日華事変(日中戦争)の始まった1937(昭和12)年から敗戦後の1946(昭和21)年までの間に著者の発表した文章35篇と座談会1篇を年代順に収めた本。文藝評論家の小林秀雄が戦時下に何を考え何を語ったかがよくわかる一冊となっている。
現在の目で見て当時の小林の文章の問題点を批判するのは簡単なことだろう。でも、そんなことにはあまり意味がない。
大切なのは、国内や世界の情勢がどのように展開していくか予想の付かない中にあって、彼が真摯に考え続けリアルタイムに自らの意見や態度を表明したという事実だと思う。
文学は平和の為にあるのであって戦争の為にあるのではない。文学者は平和に対してはどんな複雑な態度でもとる事が出来るが、戦争の渦中にあっては、たった一つの態度しかとる事は出来ない。戦いは勝たねばならぬ。
文学は創造であると言われますが、それは解らぬから書くという意味である。予め解っていたら創り出すという事は意味をなさぬではないか。文学者だけに限りません。芸術家と言われる者は、皆、作品を作るという行為によって、己を知るのであって(…)
扱う対象は実は何でもいいのです。ただそれがほんとうに一流の作品でさえあればいい。そうすれば、あらゆるものに発見の喜びがあって、どれを書いても同じです。音楽でも、美術でも、小説でも、それが西洋のものであれ、日本のものであれ、ともかく一流というものの間には非常に深いアナロジーがある。
他にも興味深い個所が数多くあった。さすがに小林秀雄だな。
2022年10月25日、中公文庫、1000円。