第5歌集。
従来のSF的、オカルト的な作品だけでなく、父の介護を中心とした生活詠や境涯詠が含まれているのが目を引く。
認知症の父を探してまわる町に子連れの吉田を見かけ見送る
もう喋ることさえできぬ父の目に愚鈍な介護士として映りいるわれか
浅き眠りの父を傍(かたえ)に読みふける介護の歌なき万葉集を
流木のような足首持ち上げて最初で最後の親孝行せん
「おしん」見て大根めしをねだりたる小学二年の冬の食卓
グーグルアースに映れる絹の道をゆく白き小粒は三蔵法師か
予定地に光の柱のぼらしめ宗教画めくマンションチラシ
新型が枕詞となる日々にカップラーメンまた一個減る
懐かしのCM集を見飽きぬ夜 想い出の中はあたたかいから
二(ふた)文字の字余りも文明らしきかな土屋文明記念文学館
1首目、かつての同級生だろうか。境遇の違いを思わざるを得ない。
2首目、プロの介護士のようにはいかないけれど精一杯に介護する。
3首目、下句に発見がある。万葉集の頃はあまり長生きしなかった。
4首目、おむつを換えている場面。「流木のような」に実感がある。
5首目、貧乏の象徴なのだが子供心に美味しそうに見えたのだろう。
6首目、SF的な感覚の冴えた一首。夏目雅子のイメージもあるか。
7首目、よくあるタイプのチラシだが、なるほど宗教画っぽいのだ。
8首目、上句が面白い。「コロナウイルス」の前に必ず付いていた。
9首目、下句のストレートな言い回しが印象的。現実生活との落差。
10首目、施設名を7・9音と捉えた。文明には字余りの歌が多い。
私も一昨年母を亡くし今は父が施設に入所している状況なので、いろいろと身につまされる点が多かった。
2022年8月21日、短歌研究社、2000円。


