1976年に文藝春秋社より出た単行本の文庫版。
初出は「文藝春秋」1968年1月号〜12月号。
「風土性に一様性が濃く、傾斜がつよく、その傾斜が日本歴史につきささり、なんらかの影響を歴史の背景にあたえたところの土地」を選んで旅をしたエッセイ集。
訪れたのは、高知、会津若松、滋賀、佐賀、金沢、京都、鹿児島、岡山、盛岡、三河、萩、大阪。
司馬の文章は読んでいて心地よい。話題が縦横無尽に展開し、時に脱線したりしながら、大事な核心らしきものを浮き彫りにしていく。
藩主山内家の祖一豊は尾張人であり、遠州掛川から関ケ原の功によって一躍土佐二十四万石に封ぜられたが、その入封にあたってその新規の家臣団は上方以東において徴募し、非土佐人をもって編成し、それをもって入封した。このため土佐長曾我部氏の遺臣と号する土着土佐人との間に、潜在的、ときには顕在的抗争が三百年くりかえされた。
芦屋の近江人たちは上女中はかならず近江からよぶが、どころが水仕事をする下女中は播州(兵庫県)の田舎からよぶ。播州こそいい面の皮だが、これが近江人の近江至上主義であり、近江共栄主義であり、江頭教授のいうところの「華僑の風習に似ている」ところであろう。
なにしろ八戸といえば南部氏上陸の地で、いわば南部氏にとって発祥の聖地であり、鎌倉期以後ずっと南部領であり、江戸時代は盛岡の「大南部」という呼称に対して、「小南部」とよばれ、支族南部氏二万石の城下町だった。明治政府はなさけ容赦もなくこれを青森県に追いやった。
取り上げられている町にはほとんど行ったことがあるので、町の風景を思い出しながら懐かしく読んだ。
2010年2月10日新装版第1刷、2024年5月25日第18刷。
文春文庫、710円。