2025年05月26日

伊藤左千夫『野菊の墓・隣の嫁』

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伊藤左千夫の小説「野菊の墓」「奈々子」「水害雑録」「隣の嫁」「春の潮」の5篇と上田三四二・土屋文明の解説、年譜を収めた本。

昨年、葛飾柴又の寅さん記念館を見に行ったのだが、記念館の裏手が江戸川で、かつて「矢切の渡し」のあった場所だった。

https://matsutanka.seesaa.net/article/503565425.html

そこを渡った先が「野菊の墓」の舞台で文学碑もあると知って、初めてこの有名な本を読んでみた次第。

僕の家というは、松戸から二里ばかり下って、矢切の渡しを東へ渡り、小高い岡の上でやはり矢切村といってる所。

主人公の民子と政夫は短歌の話もしている。

「何というえい景色でしょう。政夫さん、歌とか俳句とかいうものをやったら、こんなときに面白いことがいえるでしょね。(…)」
「僕は実は少しやっているけど、むずかしくて容易にできないのさ。(…)」

左千夫の小説をきちんと読んだのは初めてだが、どれもなかなか面白かった。左千夫の短歌と小説について、二人の解説者は次のように書いている。

いま人は左千夫を知るのに、歌人としてよりは、むしろ小説家として知ることのほうが多いのではないだろうか。そのことを、歌人左千夫のために惜しむには当たらないかもしれない。が、縁あって左千夫の小説になんらかの感銘を得るほどの人は、いつか、彼の文学の故郷ともいうべきその短歌をも顧みることが、左千夫理解のためには必要だと思われるのである。
(上田三四二)
結局左千夫は小説家ではなく、短歌作者であるということは、この比較でもますますはっきりしてくるのであるが、両者をあわせ読むことによって、われわれは人間左千夫というものに対する理解を深くすることには、非常な便宜があるように思われる。
(土屋文明)

左千夫の小説に対する評価は二人の間で微妙に違っている。そこには、上田が左千夫と同様に短歌と小説の両方を手掛けていたのに対して、文明はほぼ短歌一本だったことも関係しているだろう。

1966年3月20初版、1993年7月20日改版40版。
角川文庫、300円。

posted by 松村正直 at 14:52| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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