目、「ここにいるよ」と教えて、その都度母を安心させている。
2首目、結婚式や葬式などの場では夫婦や家族が一つの単位になる。
3首目、認知症の母との生活。同じブラシでも大きさがだいぶ違う。
4首目、キュウリの収穫自体よりも母が喜んでくれたことが嬉しい。
5首目、解体された家の後に残る水道栓。比喩がうまく効いている。
6首目、窓の外が明るいので何本かある容器が人形のように見える。
7首目、年を取って気づくこと。時間がたっぷりあった頃との違い。
8首目、逆さまになった父の遺影。悲しいような微笑ましいような。
9首目、介護の場面ではこうなる。利用者である母が中心の関係性。
10首目、生きようとする力が人間の心にも身体にも備わっている。
2024年7月7日、ながらみ書房、2300円。

