414首を収めた第15歌集。
歌集名の読み方は「かりばみ」。
海辺にて初日拝みし人ら去り初日はいつもの陽となりのぼる
夕闇に溶けてしまひしうつそみのまなこのみにて夜の道帰る
いのちはつる日は遠からず来むものを屋根越えてゆく鳩群れが照る
山頂に測候所ならむ一センチにも満たざる白き建物が見ゆ
消し忘れてゐたるトイレの灯がみゆるまだわれが中に居るやも知れず
夜となれば沼の面にあまたなる遠き宇宙の星がきて浮く
吹きあげられし傘にすがれる青年が雨の中に見ゆ駅前広場
幕がおりれば舞台より死者が立ちあがるやうにはいかぬ人生といふは
妻はひとり居間にすわりてありつたけの声を出させてゐたりテレビに
くさはらに陽を照り反す物体が空缶のかたちみせはじめたり
雑木林拓かれて工場が建つといふそのこと木々らに告げずにおかむ
まだわれと関はりのなき少女期の母が樹に凭るモノクロ写真
たなごころにいのちの重さつたはりてしなやかに竿を曲げるハヤたち
引退せし白鵬も青き服を着て会場内の整理してをり
昭和期の蚊ならむ定価五十円の古書にはさまれ干涸(ひから)びてをり
1首目、初日が拝まれるのは日の出の直後だけ。その後は平常運転。
2首目、身体が闇に没して眼だけが夜道を動いていくような感覚か。
3首目、旋回する鳩の美しい輝きを眺めて、そこに命を感じている。
4首目、「一センチにも満たざる」が面白い。実際は大きいのだが。
5首目、トイレの中にいる自分とトイレの明かりを見ている自分と。
6首目、動詞の選びがいい。「映る」ではなく「きて浮く」とした。
7首目、台風などで天気が大荒れなのだ。「すがれる」が実に巧み。
8首目、芝居の死者は生き返ることができるが現実はそうではない。
9首目、妻に何があったのかと思って読んでいくとボリュームの話。
10首目、光の反射でよく見えなかったのが近づいて空缶とわかる。
11首目、下句にユーモアと寂しさが滲む。好きな林だったのかも。
12首目、上句の言い回しに味わいがある。自分を産む前の母の姿。
13首目、身体感覚から始まって下句で釣りの場面だとわかる語順。
14首目、親方として仕事をする白鵬の姿。「白」「青」が鮮やかだ。
15首目、「昭和期」はユーモアだけでなく自身の姿も重ねているか。
2025年4月24日、江南書房、2000円。

